第26話 憂うそノ食糧つきル
......あり得るか?C-レートの魔族なら、聖騎士なら一人でも、容易にとはいかないまでも倒せない相手じゃない。もしかして、これは......。
「ワーウルフには協力者がいる......?」
僕の出した答えに、アトラは驚き目を見開く。
「鋭いな......その通り奴らは三人いる。 おそらくずっと三人で狩りをしてきたのだろう。 奴らの連携力は凄まじく、最初に奇襲をうけた一人の聖騎士は瞬く間に殺されてしまった。 そこからは圧倒的だった......次々と一対三の状況を作られ、あっというまに皆殺されてしまったよ」
確かに連携の上手いワーウルフはA+の魔族にも匹敵するとされている。
「そういう訳で、村から助けを呼びに行くことも出来ず、旅人や冒険者が訪れても奴らに襲われてしまい、我々はこの砦の内に長い間閉じ込められている状態なのさ」
「成る程......となれば、食料が尽きるか奴らが諦めるか、もしくは更に助けがくるか、か」
「うむ。 聖騎士三人が消息を絶っているからな、いずれ聖騎士が派遣されるとは思うが、それがいつになるかで我々の運命はきまる......」
「......食料がもう無い?」
「そうだ。 というかワーウルフはそれを狙っているんじゃないかと思う。 一度助けを呼びに村の男が数人出ていったが、翌日、門の前に彼らの頭部が並べられていたという事があった。 ......逃げられないというメッセージなのだろう」
村人を疲弊させてからまとめて喰う気なのか?ワーウルフは知能が高い魔族だけど、こいつらはより賢いな。
「と、村の状況は理解してもらえたか?」
「ええ、よくない状況だという事は理解しました」
「訪れたばかりでこんな話をしてしまってすまないな。 とりあえず、宿でもとって旅の疲れを少しでも癒してくれ」
「わかりました、いろいろと教えてくださってありがとうございます」
「あ、ありがとう、ございます......」
そうしてアトラと別れようとした時、二人の小さな男の子と女の子が、ととととっと走ってきた。
「あとらおにいちゃん!」
「おゆうしょくもってきたよ!」
「お、シュウにリズ、ありがとな! おお、今日もまた美味そうだな~!」
二人はアトラへと弁当を手渡すと、今度は僕とリアナをまじまじと見つめてきた。この二人は、アトラの子か?
「お子さんですか?」
「え......ああ、いやいや、違うよ。 はは」
アトラは首を横にふる。
「その子たちは村の宿屋の子だ。 俺はこの場所から動けないからな。 食事をこの二人にいつも届けてもらってるって訳なんだよ」
「ああ、成る程、偉いなぁ」
「えらい! にへへ」
「えらーいっ! やたー!」
二人は満面の笑みで喜んでいる。屈託の無い笑顔が、あの頃の僕らを思い出させる。
辛く厳しい奴隷時代だったけど、この子らのように二人笑いあった日々が懐かしく重なる。
ああ、早くまた......彼女の笑顔がみたいな。
「そーだ、シュウ、リズ。 このお兄さんとお姉さんにお前らの宿へ案内してやれ。 久しぶりの客だ、お母さん喜ぶぞ~!」
「ホントにー!?」
「おかあさん、よろこぶの!?」
「ああ、絶対喜ぶはずだ! 二人も泊まるとこ決めてないだろ? この子達のところにしてくれないか? 風呂は広いし、飯は美味い、オススメするぞ!」
「あ、じゃあ案内してもらおうかな。 リアナもそれで良いかな?」
「あ、は、はい、私はレイ様と供にまいります」
「えっと、それじゃあシュウ、リズ、お願いできるかい?」
「「はーい!」」
シュウとリズの頭を撫でてあげるアトラ。本当の親子のように二人を慈しむ彼はとても優しい表情で、僕のひとつの思いを否定した。
そんな事を考えていると二人が駆け寄ってきて、僕とリアナは子供らに手を引かれ、宿へと道案内される。
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