第16話 かたりべ


 

 日が暮れないうちに村へと向かうべく歩みを進めていたが、馬車のない二人が明るいうちに到達するのはやはり難しかった。


 道中で魔物に遭遇して戦闘になったせいもあるが。


「よし、今日はここで野営だね」


「......あ、あの、すみません、私が足を痛めなければ」


 リアナは申し訳なさそうに足をさする。


「ん? しかたないよ。 君は歩きなれている旅人でもなければ冒険者でもないんだ、足も痛むさ」


 戦闘訓練は積んでいるが、こうして長距離を徒歩で移動するなんて事、無かったんだろう。


 途中から足を引きずるように歩いていたので、ここで野営をすることにした。


「でも、辺りも闇に包まれて......夜の魔物は恐ろしいと聞きます。 私のせいで......本当にごめんなさい」


「大丈夫。 ていうか、僕も疲れていたし......君が気に病む必要はないよ。 さ、馬車から持ってきたテントをはって野営の準備をしようか」


 実のところ僕はユグドラシルの迷宮からオーラが供給され続けるので、疲れはおろか、体力が尽きることはない。


 けれどせっかくの旅の仲間だ。大事にしてあげたい。


 二人でテントを組み立て、魔石で火をおこし軽い食事をとる。メニューは干し肉。保存食で品質もダメになりにくく、かさばらず持ち運びやすいので旅人や冒険者の旅のお供として良く食べられている。


「ん、この干し肉、香辛料が効いていて美味しいね」


「はい、と、とっても美味しいです......!」


 うん、少しは元気が戻ったかな?にこにこと干し肉を頬張る彼女に僕は懐かしいあの人を思い出す。彼女も元気でいると良いけど。


「それにしても」


「?」


「れ、レイ様はどうしてそれほどお強いんですか?」


「......僕?」


「は、はい......私、訓練の一環で一度だけ王都で上級聖騎士様の訓練試合を見させていただいたんです。 レベルの高い戦闘を観戦し、学べと言われて......確かにレベルの高い試合ではありました。 しかし、レイ様はその騎士様とくらべても......遥かに強いというか......動きが全然違っていて......」


「そ、そう?」


「お、おそらく私の主観なんですけど......上級聖騎士様でもレイ様の動きについていけるお方はいないと......先ほど戦ったベアウルフはDレートの魔物でしたが、俊敏性に優れた魔物と有名です。 そのベアウルフが目で追えないスピードだなんて......本当にすごいです......」


 な、なんかくすぐったいな。ベアウルフは冒険者時代になんどかやりあった事がある。


 確かにその時はベアウルフのスピードについていくのでやっとだったけど、ユグドラシルの迷宮内の魔物との戦闘をへて、今ではベアウルフ程度のスピードでは止まってすら見える。


「ありがとう、ほめてくれて......護衛としても嬉しいよ」


「い、いえ、誉めるだなんて恐れ多いです......! すみません、そんなつもりでは」


 彼女があわてふためいている時、テントの外から何かを引きずって歩くような音が聞こえた。


「......ま、またベアウルフ、でしょうか」


「いや、この気配は......おそらくベアウルフより位の高い魔物だ。 行ってくる」


「え、で、でも、テントには魔除けの呪文が書かれてますよ? だから襲ってはこられないはずで......」


「確かに。でもその効果があるのは一定レベルの魔獣までだ。 このテントに刻まれている呪文であれば、今外にいるやつは簡単に破って襲ってくるよ」


「そ、そんな......外にいる魔獣って、一体何がいるんですか?」


「......臭いと気配からするに、アンデッドテラーかな」


「!? あ、アンデッドテラー!? そ、そんな......何故、こんな場所に」


 驚くのも無理はない。アンデッドテラーは死者の語りべ、ここらには居るはずのない魔獣だ。


 では本来であればどこに分布しているのか?答え、魔王城。




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