第10話 笑
――ブシュアーーーッ!!
切り口からは噴水のように血が噴き出し、力なくドチャッと倒れた。
「な、なん......よ、よよ、鎧ごと切り飛ばされた、だと!?」
「君たちさぁ、そうやって俺たちの動きに気がつくのは良いけど、兵力散らしたら意味なくない? 君みたいな雑魚をたった二人つけてどうするんだよ、はははっ」
ざ、雑魚......聖騎士の俺が。いや、コイツからすればそうなのかもしれない......今殺された彼も幾つもの戦闘を経験し、死線を越えてきた力のある騎士だった。
それをこれ程までに簡単に......どうする、ここは逃げるしか......そうだ、報告するのが先決か。
そう判断すると直ぐさまバイガンから離れ、走り出した。
「ん? ああ、逃げるの......まぁ」
ブン――ヒュオッ......
ドシャアッ!!!
「――ぬがぁッッ!!?」
凄まじい衝撃。
景色が吹き飛んだかと思えば、気がつけば仰向けになり、地を転がっていた。息が出来ない......ど、どういう状態だ?
いま、俺はどうなって......?
喉の奥から熱いものがせりあがってくる。
「ごばぁっ!!!」
――口から落ちたそれは、真っ赤な血液だった。
鉄の臭いが......俺を......体が、力がはいらな......さ、寒い
――自分の体から赤い海が広がっていく。温かな、赤い海。
こ、これは......俺の、血か......?
さ、寒い......寒い寒い寒い......寒い寒い。
さ む......いや、だ
◇◆◇◆◇◆
――ズギャッ
バイガンは投擲した戦斧を地面から引き抜く。
斧の突き刺さっていたその割れ目から投げられた斧の威力がとてつもないことが伺えた。
それを背後から受け、肩から斜めに切り裂かれた騎士の遺体が転がっている。
「残念。 俺ねぇ、遠距離も得意なんだぁ。 さて、男は不味いから、君は魔獣のエサだねぇ」
バイガンはそういいふりかえる。
その視線の先、震えて立つことも出来ない奴隷の女性がいる。
「君はうまそうだねぇ......見た目も良いし、しばらく飼って楽しんでから食べようかなぁ」
「......た、助けて......」
「いいねぇ、その恐怖にまみれた表情。 たまんないねぇ......いつ殺されるかともわからないなかで、祈りながら奉仕させ続ける。 皆そうだったよ? 助けて下さい、何でもしますと懇願しすがってきた......実際なんでもしたよ。 命がかかるとなんでもできるもんなんだね、人ってさ」
「けれど、ふふふ、あの表情は......裏切られて死を自覚した時の、絶望に染まりながら逝く顔はたまらないんだよねぇ」
「ひっ......た、助けて......お願い、お願いします......」
「ひひっ、その「助けて」が「死にたい」に変わるまで、可愛がってあげるよ」
――ガサッ
女を捕らえようと一歩近づいた時、女のすぐ後ろの茂みから何かが近づいてくる気配と音がした。
やがて、がさがさと音が大きくなってくる。それに伴いとてつもない血の臭いが強まってきた。
「......俺の縄張りを知らない魔族か? 命知らずだねぇ」
しかし、その草むらから姿を現したのは、魔獣でも魔族でもない、驚くべきものだった。
「......あ、こんにちは」
「え、あ......」
それを見て目を丸くする奴隷の女。バイガンは問いかけた。
「......君は何かな?」
「お取り込み中すみません、道に迷ってしまって......彼女に近くの人里まで案内してもらっても良いですか?」
「良いわけ無いだろ」
生い茂った草わらから現れたのは、ぼろぼろの衣服を着た髪がほのかに紅い人間だった。
「......ですよね、はは」
と、その人間は困ったように微笑んだ。
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