第6話:援護射撃。

僕はめでたく成瀬さんとのデートにこぎつけた。


ありふれた出会いだったかもしれない、でも現実なんてそんなもん。

劇的な出会いやドラマチックな出会いなんて、そうあるわけじゃない。


僕は勇気を出して思いきって彼女を デートに誘った。

嬉しいことに、彼女の答えはイエスだった。


でもこののデートの誘いに彼女がすんなりイエスと言った理由にはどうやら

僕も知らない伏線があったようだ。


後で彼女から聞いた話だが、彼女も僕のことが気になっていて、 会社の

社長さんに僕の正体を聞いていたらしい。

彼女の方も僕に目をつけていたことになる。


会社の社長さんは僕のことを「とっても真面目でいい青年」って言って

くれてたらしい。

僕は社長さんとは付き合いが長いから・・・フォローしてくれたんだろう。

少なくとも彼女がデートでイエスと言ってくれた後押しにはなってくれたこと

は確かだ。


日頃から行いを正していれば神様は見てるんだって思った。


だが、この社長が僕のことをよく言ってくれたことにも、さらに伏線が

あったのだ。

実のところ、僕は心に秘めた思いを誰かに話したくて 一番身近にいる人、

自分の母親に「取引先に素敵な人がいるんだ」ってことを、 さりげなく

打ち明けていた。


どうやら僕の知らないところで母親が彼女が勤めてる会社に電話までして


「うちの息子がオタクにお勤めなさってる成瀬さんのことが素敵な人だと

申しておりまして、つきましてはご紹介など・・・うんぬん」


このくだりは、僕がのちに母親から聞いた話だ。

デートの下ごしらえを母親がしていたなんて、それを社長さんから彼女の耳に

入っていて彼女は、そのうち藍原さんから連絡がくるんじゃないかって、

うすうす知っていたことになるわけで・・・


僕は思った。


道理ですんなりことが運んだわけだ。

なんだか、意を決してデートに誘ったのに・・・まるで俺はピエロじゃないか。

見世物じゃないぞ、まったく。


でも、本心は母親には感謝しかなかった。

もし、母親の援護射撃がなかったら、もしかしたらデートの約束はなかったかも

しれなかったからだ。


僕の情報が彼女の耳に入っていたからこそ、彼女も気を許したんだろう。


母親にしてみれば適齢期をとっくに過ぎてる息子に、いい話があればと必死だった

のかもしれない。

でも、これって過保護だよね。

僕は彼女にマザコンって思われてやしないか、ちょっと心配になった。


つづく。

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