第30話:別れる理由。

ある日凛は僕に突然別れるって言って来た。


その理由は凛のひとつ年上の兄が鑑別所に入るかもしれないって話らしい。

凛は兄のことも心配だがそのせいで僕と自分の間にもシワ寄せがくるんじゃ

ないかって心配している。


「暴走族の兄がいて、警察に捕まったなんて悠人にも迷惑かけるし」

「第一悠人のご両親が知ったら結婚どころか付き合ってることも大反対されるよ」


そう言って凛は泣きべそをかいた。


「だから別れるって言うの?」

「凛のにーちゃんが、やんちゃしたからって別れる理由になんかならないよ」 「凛、落ち着いて聞いてね」

「そんなことで別れる必要なんかないだろ」


そんなことで別れてたらキリがないから?


「身内に不届き者がでるたびに・・・ごめん凛のにーちゃんのことじゃないから」


「いいよ、不届きもので」


「身内に、素行の悪い・・・」

「なんていうか・・・要するにあれだよ」

「トラブルがあったらふたりで協力して乗り越えていけばいいだけことだよ」

「一人で考えこまないこと」

「ことを荒立てて、パニクらないこと」


「大丈夫、僕の両親は僕が説得するから」

「それに、このことは僕の両親の耳に入れなければ済む話でしょ」

「もしバレたら、バレた時のこと」

「なんとかなるって」


「きっと警察なんて出てきたから、凛はびっくりしたんだよね」

「あのさ僕だって立派な前科者なんだよ」

「無免許で原チャに乗っててポリに捕まって家庭裁判所まで言って始末書

かかされたし・・・」


「うそ」


「ほんと」


「だから、どってことないって」

「お兄さんも自分のことは自分で責任取れる歳なんだし少しは親に迷惑かける

だろうけどね」

「でも、僕にも、すずにも迷惑なんてかからないの」


「分かった?」


「分かった」


「よし、もう別れるなんて言わないよね」


「言わない」


「僕たちは別れない・・・いいね」

「ほら、元気出して」


「笑って」


「そんなすぐには笑えないよ」


「じゃ〜やっぱり別れようか?」


「やだよ、今、別れないって言ったばっかじゃん」


凛はふくれっ面をした。


「せかっくの可愛い顔がブスになってるぞ」


「もう、いい・・・やっぱ別れる」


「分かった、分かった・・・ごめん、ごめん」


「あのさ、何かが一件落着したら、お祝いするでしょ」


「そうだね・・・」


「やろうか僕たちも・・・」


「なにするの?」


「エッチ・・・」


凛は笑った。


凛は凛なりに責任を感じていたんだろう。

僕と「別れるってことで全部精算するつもりでいたんだ」

でも少しは冷静さを取り戻したかな。


まだまだお子ちゃまだ。

結局、凛の兄は家庭裁判所の判決で執行猶予1年、観察付きで釈放された。

1年悪さをしなければ罪は帳消しになるわけだ。

だから犯罪者のレッテルは張られない。


それから数週間後 ことは大きな問題にならず、彼女の兄も暴走族を卒業

したらしかった。

今は父親と同じ会社に雇ってもらって真面目に働きだしたらしい。

何事も終わってしまえば、あとの祭りで静かになるもんだ。


そんなことで僕たちは別れたりはしないし

僕も彼女を離したりはしない。

僕の彼女を愛する気持ちに揺るぎないんだから。


そういう問題も含め、僕たちの関係にも徐々に現実味が帯びてきた。

ふたりだけの世界の中で楽しんでさえいればよかった はずなのに。


社会人として生きていれば、そういうわけにもいかなくなる。

できれば、誰にも邪魔されずにふたりだけの世界に 閉じこもっていたい

とさえ思う。


愛があればというが、愛を貫くには覚悟がいる。

愛だけで愛を全うするのは難しいこともある。

人が多ければ多いほど人間関係を形成するのは難しい。


付き合ってるだけのときはいいが、いざ結婚となると、ふたりだけの問題じゃ

なくなる。

親兄弟、親戚、そのあたりを、まずクリアしなければいけない。

だいたい親戚のおばちゃんとかは要注意だ。

できれば、誰もいないところで、誰の干渉も受けずにふたりっきりで、結婚

できればいいと思うんだけど・・・。


そうもいかないんだな。


つづく。

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