第5話 無限回路
「うむ、この泉の水こそユグドラシルの迷宮に眠る秘宝のひとつ、【世界樹の涙】。 死者すら生き返らせると言われておる、秘宝じゃ。 ちなみに、おまえがもたれ掛かっていた樹がこのダンジョンを形成している本体【世界樹】じゃよ」
これが、秘宝......なんか凄い光ってるなと思った。そうか、このダンジョンの秘宝は、この後ろにある一本の樹木、【世界樹】から生成された泉だったのか。
「これが、SSSランクダンジョンの秘宝......」
「え、わしの庭SSSランクなの!? すげ!? まじかぁー!」
おおっ、と両手をあげ驚いて見せる幼女。ダンジョンの秘宝についてはわかるのに、ここがSSSランクダンジョンだと言うことは知らなかったのか。
「んまあ、そんな訳でー、おまえはこの世界樹に呪われた」
......ん?なんて?
「呪われ、え? なんで? 僕、呪われたの?」
「うん、ばっちり呪われとるよ。 その証拠におまえにユグドラシルのオーラが供給されておるし」
ばちーん!とウィンクを決める少女。そのVサインはなんなんだ。
「そうか、だから......回復魔法を使っても魔力が尽きなかったのか......」
「うんうん、そゆことー! おまえの目にある魔力回路の代わりにユグドラシルの魔力回路が使われとるんじゃ。 無尽蔵なオーラが使い放題! やったじゃん!」
人が呪われたって言うのに軽いな......しかし、ユグドラシルの莫大な魔力が自由に引き出せるだって?
眠っていたこの秘宝はとんでもなく馬鹿げたお宝だったな。
魔力は強さの源。それが無限に引き出せる......すごい。
そういえば、名前はなんていうんだこの子?
「そういえば君は誰なの?」
「わし? わしの名はノルンというぞ」
ノルンか、どこかで聞いたことのあるような。
「ノルン......君はいつから此処にいるの? ここは、世界で最も危険な場所とされている、SSSランクダンジョンだ。 そんなところに君はどうしているんだ?」
「うーむ、この場所にいる理由か。 それはあんまり言いたくはないが......とりま、いつからかという答えは、ずっと前からかの」
言いたくないか。もしかすると僕の様にダンジョンへ捨て置かれた子なのか?
いや、それは考えにくい。ユグドラシルの迷宮は規定で15歳以上でなければ入ることはできない。この子は見たところ10~12歳くらいだろう。まずこの子を連れてダンジョンに入ることはできない。
魔族の類いかとも思ったが、見たところオーラの量も普通の人間と変わらない。
それに着ている物もダンジョンへ来ているとは思えない程の軽装。
黒のフリルがついたワンピースに、同じく黒のブーツ。特別魔力が込められているモノでもない。
それどころか、武器らしきものすら持っていない。
みればみるほどこのダンジョンで異様な存在だな。
「なんじゃ、じろじろと。 おまえ、もしやあれか、少女に欲情するタイプの変態か? ま、まあ、わしくらいの可愛さであれば無理もないのう」
「君は一人なの?」
「いや無視かい! ......このダンジョン、わし以外の人間はおらんぞ」
「......君一人で生き延びてきたの? ずっと?」
「うん、ずっと! わし強いし」
マジでか。強い......この少女が強い?とてもじゃないが信じられない。確かに強さに年齢は関係ないが、それは強力な魔力や神力があっての事だ。
どちらも無いこのノルンがここで生き延びれる程強いなんて思えない。
「あー、なんじゃその目は! 信じられんのか! ......まあ、この体では無理もないの」
「あ、うん、子供だしね」
「お前だってまだ十代半ばくらいじゃろうよ。 まあそれはよいわ。 だいぶ話がそれたが......お前は外に出たいのか?」
外に......外へ出るにはあの魔物を倒さなければならない。
あれらS~SSレートの魔物を倒すとなると、どれ程の年月が必要なんだ?
ましてや、僕はただのヒーラー。戦闘力のある剣士や魔術師ならともかく、ヒーラーにここの魔物を倒せるとは思えない。
たとえとてつもない魔力が引き出せるようになったとしても。
それに考えても見れば、こんな子供が生きていけてるんだ、もしかしてこの最下層、B200は案外暮らしやすいのかも?
この付近には魔物の気配もないし。
それに、たとえ外に出られるとして、出て......どうすれば良いんだ?
冷静になってみると地上へ帰れたとしても、僕はもうAランクパーティーから追放されてしまった。多分死亡届けも出されていて冒険者としての資格は剥奪されてしまっているだろう。
とすれば今の僕はただの捨てられた奴隷。捨てられた奴隷ってのは買い手がつかない。
それでどうやって生きていくんだ?
......ここにいたほうが色々な意味でずっと楽なのかもしれない。僕はもともと人間関係だって苦手だった。
嫌な人との関わりを絶ち、このダンジョンの中で生きて、寿命を迎え死ぬ。
それが一番幸せなんじゃないのか。
僕にもう人は救えない。
なら、もう自分がどうすれば辛くないかを考えれば良いんじゃないか。
「ちなみに」
「ん?」
「ここで暮らすっていうのは有り?」
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