第36話:ハッピーウェディング。

五月五日・・・結婚式当日。

子供の日は、祝辞を言う人が「お日柄もよく」って言うほど晴れ渡った日だった。


正直言うと僕は披露宴なんてしなくてもいいと思っていた。

ふたりだけで、ひっそり地味にしたかったし、僕としては籍を入れるだけでも

よかった。

でも凛のご両親は娘の晴れ姿を見たかったんだろう。

だから絶対結婚式と披露宴はあげてほしいとの要望だった。

まあ、それが普通だろうな。


娘の晴れ着姿を見たくない親がどこにいるだろうって話。

僕も無理に逆らう理由もなかったので、ご両親のいう通りごく一般的に

ウェディングホールで式と披露宴をあげた。


だから凛は白無垢来て家を出た。

彼女の白無垢も文金高島田も綺麗だった。

僕らは参列者に見守られながら、そのまま和装で式を挙げた。


そして披露宴が始まる前に僕は二階の控え室から階段を降りるとき

ウエディングドレスの凛とすれ違った。


もし映画のワンシーンだったら、ここは絶対スローモーションだったに違いない。

ウエディングドレスの彼女はまさに純白の天使だった。

そのまま外に飛び出して、みんなに見せて回りたかったくらい。


きっと今日の凛は今までで一番輝いていたかもしれないって思った。

僕は思いっきり、凛を抱きしめたかった。


披露宴には凛の高校時代の同級生もお祝いに駆けつけてくれた。

余興を詳しく書いたところで退屈なだけだからやめよう。


それに残念ながら忘れられないようなサプライズはなかったしキャンドル

サービスの時、ホールの係りの人がBGMの選曲を間違えたり、そういう

ハプニングはあった。

強いて言うなら参加者に囃し立てられて写真撮影のために何度もキスを

させられたことくらいだろう。


僕も歌を歌わされたりして、でも笑い声の耐えないハッピーな披露宴になった。

退場するとき披露宴参加者全員で1本の花道を作ってくれた。

みんなに祝福されながら、僕らはそのまま退場・・・すぐに私服に着替え

何人かの参列者に見送られて式場を退散した。


で、新婚旅行は沖縄。

海外でもよかったんだけどパスポートを取るのに県庁所在地まで行かなきゃ

ならなかったので、めんどくさいねってことで沖縄にした。


沖縄便は明日の昼、沖縄行きの飛行機が飛び立つ予定になっていた。

だから僕たちはマンションで明日に備えて早く寝た。


僕はなにもできなかったから婚姻届は僕の父親がしてくれることになった。

だから、僕は婚姻届は見ていない・・・おやじが出していないと、僕らはまだ

他人のままだろうな。


僕も凛も会社には一週間と二日ほど、休みをもらった。

僕の会社の社長さんから結婚のお祝いだと言ってダイニングテーブルをくれた。

たくさんご祝儀をもらったんだろうが、そういうのは 結婚式の費用に

消えていったんだろう。

僕はご祝儀も一度も見ていないしね。

なんでもいいから、早く凛と結婚して暮らしたかったんだ。


次の日の駅のホームには、親しい人たちがわざわざ見送りに来てくれていた。

何人かの人にひやかされたが、誰がいたのか全員は覚えていない。


みんなに手を振って、僕たちは列車に乗った。

そこで、ようやくふたりっきりになれた気がした。

凛は大役を終えてほっとしたんだろう・・・昼前の列車の中しばらく車窓を

見ていた凛はしばらくするとウトウト僕にもたれて眠ってしまった。

昨日の疲れがまだ取れていなかったんだろう。


僕は過ぎ行く車窓を眺めながら、横で眠る天使を時々気にかけた。

僕も凛も沖縄ははじめてだった。

ツアーにでも参加しようかと思ったが自由が制限されるのが嫌だったので

知り合いの旅行会社に旅行プランを練ってもらった。


つづく。

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