第24話 ネリネ



 ~約二年前~



「......レイ......」


 ダンジョンの入り口を覗く、黒魔導師。彼女はなにかを覚悟し、足を踏み出した。


「あ、おい、おまえ!」


「!?」


 突如目の前に現れた少女。黒魔導師は取り乱した。


「まーたおまえかー! こないだからみとったぞ、おまえ。 ちょいちょい来てたけど、入る準備しとったのか」


「だ......だれ」


「え、わし? わしはこのダンジョンを庭とする美少女、名を」


「どいて」


 脇を通ろうとする黒魔導師を謎の美少女が止めた。


「いや、無視!? つーか、はいんなよ!! おまえでは死ぬぞ!!」


「......それでも......迎えにいかなきゃ......」


「え、誰を......って、おまえ」


 謎の美少女は、じろじろ黒魔導師を眺める。


「あー、おまえの魔力......見覚えがあると思ったわ。 何年か前にダンジョン来てたのう、おまえ」


「......いいから......どいて。 私はレイを迎えに......」


「んあ、レイ? レイって......白髪の?」


「え!?」


「おまえ、あいつの仲間か」


「......あ、えっと......仲間......かな。 ......いや、多分......もう仲間とは、レイは思ってくれない」


「?」


 うつむき今にも泣き出しそうな黒魔導師。


「んー、まあ、でもおまえ、死ぬ覚悟でダンジョン入るつもりだったんじゃろ? 一度きたなら、このユグドラシルがどれ程危険な所か知っとるはず......それでもおまえはレイを迎えに行こうとしとる。 命を捨ててまで助けたいと思うなら、それは仲間じゃろうよ」


「......でも、命は......私が死んでレイが戻る訳じゃないから......」


「え、いや勝手に殺してやるなよ」


「......え」


「あいつふつうに生きとるぜ?」


「は?」


 黒魔導師は目を丸くする。


「ダンジョン内で生きていくと言っておった。 だから心配すんな」


「え、え? それは、本当に」


「うん。 あいつは割りと元気じゃ、死んどらん......だからもう入ろうとすんな。 たまにじゃが上層にもSレートの魔物が徘徊にくる。 運悪けりゃ死ぬぞ、おまえ」


「......そっか......生きてる、生きてるんだ」


「いや、聞いてねー。 なんでレイといいおまえら無視すんの? スルースキル基本高めなのなんで?」


「......いや、きいてる......わかった、もうこない」


「おー、うんむ。 いいこじゃ」


「......関係ないけど......」


「?」


「あなた......喋り方、変だね」


「おおん!? なんじゃ、おまえやんのか!?」


 くすくすと笑う黒魔導師。


「......あー、まあ、古い人間じゃからな、わし。 そんなことはいい、レイに何か伝えることはあるか? なにかあるなら、つたえとくぞ」


 黒魔導師は考え込む。


「......」


 その時、謎の美少女がぼそりと一人言をこぼした。


「......あいつにも、こんなに想ってくれる仲間が。 帰る場所が、あるんじゃな」


「......え?」


「いや、なんでもない。 決まったか」


「......うん......伝えて欲しい事は、ない」


「いや、ねーんかい!」


「でも、かわりに......これを、B125の......大きな岩があるところに、置いといてほしい......」


 黒魔導師はリュックを差し出した。微かに残るオーラから、それはレイの物だとわかった。


「ふむ、これを拾わせればいいのか?」


「うん......あと私のことはいわないで......」


「え、なんでだよ!? まどろっこしいな、おまえ」


「......わたしからだとわかれば......使わないだろうから......あくまで落し物で......」


「んんん。 よくわからんが、いいよ。 わかった」


「......じゃあ、お願いします。 可愛い幽霊さん」


「......おう」


 黒魔導師がダンジョンを去ろうと出口に向かおうとしたとき、謎の美少女は呼び止めた。


「あ、おい! ......おまえ、これ持っていけ。 レイはわしの弟子だからな......その弟子を心配してくれた礼じゃ。 レイなだけにな、ぶはっ!」


 一人爆笑する謎の美少女を、ブリザード系魔法より寒い眼差しでを見据える黒魔導師。


「ご、ごほん、はい......『魂命石』 これ、うちのダンジョンの希少な鉱石。 売ったら高いから」


「......いいの?」


「うん、よいよ。 もしかしたら、レイが地上へ戻る時がくるやもしれん......そんときはよろしく頼む」


「......わかった。 ありがとう......」


「おう、じゃあの! もう来んなよ」







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