第15話:涙の海で抱かれたい。

「ね、凛、ひとつ聞いていい?」


「なに?」


「あのさ、僕と一緒にいて一度でも退屈って思ったことある?」


「ないよ、悠人といる時が一番楽しいもん」


「ほんとに?」


「なんで、そんなこと聞くの?」


「ん〜いや、とくに意味はないんだけど・・・ちょっと聞いてみたかっただけ」


「ないよ、あるわけないじゃん」


「よかった・・・ないんだ、安心した」


「私、水着に着替えて来るね」


そう言って凛は海の家の更衣室に消えていった。

しばらく待っていると水着に着替えた凛が、はずかしそうに更衣室から出てきた。


下がフリルになっていて、色はマリンブルー系って言うのかな、 それに

白のマイビスカス?の花柄のセパレート・ビキニ。

水着の天使は、ひときわ眩しかった。

泣けそうなくらいに・・・。


「どう?」


凛はくるっと周って見せた。

僕はおもわず親指を立てた。


「凛、可愛い・・・最高」


「ありがと」


僕はTシャツだけ脱げばよかった。


「悠人も、カッコいい・・・悠人はいつだってカッコいいけどね」


「凛もね・・・カッコいい、んじゃなくて可愛いよ」


凛はすぐに僕の横に座って、僕の左腕に軽くしがみついて


「幸せ」


って言った。


(幸せなのは僕のほうだよ)


凛は僕の横に座る時はいつでも左側。

車では助手席に座ってるから、左側に座るのが普通になってるんだ。


「離さないでね」


凛はそう言った。


「離すもんか・・・絶対に・・・」


僕は周りを確かめたあと、凛を下から覗き揉むようにして彼女のクチビルに

チュってした。


砂浜でラブラブなカップルは珍しくもないだろうが、この砂浜にいる

カップルの中で どのカップルよりも僕たちふたりが一番のベストカップル

だろうなって僕は思った。


まあみんな自分のとこが一番ベストカップルって思ってんだろうけど・・・。


スイカを食べたり、かき氷を食べたり、ラーメン食べたり・・・

ビールは・・・飲まなかった。

僕は酒はあまり得意じゃないし、凛は未成年だからね。

ビールの代わりにコーラで乾杯だな。


そして時々、海に入って・・・。 楽しい時間は、あっと言う間に過ぎていった。

僕は幸せだった・・・この夏の海の雰囲気も手伝って僕は凛といっしょに

いることの意味を噛み締めていた。


(僕の彼女は現役女子高生なんだ)


今は歳の差が、僕にとってひとつの優越感になっていた。


「この子が僕の恋人です」


って、言いふらして回りたかった。


「ちょっと泳いでくるね」


そういって凛は砂浜を歩いて行った。

その後ろ姿は、まだ幼いとはいえ、ほどよくバランスの取れた美しい体だった。

僕はこんなに素敵な充実した時間がずっと続いてくれるよう心から願った。


のちのち、起きる出来事のことなど、僕はこの時は知る由もなかった。


夕日が落ちる頃には迎えの船が来る。

ふたりは黄昏に染まる砂浜に座って、沈んで行く夕日を見ていた。

心地いい風がふたりを優しく包む。


凛はまた悠人の左腕にしがみついて頭を僕の肩にもたげて遊び疲れたのか

何も言わず目をつむってる。


この瞬間を記憶に留めておきたかったのだろうか。

それは凛しか分からない。


綺麗な夕日と爽やかな風と愛する人がそばにいる。


(たとえ老いてもこの夏のことは絶対忘れない)


僕は凛を優しく抱き寄せながらそう思った。


この遅い夏の海ももうすぐ、ふたりのいい思い出に変わろうとしていた。


つづく。

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