第31話:そして卒業。

そんなこんなで季節は3月。

歳はまだ18才だけど、ついに凛も社会人になる。


凛は大学へは進学せず、地元で就職が決まった。

大阪が本社のバルブの製造会社。

彼女の勤め先は、その会社の出張所になった。


よかった。

大学なんて行かれたら、いつ一緒になれるか分かったもんじゃない。


それに都会の大学とか行かれたら遠距離になってしまう。

遠距離なんてもう耐えられるはずない・・・。

ああいうのは余計なことを考えて疑心暗鬼になるからダメなんだ。

だから、就職してよかったよ。


そして卒業の日。

その日はめちゃいい天気に恵まれた。


凛の卒業式に僕は車で迎えに行った。

男女共学だったが、毎年卒業式には校門の前にずらっと車が並ぶんだ。


男子が女子高生目当てにやってくるんだな。

案の定校門の前に到着すると、カッコいい車が何台か並んでいた。

近所迷惑になるので学校の方も規制していたが無駄だった。


だから校門からだいぶん離れたところに関係ない人みたいに こっそり車を

止めて凛がでてくるのを待っていた。

やがて賑やかな生徒の笑い声が聞こえてきた。


終わったんだ。


車から降りてしばらく待っていると何人かの生徒にまじって学生姿の凛を

見つけた。

うそみたいな話だが、凛の学生服姿を見たのは これがはじめてだった気がする。


制服の天使は輝いていた、眩しすぎて、涙がでそうだった。

何人かの友達と賑やかに出てきた凛、僕の目立つメタリックブルーの車を見つけて

手を振った。

僕も手を振り返す。


駆け寄る彼女。

ドラマなら、やっぱりここはスローモーションだろ。

僕は僕の天使をエスコートようと凛を迎えた。

向こうにいた生徒が僕らを見つけて、囃し立てる・・・ 照れる凛、顔が真っ赤に

染まっていた。


「卒業おめでとう」


「ありがとう」


母親を置いてきぼりにして出てきたんだろう。

挨拶くらいはしたほうがいいと思ったが


「いいいから、恥ずかしいから、行こう」


「でも・・・ 」


「いいの」


これからは見ることなくなる凛の制服姿を目に焼き付けて記念写真を撮った。

よく考えたら僕たちのツーショットはあまり残っていない。

これからは思い出と一緒に写真も残していこう。

本当に可愛かった、制服姿の彼女。

このまま、ここにいたら野次馬の餌食になりそうだったので そうそうに退散した。


凛、卒業おめでとうのサプライズ用意してるからね。

マンションに直行する前にまずお祝いしなくちゃ。


つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る