【SSSランクダンジョンでナイフ一本手渡され追放された白魔導師】ユグドラシルの呪いにより弱点である魔力不足を克服し世界最強へと至る。

カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画

第1話 ユグドラシルの迷宮にて




 ――SSSランクダンジョン、ユグドラシルの迷宮。



 B125。


 世界に七つある最高難度のダンジョンの内のひとつ。


 僕達、冒険者パーティーは一月前に、Aランクダンジョンをクリアし、S~SSSランクダンジョンへの挑戦資格を手にいれ、そしてSSSランクの世界樹の迷宮へと訪れていた。


 ダンジョンは難度の高い順に、SSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fとなっていて、Aランクダンジョンが思いの外、攻略難度が低かったのもあり、きっと最高難度のダンジョンもクリアできるだろうとの考えでB125までもぐってきたのだ。


 しかし、僕達は知らなかった。SSSランクの恐ろしいのはある一定の階層からモンスターが急激に強くなるということを。


 ......とはいえ、まあ、それはそうだろう。SSSランクダンジョンへ入れるパーティーなど、指折り数えるくらいしかいないし、ここまで潜り帰れたものがいるとも思えず......それ故に情報も出回らない。


 パーティーリーダー、ロキが言う。


「はぁ、はぁ......まさか、125層でこれ程の魔物が徘徊してるなんてな」


 大柄の戦士であるスグレンストが言った。


「くそっ、どうかんがえても、ありゃSランクはあるぜ」


 次に双剣士のヒメノもぼやく。


「さ、最悪......あたしまだ死にたくないんですけど」


 そして、黒魔導師フェイルも小さく呟いた。


「......この階層から......強力な魔物が、急に出てきたわ。 なぜ......」


「......」


 メンバーの四人が会話をするなか、僕は一言も言葉を発さない。極度の緊張によるストレスで、いつ僕が攻撃されるかわからないからである。魔物ではない、仲間の彼らにだ。


 あまり刺激をしないよう、こういう場合、僕は出来るだけ存在感を消すようにしている。


 それはともかく僕らのパーティーも、序盤は調子良く進んできたのだが、道中目にした先人たちの骸骨のように、気がつけば後戻りのできない階層まできてしまい、帰るに帰れないといった事態に陥っていた。


 ある噂によればこのダンジョンは、国の騎士団で構成された大規模な攻略部隊を送り込み攻略を試みたが、その部隊全てを呑み込み地上へ誰一人も帰さなかったという。


 それ程のとてつもなく難易度の高いダンジョンだという事を今、身をもって現実として理解したのだ。


 僕たちの力ではもう戻れない。


 この階層の魔物は軽くS~レートある。仮に相手が一体であっても、僕ら全員でかかろうが返り討ちにあい簡単に殺される。


 彼らの纏う魔力を見れば一目瞭然だった。


「うん、これは......どう考えても普通に帰るのは難しいな。 あれを使うしかない、か」


「......Aランクダンジョンの最下層で手にいれた、あれか?」


「そっか、それなら脱出できるわね!」


「......成る程......確かに」




「......」




 それは数ヶ月前にクリアしたAランクダンジョンの最下層にあった秘宝、魔石テレポストーンの事であった。


 テレポストーンは読んで字のごとく、使用者を任意の場所まで転移させる力を秘めている。しかし、一度使えばその込められている魔法は消え、二度と使用できない。


 売れば金貨数千枚は下らないという、非常に希少価値の高い魔石だ......しかし、命と金を天秤にかければ、惜しんでいる場合ではない。どれだけの価値がある魔石だろうと命あってのモノなのだから。


 ......一人ひとつ使うとして、うん、ちゃんとパーティーの人数分、五つある。仕方ないけど、もうこの手しかない。


 そう考えていた時、リーダーのロキがゆっくりと口を開いた。


「......そろそろ、頃合いかな」


 声色の変化に、嫌な予感が脳裏をかすめた。



 ――こ、頃合い......?あ、ああ、テレポストーンの使う頃合いと言うことか。


 そうか、成る程。彼はギリギリまで攻略の可能性を探っていたんだ。


 僕なんかすぐに魔石をつかうという判断をしてしまったのに......流石は冒険者ギルド始まって以来の天才とよばれたロキ・ヴィドラドールだ。


 しかし、そんな尊敬するロキの口から、僕は信じられない言葉を耳にする事になる。



「――今、この時をもって......レイ、君を俺のパーティーから追放する」




「......」



 ......え?



