第27話:思わぬアクシデント。

季節は冬になっていた。

もうすぐ正月。


凛は振袖を着るっていう。

正月に僕のうちに挨拶に行くんだって嬉しそうにしていた。

凛の家も新しい家がとっくに完成していてたから、どこかでデートの待ち合わせ

はしなくてよくなっていた。


あまり深くは話してないが お会いしたご両親も、優しそうでいい人だった。


正月元旦


振袖を着た凛は綺麗だった。

髪も​日本髪が結えるくらい伸びていた。


舞妓さんの髪型についてはよく知らないが 割しのぶとかって言うのかな

そんなふうな髪型を結っていてよく似合っていた。

そのまま京都の街を歩いていても違和感はなかっただろう。


「悠人、明けまして、おめでとうこ」


「明けまして、おめでとう、凛・・・綺麗だよ」


「ありがとう」


そのまま彼女を僕の家まで連れて行った。

僕の両親ともに凛を見るのは今日がはじめてだ。

僕は凛を両親に紹介した。


凛も自分の名前を言って会釈した。

建前上の会話も、済んで、話もはずんで我が家に笑い声が響いた。


どうやら 両親は彼女を気に入ってくれたようだ。

まあ、うちは問題ないとは思ってたけどね。

特に母親が凛を気に入ってくれて


「とってもいい子ね」

「お母さん、ああいう子タイプだわ、性格よさそうだし・・・」


そう言ってくれた。

まあ、あなたが半分キューピットなんだけどね。


でもこの日、ことは思わぬ方向に向かって言った。

バカな僕のせいで・・・。


それは彼女を送っていく途中のこと・・・僕は振袖の凛に我慢できず車を

止めて彼女にキスをした。

チュッくらいにしとけばよかったのに・・・デープなやつをやっちゃった。

だから助手席の彼女が少しのけぞった。

その際、シートのヘッドレストで結った髪を押し付けてねじって

しまったらしい。。


「悠人・・・」


「あ、ごめんね」

「あ〜〜〜〜ちょっと髪が乱れたみたいだ」


髪を結ってる後ろの髷「まげ」のあたりが、少しほつれてた。


「大丈夫」・・・


「これ、まずくないか?」


「なんとか誤魔化すから」


でも、それが大丈夫じゃなかった。

家に帰った彼女の髪を見て一番に気づいたのは母親だったらしい。


「どうしたのその髪?」


「ちょっと車を降りるときひっかけた」


へたくそな言い訳だった。


とうぜん母親は何かを疑った。

父親はぼ〜っとしてるが、母親というのは、そう言うところは敏感らしい。


うちの子は箱入りなのに、何かされたんじゃないかと疑ったのだ。

的中してたけど。

彼女には一つ上の兄がいて、ちょうどその日も家にいて


「おまえ、今付き合ってる男に騙されてるんだよ」


って言われたらしい。


で、家族会議で、もうその男、つまり僕。

僕と付き合うことをやめなさいと・・・なにかあってからでは遅いと言う

ことでそういう結論に達したらしい。

およよ・・・キスしただけで、そんなことになってしまった。

全部、僕が悪いんだ。


とうぜん彼女は泣いた。

泣きながら僕に電話をかけてきた。


なぐさめようもないが、しかたない、彼女はなにも悪くない。

責任は僕にある。

それなら、しばらくは待ち合わせ場所を決めて、凛の両親に黙って付き合おう

ってことになった。

今更会えないなんて考えられないから。

ほとぼりが冷めた頃、改めて僕が挨拶に行くからってことでその場を収めた。


せっかく彼女のことを僕の母親が気に入ってくれたのに・・・。

欲望にかられて魔が差したとは言え、大失態だった。


つづく。

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