第34話:イブの夜のプロポーズ。

僕はしきたりとか、風習とか、お歳暮とか、お中元とか、そういう型には

まったことは、あまり好きじゃない。

だから、結納も意味のないものだって思ってた。

誰がそんなめんどくさい、しきたりを作ったんだって怒りさえ覚える。


でも、これをクリアしないかぎり僕と凛に未来はないのだ。


「キラいだからイヤです」


なんてこと言ったら、


「娘はやらん」


なんてことを、凛の父親が言い出すと、やっかいだから結納をすることにした。

しきたりも、ひとつのケジメなんだろう。


目録だの縁起物だの結納道具一式、持って行って

しきたりどおり、結納のご挨拶もつつがなく終わって、

玄関まで見送ってくれたすずとすずのご両親に、改めてご挨拶して帰った。

結納、つつがなく終了。


お疲れ様、僕。


10月の16・17・18の三日間、僕らの地元は地方祭で賑わう。

僕も凛を連れて、祭りを見に行った。

とうせん、凛は振袖を着た。

前に凛の着物姿に我慢できなくなってキスなんかしたせいで日本髪の髷を

崩してしまったことがあったから、今回は発情するのはやめた。

それに着物を脱がす楽しみは結婚してからに取っておこう。


僕たちの地方では、祭りがなくちゃ生きていけないって人がたくさんいて、

都会に就職してる若者は正月には帰らなくても、祭りは絶対帰ってくるって

言うくらい盛り上がる祭りだ。


重さ1トンもする山車が街を練り歩く。

それを100人くらいのかきふが(山車のかつぎ手のこと)

金糸銀糸で飾られた山車を一斉に差し上げる、勇壮華麗、豪華絢爛なお祭り。


僕も凛も子供の頃から、どっぷり祭り漬けで育ったので、祭りの時期が近づいて

金木犀の匂いが漂いだすと、気持ちがそわそわする。


あ〜祭りだって思う。


この祭りが来ないと、この町の人たちは一年が終わらないのだ。


さてと・・・盛大に盛り上がった三日間が終わって祭りのあとの静けさが、

なんとなく、寂しい気分にさせる。


そして12月24日、クリスマスイブの夜。

僕と凛は僕たちのために買ったマンションにいた。

そして僕は凛にプロポーズした。

ほんとはしないつもりでいたのに・・・。

凛のたってのご要望だったので、しかたなく・・・。


「普通、プロポーズって結納とかする前にやることじゃなかたっけ?」


「いいの」

「クリスマスイブにプロポーズなんていい記念になるでしょ」


「なんだか、面と向かってプロポーズって・・・今更って感じだな」

「照れるな〜」


「もう、ぶつくさ言わない」


「じゃ〜」


「じゃ〜も、いらない」


「わかった」


凛は眉をひそめて自分のクチに、人差し指を当てた。


「すず、結婚しよう」


「・・・・・なにそれ?」

「え〜そんなありきたりなプロポーズじゃ、うんって言ってあげない」


「ん〜、じゃあ、成瀬 凛様、僕と結婚していただけませんか?」


「真面目にやって、それに、じゃ〜はいらないってば」


「え〜」


「さっきよりは少〜しマシになったけど、ま〜だ普通っぽいかも」


「まじすか・・・めんどくさ・・・」


「なに?」


「なんでもありません」


「よろしい・・・はい、続けて」


なんだか、どっちが歳上なんだか、分からなくなってきてるな〜。

最近一緒にいることで、凛との歳の差のギャップはあまりなくなってきてるような

気がするんだけど・・・。


僕は、凛の前で姿勢を正した。


「では、改めまして・・・」


「僕の名前は藍原 悠人です」

「よかったら成瀬 凛から、藍原 凛になっていただけませんか?」


「はい、ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

「それから、メリークリスマス、悠人」


「お〜そうだ・・・メリークリスマス、凛」


で、もちろんチュッとてしてハグした。

こう言うシュチュエーションだと、このあと、エッチになだれ込んで

行くんだろうけど、凛の帰る時間が、そろそろ迫っていた。


外はクリスマスイブにふさわしく、雪が降っていた。

この時期になるとイルミネーションで飾った家がたくさん増える。

年ごとに派手になって、うちのが一番と、しのぎを削っている。


僕たちのマンションの部屋にも凛が買ってきた小さなツリーが飾ってあった。

可愛いイルミネーションが、ささやか〜に僕たちを祝福してくれてるようだった。

メリークリマス・・・素敵なイブを。


つづく。

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