第12話:凛の事情。

僕は、その後も凛と順調よく付き合ってた。

もう彼女のことを自分の恋人と言っていいかどうか微妙な位置に来てるん

だけど・・・。

恋人未満+αってところか・・・僕はそう思っていた。


凛とのデートは毎回楽しいものだし、まだ付き合って日が浅いとはいえ

一緒に過ごした日々を振り返ってみると、いつもそこに笑顔があった。

まあ凛は、箸が転がっても可笑しい年頃だし・・・。


そしてデートの送り迎えはいつも妙正寺の前。


デートの帰り、僕は「家まで送るよ」と言っても凛は「ここでいいです」

と言って車から降りて帰っていく。

どうして直接家まで送っていったらダメなんだろうといつも僕は不思議に

思っていた。

きっと何か理由があるにちがいない。


いらぬ詮索はやめようと思ったがこの先、付き合っていく以上、隠し事は

気になるしあまりいい気持ちはしない。


ある日、僕は凛にそのことを、さりげなく聞いてみた。

凛は最初は言いたくなさそうにしていたが、いずれ分かる時が来るだろうと

観念したのか、少しづつしゃべりはじめた。


なんでも凛の家は父親が板金屋さんを自営してて、 そこそこ裕福な家庭

だったそうだ・・・。

ところが凛が中学生の時に 父親が大病を患って大きな手術をしたらしい。


手術は成功して良かったのだが、借金を抱えたため仕事場は人手に渡り

自宅もなくなり、それからの凛の家の暮らしは父親の収入がなかったため

母親の稼ぎだけで成り立っていた。


今は細々と借家に住んでると言うこと。

家賃が安いところとなると、いわゆる長屋ってやつかな。

そう言う狭いところに家族4人住んでいる。


だから凛には自分の部屋もない。

お世辞にも綺麗とは言い難い住まい。

そういう現実を僕に見られたくなかったらしい。


ここが私の家ですって、とてもじゃないけど紹介できなかったようだ。


可愛いお姫様は綺麗なお城に住んで贅沢な暮らしをしてるとは限らない

と言うことか・・・。


そんなことがあったんだ・・・理由はよく分かった。

僕は言った。


「お父さん、大変だったね」

「今は?元気なの?お父さん」


「はい、今は元気になって働いてます」


「ごめんなさい、隠してて・・・あの、隠す・・・」


「いいよ、謝らなくて・・・」


「みんな、それぞれ他人には言いにくい事情って持ってたりするもんだよ」


「でもね、全然大丈夫だよ、僕だって子供のころ借家で育って来たんだから」

「それに、それを見せられたからって君への気持ちが変わるわけでもないし」

「何も恥じることなんかないんだよ」

「僕を信じて」

「僕のこと信じられるよね?」


彼女は小さくうなずいた。


「何も心配いらないから、ね」


僕は凛を頭から優しく抱きしめた。

長い間、抱えていた悩みを吐き出したことで、凛は少し楽になったのか

全部話したらお腹が空いたって言った。

やっぱり女子高生だよね。


今は父親も普通に働けるようになって親戚の板金屋さんに勤めているらしい。

新しい家も建築中らしい。

その家が完成したら自分の部屋できるので悠人を連れて行こうと思ってたと

凛は言った。


だから、新しい家ができるまでの間、今のまま妙正寺の前で待ち合わせ

しようってことになった。


「じゃあ、新しい家ができるまでね、いままで通りってことで一件落着」


彼女は嬉しそうにうなずいた。


「じゃ〜何か美味いもの食べに行こう」


そう言って僕は車を出した。


僕は家に帰ってから、凛のことを考えていた。

きっと彼女は苦労したんだろう。

苦労を知ってるわりに卑屈じゃない、ひねくれていない。

貧しくても、きっと暖かい家族に囲まれて素直に育ったんだろう。


いまどきの子にしては珍しく世間ずれしていないように思う。

それに、まだまだ無邪気さを残している。

悪く言えば、思考能力が子供っぽい。

たまにだけど、それがめんどくさ〜って思うときもある。


まあ、それも愛嬌。

誰だって多少はあることだからね。

まだ17才だもんな。

二年前までは中学生だぞ・・・自分はその時って平凡な毎日送ってたよな。

その時出会ってたら・・・僕が33才の時、凛は中学生?・・・え〜。

そう思うと淫行だって僕は思った。


でも凛のその子供っぽいところが僕をちょっとだけ悩ませることになる。


つづく。

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