第25話 ヴォーダン村へ
「――あ」
日が落ちはじめた頃、木々の隙間に微かな灯りを見た。
希望の光とも思えるそれを目指し、獣道とも呼べそうな険しい林道を抜けると、そこに忽然と村があらわれた。
「村、村です......つきました! つきましたよ!」
「うん、村だ。 良かった......」
ホッとしたのかリアナはその場にへたりこんでしまう。無理もない、何故なら今の今まで道に迷っていたんだから。
いつの間にか道なりに進んでいたハズが、森林内へと突入し、そして運良くこの村へとたどり着けた。
「立派な砦だね」
「そうですね、これは村の生命線でもありますから」
「魔物から村人を護る、神力で創られた防壁か」
村の周囲は高い神力を宿す石の壁で覆われている。
これはどこの村や町、王都にもあり、数年前におこった魔物による襲撃被害を経て政府が増築したものだ。
これにより出入りできるのは、今僕らの眼前にある青く光る大きな扉、『神門』だけだ。この神門は神力で作られていて魔力の有するモノを通さない。魔獣、魔族は勿論、人間でさえも。
魔術師では無い者も、目には見えないが微量な魔力を有している。なので、同様にこの神門は通れない。
僕はその扉ごしに、その向こうに居るであろう人間に話しかける。
多分、神木主という門を守る騎士が居るはずだ。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか? 村に入れてほしいんですが」
数秒の間があり、男の声が聞こえた。
『なに、人だと!? これは珍しい......!! わかった、今門をあけよう』
するとフッと青い門が煙のように霧散し消えた。村の中へと通ずる小さな洞穴のような短い道が姿をあらわす。
その向こう側から先ほどの男の声が聞こえる。
「さ、魔物が来ないうちに早く入ってくれ!」
「すみません、ありがとうございます」
「......あ、あ、ありがとうございます!」
門番が神門のよこにある神紋へオーラを流し込むと、再び青い門がその出入口を塞いだ。
「ふう、よしっと。 いやはや、まさかこんな時間に旅人がくるとはな! 驚きのあまり反応が遅れてしまったよ。 俺は聖騎士のアトラ、一応、階級はダイヤだ。 この村の『神木主』を務めている」
神門のある場所には、必ず聖騎士が『神木主』という門番として、一人~三人常駐している。
この神門は彼ら聖騎士のオーラ、神力でしか起動させられない為、聖騎士が配属されていて、その神木主に選ばれる事は大変栄誉のある事だとされている。
「神木主ですか、お若いのに......凄いですね」
「いやいや、たまたま白羽の矢がたっただけさ。 腕もまだまだ未熟だしね、はっはっは!」
大きく口を開けて笑う彼は、僕よりも少し背の高い青年で、背には槍を背負っていて、その動きの所作でかなりの腕である事が予想ができた。
凄いな......見たところ、二十そこらだろうに。神木主とは。
「僕はレイで、この子はリアナと言います。 しかし、こんな夕暮れ時に訪れてしまってすみません、森でかなり迷ってしまって」
「す、すみません」
リアナがペコリと頭をさげる。
魔物のうよめく森の中に位置するこの村なら、この時間帯に門を解除するのは出来るだけしたくなかったはずだ。
村人に睨まれないと良いけど。
「今まであの森に!? よ、よく命があったな......運の良いお二人だ」
「ホントにですね」
「あ、いや......うむ、まあ良いか。 せっかく来てくれた旅人さんを怖がらせるのも申し訳ないが、事が起こってからでは遅いしな」
先ほどとうってかわり、真剣な表情になるアトラ。
「......実はこの村は問題を抱えているんだよ」
「問題?」
「数ヶ月前から、タチの悪い魔族に狙われている」
「タチの悪い......魔族に狙われている?」
「ああ、ワーウルフは知っているか? 別名、人狼とも呼ばれる魔族だ。 この村の人間は奴らに包囲されていて......と言ってもまあ、三人なんだがここ数ヶ月狙われ続けているんだよ」
「ワーウルフですか、僕らは見なかったな」
「それはそうだろう、出くわしていたら君たちは今ここにはいない」
「それほど強い個体なんですか? ワーウルフはレートでいえばC-......数ヶ月もその状態であれば、おそらく異変を察知した国王騎士軍が聖騎士を派遣したはずですよね? それでも倒せなかったと?」
「おおう、頭の回転はやいな君は! 確かに聖騎士はダイヤが四人きた。 が、しかし皆殺されてしまったよ」
「ダイヤが四人殺された? ワーウルフに?」
アトラは目を閉じ、数秒のち答えた。
「ああ、そうだ。 全員ワーウルフに殺された」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます