第32話 旅立ち



 人間界に魔族が多くなっている理由はわかった。が、今の問題は外にいる三人のワーウルフ。


 奴らによって村の人間が危機に瀕していると言うこと。


 村長へと尋ねる。


「村が危機的な状況であることはわかりました。 ではそのワーウルフを討伐してほしいという事ですか?」


 すると村長が長い眉毛に隠れた目を、ぎょっと見開いた。


「は!? い、いえ! そ、そんな事はお願いできませぬ! あれは上級聖騎士様でしか倒せません!!」


 物凄い勢いで否定された、びっくりした。


「えっと......それじゃあ、村長さんのお話とは?」


「ええ、旅人様がこの村をたったらば誰かに村の惨状を伝えて欲しいのですじゃ。 できることなら王都の聖騎士団に伝わるように......勿論、早急に出ていってほしいという話ではなく、村を出た場合においてのお話です。 ......お願いできますかの?」


 ああ、そう言うことか。確かに複数いるワーウルフは厄介だ......倒せないこともないが。


「成る程、王都にはもとより向かうつもりです。 わかりました、必ずこの村の現状を彼らへ伝えましょう......救援が来るように依頼しておきます」


「おお、ありがとうございます......どうか、どうかお願いします......」


「それと、決して急かすわけでは無いのですが、神木主のアトラからあなたへ伝えくれと言伝てがございまして......」


「言伝て?」


「この村をでるなら今日の夜中が良いと。 何やらワーウルフの気配を付近に感じないとかで。 比較的無事に村から離れられるだろうとの事です......それに、この村では度々夜に人が消えるので」


「それは、宿の店主さんからお聞きしました」


「ああ、もう知っておられましたか......二日か三日に一度、数人......決まって男が消えるのです。 なので今では百もいた村人も三十程に減ってしまいました」


「なぜ男性ばかりが?」


「それはわかりません......しかし、旅人様も男の方ですので村にとどまるのは少し危険かもしれないですじゃ。 とはいえ、外のワーウルフの方が危険ではありますが......」


「......い、如何いたしますか、レイ様」


「うん、さて......」


 今、僕に出来ること......外のワーウルフは簡単に倒せるが、三匹と言うのが厄介。


 もし、一匹でも逃せば彼らワーウルフは脚の速い魔族だ。全速力で逃げられれば追って仕留めるのはかなり難しい。


 それに執着心の高さを考えれば、また仲間を連れて執拗に付け狙ってくるかもしれない......下手に手を出すのはかなり危険だ。


 そして、神隠しだが、これは......


 うん......どのみち何もできないのなら、村から離れたほうが得策だな。


「ごめん、リアナ。 疲れてると思うけど、今旅立とうと思う......大丈夫かな?」


「は、はい、私は大丈夫ですよ! レイ様についていきます......!」


「......ありがとう」


 話を影で聞いていた子ども達が「ええーっ」と叫び出てきた。


「おにいちゃん、おねえちゃんもういっちゃうの?」


「せっかくよるにあそんだりおはなししたりしたかったのに~」


 残念そうに嘆くシュウとリズを撫でる。


「ごめんね。 でもまた村にくるから、その時に遊ぼうか」


「ぜったいだよ」


「はやくきてね!」


「あはは、うん、わかった」


 母親が、「旅人様に無理言わないの!」と、子供達を叱りつける。せめてもの支援をと、武器や防具を持っていくように言われたが、使わないので断ると皆目を丸くしていた。


「ひとつだけ、村長さんにお願いが」


「? ......なんですかな?」



◇◆◇◆◇◆



 ――そして僕らは旅支度を手早く終え、門の前へと来ていた。そこには聖騎士がたっている。アトラだ。


「急な話ですまないな、お二方。 真夜中で危険だが、しかし今を逃せばいつ村を出られるかもわからない......すまんな」


「いえ。 でも、ワーウルフの気配がないと言うのは本当ですか......?」


 アトラは目をつむり頷く。


「ああ、ここへ来た君たちと出くわさなかったと聞き、オーラで少し周囲の気配を探ってみた。 おそらく奴らは、何かしらの事情でどこか遠出しているようだ」


「......そう、ですか」


「出るなら今がチャンスだ......」


「わかりました、ありがとうございます」


 僕は唇をなぜた。


「いや、こちらこそいきなりですまない......そうだな、今ここを出れば、ワーウルフ達のテリトリーを一時間後には抜けられる。 危険をおかさせておいてすまないが......君たちが無事に王都へ辿り着けることを願っている。 聖騎士団によろしく伝えてくれ、頼むぞ」


「わかりました」


 僕はアトラの目を真っ直ぐと見据え、別れの言葉を告げる。


「救援がくるまで神木主様も......お気をつけて、では」


「ああ、わかった、救援が来るまでなんとかたえてみせよう!」


 オーラによって形作られた青く光る神門がスーッと消えていく。


 アトラと見送りの村長に手をふり僕らは村を後にした。


 幸い月明かりが道を照らしてくれていて、灯りは必要ないくらいだった。


 綺麗な満月が空に浮かんでいる。




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