第26話:友達のうらぎり。

凛の友達、吉良とのことを僕は凛に話した。

凛はスマホの向こうで泣いた。


最初はすごく驚いてたけど、そうとうショックだったみたいだ。

そりゃ、自分の彼を、こともあろうに仲良くしてた友達が誘惑したんだもんな。


ショックだよな。


僕は凛をなぐさめようと


「だから、昨夜あったことを正直に話してるだけだからね」

「何もなかったから・・・」

「誘惑はされたけど、ちゃんと断ったからね」


「凛、聞いてる?」


「ごめんね・・・」

「・・・もういい」


ってダダをこねた。


「もういいって?」


「ん〜だから、もういいよ」


「清廉潔白、ほんとになにもなかったんだから、信じてよ?」


「信じてる・・・でも・・・」


いつものスネる感じってより、どっちかって言うと落胆した感じに聞こえた。


「だから、僕には君しかいないんだからね、凛」


「・・・・・」


「聞いてる?」


「ごめん、切るね」


そう言って凛はスマホを切った。


次のデートの約束をしないまま切れた。

土曜日、いつもなら朝からデートだったのに・・・。


凛は来ないかもしれない・・・。

別れるなんて言わないよな・・・だって僕は悪くないんだし・・・。


土曜日の朝、僕はちょっとだけ、いや大いに不安をかかえながら凛の

新築の家に向かった。


その頃は僕と凛が付き合ってることは凛のご両親も知っていた。

高校生の娘のことは心配だっただろうけど、ご両親は僕と会って、この人

ならって思ってくれたらしい。

僕の誠意が通じたみたいね。


あと凛のお母さんが、僕をめちゃ気に入ってくれて、まあそれも僕たちの

交際を許してくれた理由の一つかな。

凛のお母さんはイケメンが好きらしい・・・。


なことより凛はもしかしたら来ないかもしれない・・・。

凛の家の近所まで来て僕はそう思っていた・・・。


でも、でも・・・家の前で凛は立っていた。


(来てくれたんだ)


・・・よかった。

ホッと胸をなでおろした。


とりあえず、これで話ができる。

凛が車の助手席に座ったので、僕は言った。


「来ないかと思った」


「悠人のことは信じてる、でも吉良のことは許せない」


凛は吉良のことを普段から、吉良って呼んでるんだ。


「だからあれから吉良に電話をかけて絶交した」

「問いただしたら悠人の言った通りだった」


「いいの?大切な友達でしょ」


「もういいの」


「大事な友達を裏切るような人はもう友達じゃないから」


「なんだか悪いことしたな」


「悠人は悪くないよ」

「そんな子じゃないって思ってたけど人って分かんないね」


「僕は何があっても凛を裏切ったりしないよ」


「うん・・・分かってる」


「でも、電話の向こうで 吉良が言ってたの」

「私の誘惑に落ちない男もいるんだね」


って 。


「私、ちょっとショックだった・・・私だってビジュアルイケてると

自信あったんだけどな〜」


って。


「あんな人はじめてだよ・・・あんたのこと心から愛してるんだね」


って。


「素敵な彼氏だよ、絶対、離しちゃダメだよ」


って言ってた。


「心配かけてごめんね、悠人」

「私、大丈夫だから・・・」


吉良は不幸な女だったのかもしれない。

尻の軽い女には、それなりの男しか寄って来ないんだろう。

そう言う男しか見てこなかったから、知らないから、僕みたいなタイプの男は

はじめてって言ったんだと思う。


吉良が住む世界は僕や凛が住む世界とは違うんだ。

吉良がいなくなっても凛は女子高生だから 他にも友達はいるだろう。

凛は大切な友達を失ったけど、これでよかったのかもしれない。

まあ、そのぶん僕が支えていけばいい。


助手席から僕に愛想笑いをする凛を見た・・・。

よかった、元気になってくれて。


季節は10月、もうすぐ地方祭・・・金木犀の匂いが鼻をついた。

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