第19話 白魔法 (ロキ 視点)



 エールがなみなみと入った木製のジョッキを、皆が手にする。


「――それでは! 我が冒険者パーティーがSランクへ昇格、そして新たな白魔術師の加入を祝って、乾杯ーーーー!!!」


「「「かんぱーーーーいっ!!!」」」


 王都でも有名なレストラン、ヴェルナを貸しきりで盛大なパーティー。


 お祭りのような賑わいの店内は、大量の料理と酒が並べられどんちゃん騒ぎだ。


 ――これだこれ!集まった下民や下級冒険者の俺を羨む眼差し......ああ、最高だ!そうだ、俺が、この俺様が!!!お前らの憧れSランクパーティーのリーダー様だぞ!!


「しっかし、まあ、Sランクにもなると貰える金が跳ねあがるなぁ」


「すっごいねェ~! 新しい服とか化粧品がたくさん買えちゃうねえ、えへへ」


「......」


「そうですね、本当に凄いです!」


「まあ、しかしそれだけ責任も重い立場にいると言うことさ。 これからも気を引き締めてがんばろう!」


 ふふふ......Sランクという高ランクパーティーへ昇格したにも関わらず、驕らず謙虚なパーティーリーダーの俺。カッコよすぎる!!


 現にレストラン内に居る女性たちが俺の顔をみてはこそこそと話をしている。おそらく良い男だとか、求婚したいとかだろう。


 性格もよし、顔もよし、金まで持っていて家柄も良い!ヴィドラドールの長男だからな!うーん、これ以上ない男!!


 しかし、そんなパーフェクトな自分に浸っている時に、いきなりスグレンストが気分を害してきた。


「くくく、重い責任かぁ......どっかで置き去りにした命とかの事かぁ?」


「おいッ!」


 俺は思わず声を荒げ、戦士のスグレンストを睨み付けた。


 こいつ、頭イカれてんのか?その話をするんじゃねえ。なんなんだ?最近のこいつは......俺をなめているのか?


 たまにこうして妙なからかい方をしてくる。レイをダンジョンへ置き去りにして殺した話は厳禁だと言ってあるだろーが。


 あれが公になればお前だってヤバいんだぞ......これだから、脳ミソまで筋肉の男は。


 いや、それともカナタの前に雇っていた白魔導師の事か?囮にして殺しちまった......あれはどう考えても事故だぞ。


 レイのように囮にすらなれなかったアイツが悪い。レイですら敵の注意を引きながら魔法を使えていたというのに......。


「出来ません」なんて通用するわけないだろう。


 あげく死にやがって、迷惑な話だ。


「おーこわいこわい! 殺されちまいそうだぁ!! なんてな、はははは」


「......」


「ちょ、ちょっと! まーまー、気を取り直してさ! ね?」


「......めんどくさ......パンたべよ」


 コイツら......ッ!誰のおかげでSランクへ上がれて大金が貰えてると......くそっ、殺してやりてえ!!


 てか、めんどくさってなんだよ!?パンたべよって......黙って食べてろよ!お前、いつも話し合いで何も意見しねえくせによ、ゴミがッ!!


 すると新入りの女白魔導師、カナタが空気がおかしいのを察知して話題を変えた。


「し、しかし、本当に私をこの冒険者パーティーに入れて下さって、ありがとうございます。 憧れの白魔導師、レイ・ディン・フールさんのいたグンキノドンワに入れるだなんて」


 いや、お前、今まさにそいつを置き去りにして殺した話をしていたわけなんだが......って、新入りだから知るはずもないか。


 く、スグレンストのニヤケ顔が苛つく......ってか、今なんて?


 憧れの白魔導師......?


「レイって、僕らが数年前にユグドラシルの迷宮で失ってしまった......彼の事かい?」


「はい! 私、レイ様の戦闘スタイルに憧れていたんです! 殆んどヒールを使わずしてパーティーを生還させる......瞬時に予測し、敵のデータを照らし合わせ、即座に最適な解を導く!」


 いや、そりゃあいつが魔力少なくて......ヒール連発出来なかっただけなんだが。


 他から見りゃあそんな風に目に写るのか。


 そんな事を考えて入るとスグレンストが口を挟んだ。


「まあ、あいつはヒールがしたくても出来ねえポンコツだったからなぁ? 魔力が少なくてな、満足にヒールを発動させられねんだわ! ははは」


 全くもってその通り!良いこと言ってくれたわ。


「そうなんですよね......レイ様はその少ない魔力を如何に使わずしてパーティーを守るかを常に考えていたみたいですし。 それ故にあらゆる書物を読みこみ、集積し、努力して、あの戦闘スタイルを確立したんですよね......本当に素晴らしい、唯一無二の白魔導師でした」


 いや、なんなの!?なんでレイをそんなに持ち上げるんだこの女は?


「そんなに大した奴じゃないって~! あんたのが百倍優秀っしょ!」


 今度はヒメノが手をひらひらさせながら言う。するとカナタは驚きの表情でこう返した。


「ええっ!? と、とんでもないです......白魔導師序列No.1のレイ様より優秀だなんてあり得ないですよ。 私なんて20とかですし」


 ......序列?え、そんなのあったのか?


「それに何といってもヒールのスピードと質でレイ様に勝てる魔導師は居ませんし。 何より、レイ様が普通に行っている『体の欠損した部位を復元』したり『両断された四肢を瞬時に繋ぎ合わせる』なんてヒール、もはやヒールの域を超えているんですから! 普通の白魔導師はどこまでいっても自然治癒力を高め、傷を癒す以上の事はできませんし......」


 あれ、あいつ意外と有名だったの?てか、今のは本当の話か?


 レイのやっていたヒールが他の白魔導師では行えないというのは......。


 じゃ、じゃあもう、致命傷を一度も受けることすら許されないのか?


 ここまでたまたま酷い怪我をすることもなくこれたが......。


 思い起こせばヤバい場面は数えきれない程あった。たまたま運良くここまでこられたが......いや、白魔導師をこの間一人死なせた。


 なぜヒールして助からなかったのかと不思議だったが、まさか......あれはレイだから出来ていた芸当だったのか?


「そうか......」


「「......」」


 スグレンストとヒメノが黙りこむ。複雑そうな面持ちだが、まあ気持ちはわかる。


 レイのレベルが普通では無かったのかと、五年もたってから判明した。そして今までの違和感が腑に落ちた。


 死んだ白魔導師の言葉を思い出す。


『動いて囮をしながらヒール......? で、できるわけ無いじゃないですか! ヒールは、とてつもない集中が必要な魔法なんですよ!』


『怪我の治りが遅い? 骨折を一時間で完治はかなりの回復速度だと思うのですが......え? 普通は一秒もかからない? あ、あり得ないです、そんなヒール見たことないですよ!』


『白魔導師は人体の構造をどれだけ熟知し、理解し想像できるかでヒールの質が決まります。 どこをどう治すか、しっかりと理解できていなければ怪我を治すどころか悪化させてしまうんですよ』


『ごふっ......がはっ......ちぎれた......うで......戻るわけ......な』


 あの白魔導師がハズレだった訳ではなかったと言うことか。


 いや、まあ、仕方ない。それを念頭に置いて戦えば良いだけの事だろう。


 やれるさ。現にこうしてやってこれたんだから。


 その時、沈黙しパンを貪っていたフェイルがカナタへ話しかけた。


「......このパン、美味しい......はい、あげる。 カナタも食べて」


「え? あ、ありがとうございます......いただきます」


 ? フェイルがカナタを気に入った?なんだ急に......おかしなやつだな。




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