第30話 湯気
――カポーン。
「......ふぅ、良いお湯だなぁ......」
ヴォーダン村は、温泉で有名な村だ。旅人や冒険者、様々な人々が訪れる温泉村で、ワーウルフの問題がなければ村は普段もっと賑わっているらしい。
「......そのせいか、誰もいなくて貸し切り状態......」
広々とした浴場に、白い湯気。そしてお湯の香りと温もり......。
久しぶりの温かな湯に、心も体も緩んでくる。ここまでずっと殺すか殺されるかの命のやりとりをしてきた。
五年......五年もの間、ダンジョンで死闘を繰り広げ、それを越えてきた。
僕の体は疲れを知らないが、精神的な疲労はやはりある。
だから、こうして温泉でゆっくりできるのは有り難い。
「......し、失礼します」
「ん?」
振り向くと、一糸纏わぬリアナがいた。
「ええええ、なんで!? 入るなら先に入って良いっていったよね!?」
勢いよくツッコミをいれると、リアナの体はびくっと跳ねた。
お、驚かせてしまった......って、いや、違う、だってこれは......。
な、なんで?
「あ、あの、はい......わ、私が今ここにいるのは、おからだを流して差し上げたく......」
「き、気にしなくていいんだよ、さっきも言ったけど、僕らは主従関係にはないんだから、そんな事しなくても良いんだ」
「......で、でも、すみません、私、不安で......! これまでずっとレイ様に助けられてばかりで......私、なにもできてなくて、だから......せめて出来ることを」
彼女はその必要性を必死にうったえてくる。
いや、その気持ちは痛い位にわかる......僕もかつてそうだった、パーティーで不必要とされればどうなるかは心の奥底でわかっていた。
だから必死にやれることをさがして、なんでもこなしてきた。必要とされるために......なら彼女のその不安を消してやらなければならない。
......。
ここは想いをくんであげるべきか。
「......わかった、背中をお願いするよ」
「......ほ、本当ですか......! 大丈夫、全身をくまなく綺麗にして差し上げます......! 私、頑張ります!」
「ぜ、全身!? そ、それは、いいかな......」
「遠慮なさらないでください......! 私、綺麗にするの得意なんです......!」
「え? あ、あー、うーん」
戸惑いを隠せず、狼狽しているとリアナに素早く背後に回られた。
「......」
「......」
......無言の圧力を感じる。
ま、まあ、とりあえず背を流してもらう為に、大人しく座ろう。
座るとリアナは、「ありがとうございます」と嬉しそうに言い、布を泡立て始めた。
やがて、それが整い背を擦り始める。
......。
背中を一生懸命にごしごし洗ってくれている。力がないけど、こんなことをされるのは初めてで、恥ずかしくてくすぐったいけど......心地いい。
なんだろう、リアナの優しい手つきが......懐かしいな。
そんな事をぼんやり考えていたら、リアナが口を開いた。
「......髪......ほのかに紅いのは......」
「ああ、それは、浴びた血の影響で......元々僕の髪色は白髪だよ」
あ、と思ったがもう遅かった。怪訝な顔でこちらをみている。
「あ、えーっと、ずっと魔獣を狩る生活をしていたからさ。 その血を浴びていたら色が落ちなくなってしまったんだよ」
「血......魔獣の血液は魔力濃度が高いと言われてます。 そのせいもあるのでしょうか......」
「うん、そうなんだ。 だから生え変わるまではこの変な色の頭を我慢するしかない」
「そう......なのですね。 あ、背中は終わりました......前洗うので、こちらへ向き直ってください」
「それは断る」
即答した。
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