第25話:凛の友達。

ここまで、いたって順調よく平和なふたりだった。


でもある日、僕らの間に水を差しような出来事が待っていた。


それは平日の夜のこと、凛から電話がかかってきて


「吉良が彼氏にフラれて落ち込んでるんだけど・・・」

「でね、お酒に酔ってるから、このままほうって置けなくて」


「 私は門限があるから帰らなくちゃ」


「悠人、お願い来て」


どうやら友達を介抱して家まで送って行ってほしいってことらしい。


凛が親しくしてる女友達「吉良裕子」


凛の頼みを断るわけにはいかないから僕はすぐに車で教えてくれたスナック

まで向かった。

入り口を入るとすぐ右に見えるカウンターの隅の椅子に凛とソバージュで

派手な格好の女が座っていた。


凛とは正反対の女のように思えた。

だいたい女子高生がスナックなんかに出入りしちゃダメだろ?

友達が凛を連れ込んだのは分かってる・・・凛は自分からスナックになんか

入る子じゃない。


その子「吉良」を見たとき、なんとなくだけど嫌な予感がした。


「ごめんね」

「この子が、吉良 裕子」


その女は後ろを向いたまま軽く会釈した。


「この子酔ってるから、お家まで送ってあげて・・・」

「私はタクシーで帰るから」


「分かった、気をつけて帰るんだよ」


僕は凛のほうを送ってやりたかった。


「君大丈夫??、送って行くから・・・」


「ごめんなさい」


そう言って、その友達「吉良 裕子」はふらふふしながら立ち上がった。

スナックを出た僕らは吉良を僕の車に乗せた。


「お願いね、ごめんね、悠人」


彼女は済まなそうにして呼んであったタクシーで帰って行った。

吉良 裕子を乗せた僕は 彼女の家の場所を聞いた。


「家はどこ?教えて、送って行くから」


そう言うと 家には帰りたくないって言う。


「酔いを覚ましたいから、どこかに連れてって」


って言った。


凛と違う女性と、ふたりっきりであまり話はしたくなかったけど

家のありかを言わないんだから、しかたない。

僕は知ってる埠頭まで車を走らせた。


岸壁の淵に車を止めて


「ここでいい?」


って聞くと、裕子はいきなり僕にもたれかかってきた。

びっくりした僕は、吉良を引き離そうとした時、彼女の口から

信じられない言葉が・・・


「抱いて」


って声が聞こえた。


「えっ? 何?」


今度は聞こえるように


「ホテルに連れてって」


そう言った。


僕はちょっとパニクりそうになった。

おいおい、それってセックスしようって意味だよな。

待て待て待て・・・

それはダメだろう。

友達の男を寝取ろうってか?

それマズいでしょ。


「それは無理だよ、悪いけど、できない・・・ごめんね」

「僕には凛がいるから、そんなことできるわけがないでしょ」


・・・しばらくしらけた空気が流れた。


すると


「いくじなし・・・」


吉良はぼそっとそう言った。


「悪い、家まで送ってくよ」


いくじなしだろうが、ろくでないだろうが これってオッケーしたら浮気だよ。

たいがいの男は誘惑に負けて落ちちゃうんだろうが、僕はそんなことはない。

僕は間違ったことは嫌いなんだ。


人に後ろ指差されるようなことをすれば、負い目を背負うことになる。

バレないと思っても、結局バレる・・言い訳をしても、 どこかつじつまが

合わなくなるもんだ。


後ろめたいことしといて何事もなかったような顔して凛とは会えないよ。


「ありえないだろ?」


「分かった、ごめんね、家まで送って」


吉良 裕子はあっさり諦めた。

僕の嫌な予感は、たぶんこれだったんだ。


吉良から聞いた彼女の家に着くまで、ふたりとも一言も言葉を交わさなかった。

沈黙のまま吉良家まで送って行った。

彼女はいきなり車のドアをかけて勢いおいよくドアを閉めるとお礼も言わず

振り向きもせず走り去って行った。


このことは凛には黙っておこうかと、一時は思ったけど吉良と僕が二人っきりに

なった時間は凛も知っている。

ちゃんと話して、なにもなかったってことを凛に伝えておかないと。


先行き、いらない誤解を招いても嫌だったし。

吉良の取った行動は、友達であっても凛にはちゃんと言っておこうと思った。

たとえ、それで凛と吉良との友人関係が壊れたとしても・・・。


つづく。

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