第38話 刹那の光

 



「――よそ見してんじゃねえ!!」


 僕は紙一重で炎槍をかわし続ける。この炎槍に触れれば炎は燃え移り、たちまち燃やし尽くされるだろう。


 しかし、既に彼の動きを読みきっていた僕には当たらない。


「くっ......!? 掠りもしねえだと!!?」


 次々と繰り出されるアトラの槍術を見切り、かわし、そして思い出す。


 彼が嘘をついていたのは最初からわかっていた......でも、ただ一つ嘘じゃないモノがあったことも。


 言葉を......尽くそう。出来れば、僕はこの人を殺したくない。


「ダメだ、アトラ! 大切なその想いまで、燃えて失くなってしまう......いいのか!」


「うるせえ! 行く宛のない想いなんて、あとは燃やし尽くすしかないだろうが!!」


 幾重にも渡る、アトラの槍技を躱しレイは考えていた。彼の怒りと悲しみをどう受け止めればいいのか。


 脚や腕を落とせば、容易に戦闘不能にすることは出来る......だが、それでは彼は救われない。



 アトラは再度槍を振り回し、襲いかかろうとした――



 しかし、その時――



「――シュウ!! リズ!! いやあああーーーっ!!」



 宿屋の店主の叫び声が響いた。



「ひゃははっ、バカどもが!!」



 見ればアトラと応戦している隙に、意識を取り戻したワーウルフは自らの腕を切り落とし、鎖を抜け逃げだしていた。


 ワーウルフの両脇にはシュウとリズが抱えられ、開いた神門へと一直線に走り出していた。――森へ逃げるきか!!



「......しまった!!」



 僕とアトラの戦闘は激しく、いつの間にか神門から大きく離れた場所へと移動していた。


 森へ出られ気配を消されれば、二人を助けられるかも怪しくなる。



 これ、は......間に合わない!!


 ......いや



 ――僕はアトラに問う。


 まだだッ!!


「......アトラ!」


「――!! 」


「守りたいもの、本当にもう無いのか?」



 アトラと目が合う。



 嘘を感じなかったもの......それは、シュウとリズへの優しい笑顔。



 アトラの記憶がよみがえる。



『おとーさん』



『おとうさんー』



『――アトラ、頑張ってね』



 愛しき子らと、愛する妻の優しい声。



「――ッッッ!!!!」



 そして――



『あとらおにいちゃん』



 シュウと重なる、やんちゃだった我が子の面影。



『あとらにいちゃん』



 娘がもう少し大きくなればこんな風になっていたのかなと、リズを重ねたりした事もあった。



 けれど、息子や娘は――妻はもう居ない。



 だが、村人が殺されていく中、確かにあった喪失感と後悔――。



 俺が愛したのは家族だけじゃなかった......



 ――シュウとリズの笑顔。



 村の人々、捧げてしまった村人......全てが、俺の



 守りたい、守るべきモノだったんだ!!



「うっおおおあああーーーーッッ!!!!」



 ビュオオオッ――!!!



 アトラは想いを込め槍を投げた。



 ――決して許される罪じゃない、許されたいとも思わない......でも、だが......シュウとリズは『大切なモノ』だ!!


 だからこそ守る!今度こそ!!俺は、この手でッ!!



 ――ズガァンンッ!!!



 槍が突き刺さった場所は、神門をコントロールする魔法陣。


 槍から流れ出す神力で神門が起動し、村を出ようとしていたワーウルフを閉じ込めた。



「――あああ!? な、ななな、嘘だろ!!?」



 突然あらわれた神門に驚き、パニックを起こす。


 その隙に僕はワーウルフへと接近する。


「――しまっ」


 僕はワーウルフの両腕、両足を素早く切り落としシュウとリズを救出。


「うおああー!!」



 ――そしてワーウルフはそのままアトラの槍で貫かれ、燃えた。



「はあ、はあ......はあ」


「ありがとう、僕のミスで子供達を危険な目に合わせた......助かった......」


 ポカーンとするアトラ。


「......あ、え? お、俺は」


 そんなアトラの元へシュウとリズが駆け寄っていく。


「おにいちゃん、まもってくれてありがとう......」


「あとらにいちゃん、だいじょうぶ?」



「ありがとう......? いや、俺はお前らの......親父を」



「でも、君が神門を起動してくれなかったら二人は助からなかったよ。 君のしたことは許されない事だし、罪は残る。 けど......シュウとリズを救ったのは事実だ」



「......」



「答えは、もう出たよね......終わりでいい?」



「ああ......わかったよ。 俺の負けだ......」



 槍を地面へ突き刺し、両手をあげた。彼は憑き物が落ちたかのような、安堵した表情だった。






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