第16話:天使の涙。

僕と凛が付き合い始めて3ヶ月は経っていた。

すでに凛は18歳の誕生日を迎えていてどこの恋人もするように僕はサプライズを

考えた。


僕の仕事場の斜め前にあるお菓子さんに頼み込んで 自作のお誕生日ケーキを作らせてもらった。

そういうのは家で作るより、プロについてもらうのが一番だ​からだ。


それからバックミラーに吊るす玉。

凛が紐をひっぱると「お誕生日おめでとう」と書いた垂れ幕が降りる仕組み。

そして最後にプレゼント。


「ピエールバルマンのイヤリングとネックレス」


(さほど高級品じゃないけど、ささやかな僕の気持ちを込めて)


そして凛は僕のサプライズを喜んでくれた。

でもバックミラーに吊るしたクス玉は紐引っ張っても割れなかった。

僕はしかたなく自分の手でクス玉を割った。

その失敗が凛に受けてくれた。


特に手作りケーキは格別。

もちろんピエールバルマンも・・・ そういうのも何もかも車の中だった。


だから、僕はそろそろ二人だけで落ち着いて一緒に過ごせる場所が欲しかった。

僕の家も凛の家もつねに誰かがいるから・・・。


それに恋人同士なら最終的にお互いを確かめたくなるのが自然の流れ。

僕は凛が未成年だからということもあってそのことは我慢していた。


でも凛はもう18歳、立派な成人。

彼女の同意さえあればセックスしたってもう犯罪にはならない。

学生っていう壁はまだあるんだけど・・・。

もう、したっていいんだって思うと 凛を抱きたいという気持ちが日ごとに

膨らんでいった。


ある日、凛を迎えに行くと、車の助手席に座った凛が、いきなり泣き出した。


「え?・・・なに・・・なに泣いてるの?」


「凛・・・なにかあったのか?」


いきなり凛が泣き出したので、僕はパニクりそうになった。


凛は泣くばかりで・・・僕には意味が分からなかった。


「泣いてちゃ分からないだろ?」

「ちゃんと僕に分かるように説明して・・・凛」


凛は泣きじゃくりながらボソッと言った。


「私のスマホにかかってきたの・・・」


「え?・・・なにが?・・・誰からかかってきたって?」


「高校一年の時、私を暴行した人」


「暴行?・・・暴行って」


「ちゃんと説明して・・・驚かないから」


凛は涙を拭きながら話し始めた。


「私の友達に・・・女の子ね、吉良 裕子って子がいるんだけど」

「私と悠人のことも話してるから知ってるんだけどね」

「吉良は今は高校やめてスナックに勤めてるの」


「それでも私たち、まだ時々会ってて・・・でも吉良はあまり素行のよくない

友達とも付き合いがあって・・・その中の男が、私をスナックの

個室に連れ込んで暴力ふるったの・・・」


「私をレイプしようとしたんだよ・・・」

「殴られて蹴られて・・・抵抗したけど向こうの方が力強くて」

「逆らったらなにされるか分からないと思って・・・」


「レイプだって?」

「その・・・その男に凛・・・レイプされたのか?」


「そうなる寸前に吉良が部屋に入ってきて助けてくれた」

「暴行は受けたけど・・・レイプはされてない」

「でも、そいつから二日前、私のスマホに連絡があって会えないかって」


「なんで私のスマホの連絡先、そいつが知ってるのか分かんない」

「で、すぐに切ったんだけど・・・私、怖くて・・・悠人どうしよう?」


「そいつの着歴まだ残ってるだろ?」

「僕がそいつに電話して、二度と凛につきまとうなって釘さしてやる」

「ふざけるなよ・・・そんなやつ許せるか」


「スマホ貸して」


凛は僕に自分にスマホを渡した。


「こじらせないでね、悠人に危害が及んだりしたら心配だから」


「大丈夫だよ、僕には切り札があるから」


凛を疑うわけじゃない・・・凛はレイプはされなかったって言った。

でも実際、凛がどこまで暴行を受けたかは凛しか知らないことだった。


もしそうだったとしても僕は、そのことを凛に問いただしたりしなかったし、

凛を信じた。

疑ったり責めたりしたら凛をさらに傷つけるだけのことだから・・・。

こんな時こそ逆に彼女を優しく包んでやること、それが恋人としての自分

の責任だと僕は思った。


つづく。

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