第8話:デートのゆくえ。

待ち合わせの場所にやって来た彼女はなんと浴衣姿だった。

涼しそうな淡いブルーに白の花柄の浴衣が、彼女によく似合っていた。

めちゃ可愛かった・・・超超可愛かった。


彼女の眩しい浴衣姿を見て僕どぎまぎした。

って言うか、デートがはじまる前に情けないことに撃沈だった。


天使との恋物語がここから始まるのか、今夜一晩で、はかなく終わるのか・・・。 すべて今夜のデートにかかっていた。


「私、この車に乗るのはじめてです」


そう言って助手席に座った彼女は、くったくのない笑顔で僕を見た。

はじめての出会いじゃなかったけど、僕と成瀬さんは車の中でお互いに

自己紹介をした。


「改めまして、僕、藍原 悠人あいはら ゆうとです」


「こんばんは成瀬 凛なるせ りんです」

「よろしくお願いします」


「成瀬さん・・・」

「凛さん・・・っていいお名前ですね、僕好きです」


「ありがとうございます」


笑顔で話す彼女はほんとに可愛い。


「藍原さんってお呼びしますね」


「あ、はい 」

「今はね・・・できたらそのうちだけど悠人って呼んでもらえると嬉しいかも」


「はい、分かりました・・・でも、そのうちね」


「今日は来てくれてありがとうございました、よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


思った通りの感じのいい子だった。

たった、ひとつ問題がるとしたら彼女は17才ってこと。

キャピキャピのセブンティーンだ。

彼女から見れば35才の僕はもう充分おじさんだろう?。

まあ歳の割に僕は若く見えた。


いつもは閑散としてる商店街も土曜の祭りと言うこともあって家族連れ、

カップル、たくさんの人で賑わっていた。

その中に悠人たちもいた。


デートのついでと言ってはなんだが、義理の姉から


「コーヒー豆を買って来て」


って頼まれていたので僕は通りがかりのスーパーに彼女を連れて入った。

コーヒー豆を物色してると、僕の横で嬉しそうにしている彼女がい た。


なんだか、すごく嬉しそうにしてるので


「なに?どうしたの?」


って僕は彼女に聞いてみた。

すると、お姉さんにコーヒーを買ってきてって頼まれて、それを快く買ってる

悠人を見て彼女には微笑ましく感じたらしい。


(そんなことで?)


コーヒーの件は少なくとも彼女には心がホッコリするショートエピソード

だったらしい。

この子だけの感性かもしれないが、女の子のツボって、そんなところにある

のかなって僕は思った。


逆に(そんなことよりデートにだけに集中して) って思われやしないかと

心配したが、そんなことはゲスの勘ぐりと言うものだった。


そこから彼女の緊張も解けたようだった。

彼女は車の助手席で


「私、緊張するとお腹が痛くなるんです」


って言ってい た。


「↑ここ覚えておいて」 天の声


お腹の痛みは緊張がほぐれたことで治ったようだ。

ここでも彼女の人柄が見えた気がした。


北から南へ続く小さな商店街の入り口、僕は彼女にさりげなく手を差し出した。

手を繋ぎたかったからだ。

恋人同士なら誰しもがするコミュニケーションだろう。


まあ、まだ恋人とは言えないけど・・・。

でも、手くらいつないだっていい。


大切な自分の天使が人並みに押されて、見失わないようにね。

僕たちは、たわいもない話で盛り上がった。

心配した歳の差のギャップなど、そんなことはいつのまにか忘れていた。


それどころか、この子とは価値観が同じだとさえ僕は思った。

歳の違いはあっても考えの方向性が同じならそれでいい。

付き合って行くうちに歳の差は徐々に埋まっていくだろう。


僕たちは終始、バカを言っては転げそうになるほど笑った。

彼女は痛い痛いと腹を抱えて笑った。

今度は緊張してお腹がいたくなったんじゃなくて、笑いすぎだった。


こういうのを意気投合って言うんだろう。


金魚すくいもしたし、綿あめも、りんご飴も買った。

安物だけど、彼女が可愛いというので、悠人はイヤリングも買ってあ げた。

出店の前でさっそく両耳にイヤリングをつけた彼女。


うんうん、よく似合ってて可愛いって僕は思った。

何度も言うけど、超可愛い。


僕にとってそれは、心拍数が程よくあがったままの久しぶりに楽しい

時間だっ た。

手応えはあった。

きっと、次につなげることができたはず。

僕の中にあった少しだけの不安は、もう確信へと変わったていた。


つづく。

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