第15話 価値


 リアナを改めてみると、十二の少女とはいえ、かなりの美人さんだということに気がつく。


 肩で揃えられている金色の美しい髪、整った顔立ち、大きく綺麗な碧の瞳が特徴的な女性。


 何年かして大人になれば、さぞ美しい女性に成長するだろう。


 まるで人形のように美しい人。そこだけを見ても奴隷としてかなりの値がつきそうな美女だった。......と、人を値踏みするなんて下品な奴だな僕は。


「......」


 自己嫌悪に陥り、はあ、と溜め息を吐く僕。するとそれを心配して、リアナが声をかけてきた。


「ど、どうかされましたか?」


「いや、ごめん。 何でもない」


 とにかく、王都を目指そう。王都であれば奴隷の情報を管理している所があったはずだ。そこでネネの行方を調べよう。


 そういえば、今僕らがいるここ......現在地ってどこなんだ?


「早速だけど教えてほしい。 ここってどこら辺なのかな? 王都は近い?」


「えと割りと近いです。 私が運ばれ競りにかけられる予定だったのが王都にある場所なので」


「そうか、君達は王都へ向かう途中だったのか」


「は、はい、ここは王都から南に位置するサーヴァル領の中部森林......なので、2日程歩けば王都へつくと思われます」


「さ、サーヴァル領......だって?」


「?」


 僕はその地名を聞き固まる。


 サーヴァル領って、僕らが入ったダンジョンの入り口は北のルガルダン領の最北端だったはずだぞ?


 ゆ、ユグドラシルの迷宮は思っている以上に巨大な迷宮だったんだな......。


 この国のはるか地の底に、無数に張り巡らされている樹木の根のようなものなのかもしれないな、ユグドラシルの迷宮というダンジョンは。


 僕がひとり考え込んでいると、リアナが顔を覗きこんできた。


「あの、大丈夫ですか? ......さっきの戦闘で疲れてしまいましたか......?」


「ん? あ、いやそうじゃないんだけど、ってリアナの方が顔赤いけど大丈夫? 熱っぽくないか......大丈夫?」


 リアナの顔が少し赤く見える。


「え、あ、あれ......本当ですね? なんでしょう顔が熱い......?」


 あれ?あれ?と頬を両手で触り体温を確かめるリアナ。身元不明の奴隷でさえなければ、愛嬌もあるしどこへ引き取られてもきっと大事にして貰えただろうな。


「あ、あの、でも、大丈夫だと思います! 目眩や倦怠感などもないので......ご心配おかけして申し訳ありません。 お、王都へ向かいましょう」


 うーん......まあ、僕の目から見ても病では無さそうだな。いざとなれば僕がヒールすれば命は繋ぎ止めれる。大丈夫か。


 さて、となれば早めに出立した方が良い。日が落ちる前に近場の村か町にたどり着きたいし。



 ......何より夜は魔獣が活発になる。



「そっか、了解。 それじゃあ行こうか」


「はい!」


「あ! と、そうだ、その前に......ごめん、ちょっと馬車から衣服を拝借」


 いい加減この血を浴びすぎて真っ黒になった服は着ていたくはない。オーラで覆っているから痛くは無いんだけど、人に見られたら裸足は変に思われるだろうし......襲われた馬車の積み荷を漁るのは心苦しいけど、背に腹は代えられない。


 一応、代金になりそうなモノは置いておこう......ごめんなさい、っと。


 僕は亡くなった人へ祈りを捧げた。


「着れそうなのは......フードつきの旅人の服くらいか。 騎士の予備で積んでいた鎧もあるけど、サイズも合わないしむしろ動きにくいからやめとこう」


「あ、こちらに鋼のロングソードがありますけど、持っていきますか?」



 積み荷の脇に鋼で作られた少し長めの剣が13本立て掛けられてあった。



「僕はロングソードは使ったことがないな。 リアナは使えるの?」


「多少は......一応、短剣、長剣、槍、弓あたりは一通り訓練していますね。 ご主人様の護衛も出来るようにと」


 なんてハイスペックな奴隷なんだ......ていうかそれくらいの力があるなら奴隷じゃなくても生きていけそうだけど。うーん、証さえなければな。


「ねえ、今時の奴隷ってそんな感じなの? 戦闘訓練とか教育をされてから皆売りに出されるの?」


 リアナは首を横にふる。


「いいえ、奴隷がすべてそうというわけではありません。 私のようなのは稀で、だいたいの奴隷は文字も学べずに出荷されます」


「......そっか。 基本的には僕が知る奴隷と変わりは無いってことか」


「わ、私のような奴隷ではお力にはなれませんか? もっと優良な奴隷が必要ですか?」


「ううん、そうじゃないよ。 僕も奴隷だったからさ、気になって。 ......さて、準備も出来た、日がくれる前に安全に夜を明かせる場所まで歩こう」



「は、はいっ」



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