第40話 お気に入り



「すまない、レイ君だったか。 私は王国騎士軍の青龍隊隊長、タラゼドと言うものだ、階級はルビー。 ......それで、君にもききたいのだが、このアトラが今言った事は本当なのか?」


「えっと......まあ、概ね」


「しかし、それが真実ならばなぜ今それを言う? 訳がわからないのだが」


 僕とアトラは事のあらましをルビーの聖騎士へと伝えた。


「なるほどな......そういう事だったのか」


 タラゼド隊長は目をつむり、思案している様子だった。そしてひとつ頷くと、ゆっくりと目を開き口を開いた。


「......この国の有り様には、確かに私も思うところは多々ある。 国の事情に振り回され民が虐げられている状況も少なくないからな」


 顎に手をあて、頷いた。


「......だが、そうだな......色々と不本意で残念だが、アトラの思いは固まっているようだ。 お前は王都へと連行し、また改めて事情を聴く......それからだな」


「......すみません、俺......」


「いい。 お前の事はよく分かっている......己の正義の為に動いたのだろう、あとは拾った命だ。 ゆっくりと監獄で罪を償え......死だけが罰ではないのだからな」


 そう言ったタラゼド隊長の表情は、言葉とは裏腹に暗かった。


 聞いた話によれば、神力を有する者は騎士であれ誰であれ死刑にはされないらしい。理由はよく分からないが。


「さて、旅人のレイ君。 君にも事情をききたいのだが、いいかな? 疲れている所で悪いが」


「ええ、構いません。 大丈夫ですよ」


「早速だが......君は一体、何者なんだ? ワーウルフ三人とアトラを倒したと言っていたな?」


 タラゼド隊長と、書記をしていた部下が真剣な眼差しで僕を見てくる。


「えっと......い、一応、はい」


「あ、あり得なくないですかタラゼド隊長。 彼が強いのは見ればわかりますが、流石に......ワーウルフとアトラって、SSランク冒険者パーティーでも難しいですよ?」


 あー、ワーウルフはともかく、アトラはかなりの強さだから......確かに並みの冒険者や聖騎士では太刀打ちできないよな。


「そうだな、だがアトラも同じように証言しているからな。 しかし......君、なんだか見たことが」


 じーっと顔を見られる。


「え、えっと......はは」


「あ、君......そうだ、グンキノドンワ! 冒険者パーティーに所属していなかったか!? 白魔導師の子だろう」


 ん、僕の事知ってるのか?


「よ、よく知ってますね」


「いやいや、Sランク冒険者パーティーだからな。 私もルビーの騎士だ、ある程度冒険者の情報はあるぞ」


 え、今......Sランクとかって言った?


「ぐ、グンキノドンワはAランクでは?」


「いや、つい先月あたりにSランクへと昇格したぞ。 だが、残念だったな......ダンジョンでの事故で君の仲間達は」


「? 彼らがどうかしたんですか......?」


「知らないのか? パーティーの殆んどが重症で今は療養中だよ。 まさか、AランクダンジョンにSレートの魔物がいただなんて......不運な事だ」


 ......なんとも複雑な気分だ。


「まあ、しかし君は確か白魔導師で最も優秀な人間だと聞いているぞ。 なぜグンキノドンワを出て旅人に?」


「僕は優秀じゃないですよ。 魔法だって、独学で覚えたのできちんとしたヒールではないし......それに、僕はパーティーを抜けたのではなく、追放されたんです。 役に立たないと言われて」


 タラゼド隊長は目を見開いていた。


「......え、えっと?」


「ふむ......こういうのも何だが、見る目のない者だな。 君を手放すなど」


 ど、どういう意味だ?


 と言うか、それは良いとして......


「......しかし、すみません。 村に神門を起動させられる聖騎士がいなくなってしまいましたね」


「ん? いや、それは君が気にする事ではない。 それに、うちの騎士を一人仮契約させるから心配しないでいい。 正式な神木主はまた後日選出しよう」


「そうですか、ありがとうございます」


「はっはっは、礼を言うのはこちらの方だろう? 面白いな君は」


 タラゼド隊長との会話。僕はずっと不思議な思いにかられていた。彼は聖騎士......しかも位の高いルビーであるにもかかわらず、気さくで話しやすい。


 王国騎士団はその名の通り、王が有する騎士団で、ある種の権力者達であり、ともすれば横柄な態度をとるものも少なくない。


 しかも彼はルビー、上から二番目の上級騎士。僕ら冒険者は見下されていてもおかしくはない。が、タラゼド隊長は違うようだ。


 不思議な人だ......。



「あー、そうそう、所でワーウルフの報奨金だが」


 報奨金?......ああ、報奨金。


「報奨金が欲しくてやった訳じゃないので大丈夫ですよ......もし叶うのなら、そのお金を村の復興に充ててもらえれば嬉しいです」


 その言葉を聞き、驚いた顔をするタラゼドだったが、すぐに笑みを見せこう返された。


「はは、君は本当に優しい男だな......うん、ますます気に入ったよ。 そうだな、村の復興は勿論行うが、それは元より我々の仕事だからな。 それは心配しなくていいぞ」


「......そうですか、ありがとうございます。 よろしくお願いします」


「ふむ」


 タラゼド隊長は何か思案すると、手帳を開きそこにすらすらとペンを走らせた。書き終わると、それを破き僕に手渡してきた。


「えっと、これは?」


「話によれば、君はこれから王都へ行くのだろう? これを銀行へ渡せば金貨三百を引き出せる」


「き、金貨三百!!? ......なぜ?」


「ワーウルフの報奨金代りだ、受け取ってくれ」


「いや、でも、ワーウルフの報奨金は一匹金貨三十枚くらいですよね......さすがにこれは貰いすぎな」


「君はその他にもアトラを止めてくれた......殺さずにな。 それに言ったろう? 私は君を気に入ったんだ。 どうか受け取ってくれないか」


「......では、ありがたく」


「うん、ありがとう」


 うんうん、と頷くタラゼド隊長。


 ......なんだかルビーっぽくない人だな、と頭をかきふと思い出す。


 そういえば、この人、冒険者時代に王都で見たことがあった。あれは確か、僕らの冒険者パーティーの階級がBからAにあがるとき呼ばれた王城内で......一度だけかれとすれ違った事があった。


 その時は青い鎧のダイヤだったけど、この人......ルビーにまで昇格したのか。


「さて、村の復興作業を始めようか......」


 タラゼドさんは椅子から立ち上がり、神門の前に待機していた聖騎士達に指示をだし始めた。


「レイ君、ありがとう。 助かったよ......また、どこかでな!」


「......ええ、お役にたてて幸いです。 では」



 ――もう、空が明るい。




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