第34話 3SO=enemy
ワーウルフは驚愕する。
――村を出ていったのをこの目で確かにみたのに......な、なぜ!?
なぜ、白髪頭のガキがここに!!?
「――んなっ、なんげおまべっ......ごごにいるっ!?」
「......なんて?」
顎下から真上へ突き刺されていたナイフが引き抜かれた。
ブシュウと赤い血が噴き出し脇にあった花にかかる。
おびただしい量の出血とその痛みに傷口を両手でおさえるが、止まる気配は無く、痛みの残響が幾重にも鳴り続ける。
「て、てべぇ、お、お、おれのくぢが」
「行儀の悪い犬はしつけないと、でしょ?」
「ざっけんなァー!!」
激昂し、鋭い爪を振りかぶる。俺たちワーウルフの爪はおそろしく切れる。それこそ、並みの防具であれば柔らかい肉にナイフをいれるように切り裂いてしまう。
――ましてや防具も盾もねえ、ただの人だ!!当たれば確実に真っ二つだッッ!!!!
「......」
――ヒュンッ
「――あ?」
しかし、その自慢の爪は振り下ろされる事はなかった。
待てども待てども、奴にそれが届くことは無く――
気がつけば、俺の腕は肘から先が消えていた。
背後に落ちている自分の腕が視界に映り、俺は思わず叫びながら宿の出口を蹴り破って外へでた。
鈍感な俺の中の本能が、死を意識し一刻も早くやつから逃げなければと悲鳴をあげている。
「ひぃあっ、ひぃいいいーーーーな、なんだあ、あいつァ!? 動きが人じゃねえ!! 聖騎士か!!? い、いや、ちげえ! 神力を使ってなかったぞ!?」
見えない攻撃、そのからくりがどうなっているのかそんな事はもはやどうでも良かった。
ただ、奴と戦えば殺される、それだけ。
逃げなければ死ぬ、死にたくなければ逃げろ、と本能で逃走し他の仲間にもこの事を伝えなければと、神門へとかけだした。
とにかく、正門のリーダーに報告をするのが先決であると考えたからである。
――しかし、そこで目の当たりにしたものは。
「あ、ああああっ......なんで、そんな」
両腕、両足を切り落とされ血液の海に伏しているリーダーだった。
「うそだっ、こんな......これも、あいつが!?」
ズズズズと、何かを引きずる音が背後から聞こえた。ビクリとからだが反射的に跳ねて、音のするほうへと顔を向ける。
そこには同じく白髪の男に、両腕を落とされた仲間が脚を引っ張られ引きずられている姿があった。
仲間の意識はないようで力なくだらりとしていて、全てを理解した。
――あれは村を出たふりで、ハメられたのだと。
「おまえ、なんなんだ......」
「僕? ただの旅人だよ」
「旅人だと!? 冒険者でもないたかが旅人のお前がなぜ聖騎士よりも強い!? この村に来たとき殺した聖騎士はものの数分で殺せたのに......なんなんだ、お前は!?」
ガタガタと震えるワーウルフ。二メートルをこえる巨体のワーウルフを片手で引きずる力といい、間違いなく普通の旅人ではないレイにたいし、これまでに経験したことのない恐怖を覚えていた。
魔界ですら、感じたことのない不気味な悪寒。
「逃げられると面倒だから、ごめんね」
「......え、な」
レイが視界からふっと消えた後、鋭い痛みがワーウルフの両太腿をとおった。見れば赤いラインが入っていて、確認しようと体を動かすと、大量の血液が噴き出し、ズルリと転がりおちるように倒れた。
そして後頭部へ衝撃が走り、視界が闇に覆われ、意識が途切れる。
「うそ、だ......」
なぜ......話が違う......
――闇に沈む寸前、血に伏している三・人・の・仲・間・の・姿・をとらえ、ワーウルフの意識は途切れた。
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