第28話:ふたりだけの住処。

それから、しばらく僕らは凛の両親に内緒で付き合っていた。

でも、薄々気づいていたかもしれない。

気づいていて見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。


だって最近は土曜日も日曜日も娘が友達と遊びに行くって家を開ける

んだから おかしいと思うよな・・・。


だけど凛は両親から、まだ付き合ってるのか?とは言われない。


まあいい、ばれたら素直に謝ればいい。

僕たちはもう離れられない存在になってるんだから。

いざとなれば、凛を連れて家を出ればいいだけの話だ。


そんなことがあったからって訳じゃないけど 僕はこの年まで無駄遣いも

せずもらった給料は全部 母親に渡していた。

唯一、買ったものは好きだったバイクくらい。


あとは全部母親が貯金してくれてたらしい。

だからそのお金を元に中古だったけど凛のためにマンションを買った。


それは僕と凛のためのふたりだけの住処。

もし凛のご両親とトラブったときは ここの逃げ込めばいいと思った。

テレビと小さな食卓とソファーとベッドを買った。


ベッドは絶対いる、しかもダブル・・・畳の上でもできなくもないけど

凛の背中がアザだらけになるだろうからね。

そして、そのマンションがホテルの代わりになった。

けっこう出費だったホテル代も、それで浮いた。


「マンションなんて高かったでしょ」


「中古だから・・・500万くらいかな」


「古いからさ、期待しないでね、あんまり綺麗じゃないから」


「大丈夫だよ、少々のことなら驚かないから」


そのマンションは4階建で全部で6棟あって僕と凛の部屋は二階の2LDK。

和室がふた部屋と洋室のダイニングリビングに キッチン、バス、トイレ。

と言う間取りだった。

ふたりで暮らすには充分だった。


向かいの路地には、小さな喫茶店もあった。


「わ~すご~い、結婚したら悠人とここに一緒に住むんだね」


凛は嬉しそうに部屋の中を見て回った。


「そうだよ、ここから僕と凛の新しい生活がはじまるんだ」


その頃には二人とも結婚ってことを意識し始めていた。

凛はまだ学生だったけどね。

凛が卒業したら結婚しよう、 そう思っていた。

そして凛のご両親に内緒のまま 数ヶ月、僕も凛も平穏な日々を送っていた。


マンションで過ごすようになって、なんだか同棲してるみたいだった。

もちろん僕はいつものように彼女を家に送っていった。

穏やかな日常が帰ってきた。


もうそろそろ凛の両親に最交際させてって 進言してもいいかな。

付き合ってることは、もしかしたら とっくにバレてるかもしれないけど、

ちゃんと筋は通したほうがいいだろう。


僕は考えた。


そして凛に言った。

前に付き合ってた人から手紙をもらったと言って お父さんとお母さんに、

僕が書いた手紙を見せること。


「この手紙を僕がポストに投函するから 手紙が届いたら凛が取ってそれを

お父さんとお母さんに見せて。


その便箋には凛の家の住所と父親と母親の名前が書いてあった。


「なにこれ?」


「僕の誠意」


その内容は、


拝啓

(突然、お手紙を差し上げて驚かれたと思います。

実は、お父さんとお母さんにお願いがあってお手紙を差し上げました。


僕は以前凛さんと、お付合いさせていただいてた藍原 悠人と申します。

お嬢さんとは一度はお別れしたんですが、その後もお嬢さんのことが

忘れられずにいます。


もしお嬢さんにどなたか、お付合いなさってる方がいらっしゃらないの

でしたら、もう一度、改めて お付合いさせていただけくわけにはいきま

せんでしょうか?

ぶしつけを承知でお手紙を差し上げました。

なにとぞ、その旨よろしく、お願いします、敬具 )


そして、僕はその手紙をポストに投函した。

凛には余計なことは言わなくていいから、それだけ、ご両親に渡して、

そう言っておいた。


それから、しばらくして凛から連絡があった。


「悠人、やったよ」

「オッケーだって、付き合っていいって・・・・」


「ほんとに? まじで?」


手紙が功を奏したか。

僕の思惑通り、両親が折れた。

人の誠意って通じるもんなんだな。

特にご年輩は、ちゃんと筋を通せば分かってくれるはずだ。


「誠実そうな人ね、お父さんいいんじゃない、お付合いさせてあげたら」


そう言って母親が味方になってくれたらしい。

まあ母親は僕を気に入っていてくれたからね。


めでたく、晴れて両親公認になった。

やれやれだ、肩の荷が下りた気分だった。

ところが・・・これがまたも難題が僕たちを待ち受けていた。


いいかげんにせ~よ・・・まったく。


つづく。

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