第7話 化物
~約三年後~
――ズゾゾゾゾッ
地を這う、影が迫ってくる。
目にも止まらぬそのスピードに、文字通りその姿を捉えることはできない。
奴の名は、シャドウヴァイパー。推定レート、SSS。
B180の主であるシャドウヴァイパーは、蛇の様な体を持ち、尾には二メートルを超える大剣のような刃が備わっている。
胴体の太さは僕と同じくらいの大きさで、全長は計り知れない。
――目で追わずに、気配を読む!
シャドウヴァイパーに挑むこと今日で約4カ月。殺されかけること、数千回。
日常的に死線を彷徨う内に、この過酷で熾烈な環境で生き抜く為に視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、全ての五感が異様なほど強化された。それら全てが集約され、今の僕は『死の気配』を感じとる事ができる。
敵の攻撃が纏う僅かな殺気、『死の気配』を感じとり、その攻撃先を察知することが可能となったのだ。
――ズガガガガガガッ!!!
シャドウヴァイパーは、こちらの視線が外れたのを察したのか、死角から尾の刃を乱打する。
とてつもない破壊で、そこら一帯の地面が陥没してしまう。
しかし、刃に纏う殺気から攻撃を察知した僕は最小限の動きで回避する事に成功する。
そのまま流れるように尾を切断、動揺するシャドウヴァイパーの頭部へ接近した。
「――ごめんね」
ドスッッッ!!!
魔力で強化したダガーナイフで額を突き刺した。
ユグドラシルの莫大な魔力を注げるだけ注ぎ、凝縮された僕の魔力刃は、とんでもない強度を誇るシャドウヴァイパーの頭蓋すら容易に貫通する。
「グオオオオッガガガガァ!!!」
叫ぶ、シャドウヴァイパー。
縦横無尽に暴れまわり、頭にしがみつく僕を振り落とそうとする。
「――ッ!」
しかし、ナイフを突き立てた時点で勝負は決していた。
そのまま世界樹から供給されている魔力を流し込み、許容量を超えたシャドウヴァイパーの目玉が吹き飛ぶ。
魔力回路が壊れ、流れ込む魔力に耐えられず、穴という穴から大量に血が噴き出していた。
「......やっと、倒せた......やった! ノルン!!」
この階層の扉前で観戦していたノルンを呼ぶ。
「うむ......本当に見違えたな。 まさかシャドウヴァイパーを倒してしまうとは......いくらわしが教えているとはいえ、正直がちで百年はかかると思っておったが......僅か三年とは。 おまえもフツーに化物じゃな」
うんうん、と頷き褒めてくれた。
「ううん、ノルンの教え方が上手なんだよ、ありがとう」
「謙虚すぎんかおまえ」
「あははは。 いや、本当に」
ゆっくりと流れ行く雲と星空を眺める。ここ、本当にダンジョン?って感じの風景だが、雲はガスで星は天に埋まっている魔石が発光しているらしい。
でも多分それは嘘だ。質問に答えたときノルンは二回まばたきをした。これはノルンの嘘をついた時の癖。
......多分、ノルンもあれが何か知らないんだろうな。
ちなみに外と中でも時間の流れが同じく、同様に朝も夜もやってくる。
「......もう三年か」
何気なく呟いたその言葉にノルンが反応した。
「む? なんじゃ、おまえやっぱり外が恋しくなってきたのか? 可愛いところもあるもんじゃな」
「あはは、別にそんなんじゃないよ。 時が過ぎるのは早いなって。 ノルンとももう三年の付き合いだなぁってさ」
本当にあっという間だったな。毎日死に物狂いだったからか、果てなく長かったような、けれど一瞬で過ぎていたかのようにも思える。
「うむ。 しかし、まさか人であるおまえが下層の魔物を倒せるまでに成長するとは......人が来ただけでも驚きなのに、とんでもないレベルの強さになったな。 わしも誇らしいぞ」
胸をはり、フフン!と、どやるノルン......可愛いな。
「そういえば、ノルンはここでずっと一人だったんだよね?」
「え、あー、まあのう。 ダンジョンに入る者も少ないし、この深層までくる事も普通の人間ではまず不可能じゃからな」
「まあ、そうか......さっきの180Fの主の強さも地上の魔獣とは次元が違ったし」
僕がシャドウヴァイパーを倒せたのは、ユグドラシルの魔力が供給されてる事により可能な無限ヒールがあったから可能だった手法で、普通はそんな事はできない。
死ににくい僕の体を使ったトライアル&エラーによる実戦経験の蓄積に、よるところが大きい。
どれだけ魔力があろうと、SSSレートと対峙すれば普通は初見で殺されて終わりだ。
「逆にダンジョンから出ようとは思わないの?」
「......わしはダンジョンから出られない」
「え、出られないの」
「いやまあ、出れるならとっくに出とるじゃろ。 わし強いし」
「......もしかしたら、人の居ないこのダンジョンが気に入って住んでるのかなとも思ってさ」
実のところ、僕がそんな気持ちでここに住み着いた訳だし。
「あー、まあ、居心地はよいかな......でも、ここにおる理由はそれだけじゃない」
その理由はもしかすると、触れてはいけないものなのかもしれない。
彼女の寂しそうな瞳が、それを予測させた。
「そう、なんだ」
「.....うむ。 しかし、まあ、ダンジョンの外を見てみたいとは多少思うがの」
ニコッと笑って見せた彼女は、どこか寂しさを感じさせた。いや、寂しく無いわけが無い。
ずっと一人でこのダンジョンの奥底にいたんだぞ。
「おまえこそ、外で何かしたいことは無いのか?」
「......僕?」
「そうそう、何かやり残したこととかないのか?」
やり残した......。
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