 一瞬なにを言われたのか理解出来なかった。



 そのまま腰が抜けたように、よろよろと一歩二歩と後退し、やがて苔だらけの壁に背があたると、そのままずり落ち尻餅をついた。座り込む僕を侮蔑の目で皆が見る。




「え......?」




 言われたことを信じられず、僕は目を見開いてロキを見つめた。




「何を呆けているんだい? 聞こえなかったのか?」


「き、聞こえてる、聞こえてたよ......で、でも、なんで?」


「そんなこたァ、言われなくてもわかんだろーがァ」


 イラついたようにパーティーの戦士の男、スグレンストがそう言った。次に女双剣士のヒメノが声をあげた。


「ほんっと、どんくさくてイヤになっちゃうし。 戦闘中とかもじろじろと見てくるしさ......本当にいやらしい」


 そ、それは、怪我や致命傷を負ったときにすぐヒールできるように......皆の動きを見ていただけで。そんな風に思われていたのか。


 そう理由を話そうとすれど、場の雰囲気がそれを許さない。そう、ここでは何を言おうと僕が悪で敵なのだ。


 この人達は、どうにか僕を追放したいらしい。




「......」




 残りの一人、黒魔術師の女フェイルは視線を落とし、沈黙を決め込んでいた。助けてはくれないだろう。おそらく彼女もきっと皆と同じ思いなのだろうから。



 黙りこみ、うつむく僕にらちがあかないと思ったのか、更にロキは言葉を重ねた。



「レイ、君程度の白魔導師では、この先の強力な敵と戦うには心許ないんだ。 一度のヒールで魔力を空にするヒーラーなんて、ありえないだろ? 更には魔力の枯渇で動けなくなるなんて......足手まといもいいところだろう」


 確かに、僕は魔力がすぐに枯渇してしまう。けれど、他の事で精一杯補ってきたつもりだ......敵の挙動を観察し、弱点を分析したり、ダンジョンの情報収集、更には皆が快適に旅を続けられるように、料理や洗濯までも全ての雑用をも一人で担ってきた。



 しかし、そんな僕の考えを察してか、ロキはとどめをさすようにいう。



「はあ......君は、この俺のパーティーがどれほど期待されているのかわかってないようだな。 このパーティーは世界を掌握せし魔王を倒すべく、王から期待をされているパーティーなんだ。 その一員である白魔導師が君のような未熟で粗末な者だと、この先の未来がないという話だよ」



 力不足、確かにそうかもしれない。けど、でもじゃあなぜ僕を選んだ?


 奴隷の......まだ11歳だった僕を拾ってくれた、理由は?



「で、でも......じゃあ、なんで? なんで僕をえらんだの?」



 そうだ、選ばれた理由があるはずだ。それを聞けばまだ挽回出来るかもしれない!


 僕の存在価値......僕は僕の居場所を守りたい。


「そんな事、言われないでも理解してくれよ。 ハァ......本当に頭の悪いやつはこれだから」



 やれやれと大袈裟に手をヒラヒラさせ、肩を落とした。



「君自体に理由なんかない。 ただ、手頃な奴隷に貴重なヒーラーの素質があっただけの話だよ。 お前を買った頃はまだ駆け出しのEランク冒険者だったからね......安くて白魔導師になれそうな奴だったら誰でも良かったのさ」



 夢の中にいるように、頭がふわふわとする。その話を理解することを拒んでいるようだった。



「誰でも......そんな」


「ん? ああ。 今思えば誰でもは良くなかったか......お前のような使えない奴をつかまされるのは二度とゴメンだからな。 今度はしっかりとした上級でまともな白魔導師を選ぶとするよ。 いまやAランクパーティーの俺達なら、冒険者ギルドの高額募集から選びたい放題だしな」


 ははっ、とロキは嗤う。他のパーティーの面々を一巡すると、戦士スグレンストも双剣士ヒメノも、ロキと同じようにニヤニヤと嘲笑っていた。


 黒魔導師フェイルはもうこの話題に興味がないのか、どこか明後日をみていた。


 僕は、このままだと本当に追放される。それどころか、おそらくこのタイミングでそれを言った事を考えると......置いていかれる。


凶悪な、地獄のような魔物達が蔓延る、まだ誰も攻略した事の無いこのダンジョン、【ユグドラシルの迷宮】に。



 ......やっぱり、ロキはテレポストーンが惜しいんだ。僕の分の魔石が。


 いや、それと......。



 ――僕の捨て場所が見つかった?そんな救いのない答えが脳裏を過る度に気が狂いそうになり、頭を振りそれを追いやる――



 だ、ダメだ......ここに置いていかれるのは死ぬと同義だ。なんとか僕もダンジョンの外へと連れていってもらわなければ。


 ......死にたくない、僕はまだ死にたくない、死ぬのは怖い!


