第41話 治癒力とソウゾウ


 リアナは目が覚めたのか、宿からでて外にいる僕の元へ駆け寄ってきた。彼女は心配そうに僕に問う。


「......あ、あの......大丈夫でしたか!?」


「リアナ......うん、大丈夫だよ。 ごめんね、混乱している村人の誘導なんて大変な役目を任せてしまって」


「そ、そんなこと無いです、レイ様の方が......すみません、最後までお手伝いできなくて」


「いや、十分だよ。 本当にありがとう、怪我人が一人も出てない......リアナのおかげだよ」


「そ、そんな、事は」


「あるよ。 君はもっと自信をもっていい」


 リアナがうつむいた。あれ、気分を悪くさせたか?しまった......しつこかったかな。




 それから僕らは宿屋へ、店主さんと子供達とのお別れをするために戻った。


「おはようございます」


「あ、旅人様! おはようございます」


 見れば長椅子に横たわり苦しそうなリズ、そしてそれを心配そうに見ているシュウがいた。


「リズ......どうかしたんですか?」


「そ、それが、ワーウルフに捕まれていたときに体を強く握られていたようで、痛い痛いと。 出来ることは行ったのですが......痛みが激しく、うなされていて」


 助け出した時はそんな素振り見せなかったのに。リズ......興奮状態で痛みに気がつかなかったのか?


 どちらにせよ、僕がよく見なかったからだ......ごめん、リズ。


「シュウは? 何ともないかい?」


「ぼくはだいじょうぶ!」と言うシュウの体を観察する。シュウは本当に大丈夫そうだな。


 その時、リズが目を覚ました。


「おに、ちゃ......かえってきたの」


 彼女は辛そうにしながらも、こちらをみてにこりと笑った。


 それに僕も笑みを返す。


「ちょっと診ても良いですか? 」


「え、は、はい......」


 レイは冒険者時代、膨大な量の医学書を読み漁った。白魔導師は人体構造の把握と怪我、病の知識が必須であり、その知識が多いほど治せる幅が広がり優秀な白魔導師とされた。


 その冒険者時代でも、レイのそれは王都の腕の良い白魔導師を凌ぐ程であったが、パーティーメンバーの白魔導師に対する知識不足によりそれを知るものは少ない。


 ......これは、骨にヒビが......筋肉や内臓は傷ついてはいない。


 オーラによる触診を終え、次に治療。


「ヒール」


 淡い光の粒がリズの背のあたりへと収束する。それらは溶けるように吸い込まれ、光がやがてきえた。


「これでよし」


「......あ、あれ? 痛くない」


 目をパチクリするリズ。


「うそ......た、旅人様は白魔導師様だったのですか!?」


「はい。 あ、でも一応あまり動かさないようにしてくださいね。 治した箇所はまだ脆いはずなので」


「あ、ありがとうございます! 魔族から助けていただいた上に娘の怪我まで......なんと御礼をしたら良いか」


「御礼なんていいですよ。 僕、冒険者でもなければ医者でもないので、代金をとったら逆にまずいんですよね、はは......」


「そ、そういう訳にも......! なにかさせてください!」


 お、おさまりそうに......ないな、これは。


「で、では、今度また村へ訪れた時、一泊させていただくというのは......?」


「そ、そんな事でよいのですか?」


「十分過ぎますよ。 良い宿屋なのは身をもって理解してますからね。 ......それまで家族三人で頑張ってください」


「あ、ありがとう、ございます......」


「ありがとう、おにいちゃん」


「ありがと! おにいちゃん」


 三人の笑顔と御礼を背に僕らは宿を後にした。




 ――村を出て少し歩いたところで、リアナが口を開く。


「本当にレイ様のヒールは凄いですね......」


「ん?」


「......一般的なヒールは、自己治癒力を補助し、高めて怪我の治る速度をはやめるものです......なのにレイ様のヒールは時間が巻き戻ったかのように瞬く間に元通りです......王都の大聖女様でもそれほどの治癒力は......」


 ......まあ、それはそうなんだけど。時間が巻き戻る、か。リアナは良い眼を持っている。


 その感想がでると言うことは、彼女には僕のオーラの流れが見えたのか。


「リアナ、僕のヒールは......」


 そう言いかけた時、師匠の言葉を思い出した。


『おまえのそれ、ヒールじゃないぞ。 全く別の性質のものじゃ......それの情報が広まれば、おまえ、国にも魔族にも狙われ続ける事になるかもしれん。 あまり他言はするなよ』



 ......。



「? どうしましたか、レイ様......すみません、気分を害されましたか?」


「いや、違うよ。 ごめん、僕も少し疲れてるみたいだ」


 そう言い僕は口許を指で触れた。


 ――レイは他の白魔導師を知らない。本来、白魔導師へとなるには小さな頃に白魔導師ギルドへ入り、専門の学園へ入学、基礎を学び、実践訓練を経て初めて白魔導師となれる。


 しかし、レイは冒険者パーティーに拾われて、あてがわれた本を読み、独学でヒールを身につけた。それ故に他の回復魔法を知らないレイにとってはこれが普通のヒールだった。


 それ故に、これが普通の回復魔法だと勘違いし、レイは冒険者時代、一度のヒールに莫大なオーラを消費し続けていた。


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