「ロキ......これからは心をいれかえて頑張るから。 お、お願いします、僕をここに置いていかないで......! 何か、何でも良いからチャンスをください」


 突然の仲間の裏切りと、死が現実味を帯びてきたことにより声と脚が震えている。


「......そうだな、うん。 確かにこれで置いていかれたらたまったものではないか......わかった。 じゃあ、一度だけチャンスをあげるよ、レイ」



「......チャンス」



 チャンス......? そうだ、これは嘘だ。試されているんだ、僕の覚悟を......さっきロキが言っていた事に嘘はない。


 このままでは僕はヒーラーとして力不足......悔しいけれど、それは本当だ。


「わ、わかった......やる。 頑張るよ」


「おいおいおい!? ふざけんなよ、ロキ!?」


「......え、マジで?」


「......ッ」


 ロキのチャンスを与えるという一言に、パーティーメンバーは不満そうに反応した。


 確かに僕の力不足で迷惑をかけたけど......これは、心が折れそうだ。でも、そうだ、ずっと皆は思っていたんだ。


『魔力の足りない、無能ヒーラー』と。


 けれど他にどうしようもない。自分の価値を、まだ使えると言うことを示さなければここに置いていかれて死ぬだけ。


 こんな所に残されて、死ぬのは嫌だ。怖い......怖い、嫌だ、絶対に嫌だ。


 まだ、まだ死にたくない、嫌だ。


 恐怖心に押し潰されそうになりながら、ロキによるチャンスを待っていると、彼は懐からダガーナイフを出した。


 あれは、僕がロキの誕生日にプレゼントした白聖石から作られた純白の刃のダガー。


 その刃先を僕に向け、こう言った。


「さて、それじゃあ、この傷を治してごらん」


「え?」


 ――ズブッ



 見ると、僕の腹部に彼のダガーが刺さっていた。


「な、え......がはっ、がっ......はっ!?」


 刺された部分がじわじわと赤に染まり、その激痛が傷の深さを知らせてくる。


「ほらほら、早く治さないと死んじゃうよ?」


「わひゃひゃひゃひゃ!!! やべえ、なんだこれ!!!」


「ひっど! ロキ、マジでひでえー」


「......ッ!」


 痛い!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!


 い、息が......呼吸も、できな――ッ


 し、しし、死ぬ――ッッッ!!!!


 痛すぎて痛い以外頭の中に何もない。呼吸困難になりながら、口に溜まる血液を吐き出した。


「ぐぶっ、がっ、は......」


 ナイフを抜かねば傷を治せない。それを本能的に理解しているようで、おぼろげな意識の中、僕の手は深々と刺さるナイフを抜いた。


「いぐっ、あっ、ああああああーーーっ!!!」


 刺された場所が急所だったのだろう、ナイフを引き抜くと、おびただしい量の出血が辺りを染めていく。


「――ひ、ひ、ヒールッッ!!!」


「おっ」


 微かな光の粒が赤く染まった腹部へ収束する。数秒の後、その傷口は跡形もなく消えた。


「完治か......傷の痕すらねえ。 相変わらず、ヒールスピードと性能だけはすげえな」


「はあ、はあ......うっ、はあはあ」


 全身にのしかかる疲労感。魔力の枯渇により、全身が鉛にでもなったかのように重く苦しい。


 ......けど、ここでいつものように倒れるわけにはいかない。


 せめて、少なくとも足を引っ張らないという事を証明しなければ。


 踏ん張り、よろよろと立ち上がった。


「おお、すごいな......いつもなら疲労でぶっ倒れるのにな、ははっ」


「こ、これで――ぐふっ!?」


 言葉の全てを吐ききる前に、ロキに腹部を蹴り抜かれた。


 蹴りの威力は凄まじく、後ろの壁へと激突する。


「......が、は」


「けど、君は連れていかない。 君にはこのテレポートストーンをつかうだけの価値はないからね。 あと君を捨てるタイミングに丁度いいしさ」


 まさか、ヒールで魔力が枯渇し、動けなくなったところを狙って......。


 地べたに這いつくばる僕を他所に、仲間達にテレポートストーンが配られていく。


「さて、お別れだな......レイ。 そのナイフはやるよ、武器くらいないとここでの生活、怖いだろう?」


「ぐはははっ!! それさえありゃあ、生き延びられるなあ? 良かったな、レイ!」


「いや、生活て......フツーに死ねるじゃんよ」



「......」



 ひとしきり皆が僕を笑い、気が済むとそのテレポートストーンへ魔力を流し込みだす。


 橙の光がそれぞれを包み込み、瞬く間に霧散した。魔石に込められたテレポートの魔法が発動し、彼らは地上へと消えた。




 そして、僕は一人SSSランクダンジョン、ユグドラシルの迷宮へと置き去りにされたのだった。






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