幕間7 逢引


それは突然の出来事だった。


その出来事は一本の電話が

俺のスマホにかかってきたところから始まった


『かーくんデートしようよ、デート!』

『…。』


迷惑電話だった。


かーくん詐欺というものが流行っているのか。

俺はまた一つ賢くなった。


「かーくん?

 もしもーし、

 かーくんの大好きな莉央お姉ちゃんだよ~」

「誰が誰のことを大好きだって?」

俺は電話口でバカなことを言っている

莉央お姉ちゃんを名乗る不審者に

思わず返事を返してしまった。


「あっ!かーくんだ。

 明日の10時に最寄り駅に集合ね。」

「あっ、おい!」プッ

俺が返事をする前に彼女は電話を切ったようで

スマホの画面には通話終了の文字が映っている


なんか…前にも似たことがあったような?


「行くか…」ハァ

最近俺の周りの人間はどうして自由なのか…

少しは人の話を聞いて欲しいと願い、

俺は虚空に向かってため息をつくのだった。





当日、

俺が駅前に行くと彼女はまだ来てなかった。

10分も早く来たので当然だろう。


「おまたせ~、かーくん待った?」

と思っていると二宮さんも

ほぼ同時に着いたようで俺に声をかけてきた。


「俺も今、来たところだ。」

「あっ!それすごいデートっぽい。」

俺はただ事実を言っただけなのに

なぜか嬉しそうにする二宮さん。


「かーくん、実は楽しみにしてたの?

 だったら、お姉ちゃんすごく嬉しいな~」

「呼ばれたから来ただけだ。」

「今日のかーくんはツンツンさんだ。」ナデナデ

いつも通りのハイテンションで

怒涛の喋りをしてくる二宮さんは

俺の頭を優しく撫でてくる。


「やめろ」パシ

「あーん、かーくんの意地悪!」

人前で撫でられるのは恥ずかしいので

俺は彼女の手を払いのけた。


「で、今日は何しに行くんだ?」

「ふっふっふ、今日はね。

 散々、私のことを古いって言うかーくんに

 私が流行系女子なところを

 見せる為にデートに誘ったんだ~。

 かーくん、どうだ参ったか!!」

どこか偉そうに大きい胸を張りながら

彼女はどや顔で俺の方を見てくる。


ちなみに

今日の彼女はオーバーオールを着ていて

大人っぽいような子供っぽいような

変わった雰囲気な見た目をしている。


「いや、参るも何も…」

俺は彼女に対して言葉を詰まらせる。

なんとなく、結果が見えているからだ。


俺が古いって言ったのも気にしてたのか…


「じゃあ、れっつごーほーむ!!」

「家に帰るのか?」

「かーくん、雰囲気ぶち壊しだよ!

 あーお姉さん怒っちゃった。」

俺は言葉の間違いを 

指摘しただけなのになぜか怒られた。

本当に理不尽極まりない。


「かーくん!怒らせた責任とってよ。

 責任だよ。せ き に ん!」

怒った彼女は俺に責任を取るように要求する。


いや…本当に俺が悪いのかこれ?


「今日は俺が奢ればいいのか?」

「違うよ。むしろ、今日は私が奢りたいもん」

怒らせた責任を取るために俺が

代金を持つと言ったが彼女はそれを拒否する。


じゃあ、一体何をすれば…


「なら、何をーー」

「ん…。」スッ

俺が悩んでいると彼女は手を差し出してくる。


なんだこれ?

俺はそれがなんのことだか分からず、

彼女の手をじっと見つめてしまう。


「かーくん、察しが悪い!

 ここは手を繋ぐところでしょ!!」

「あ、ああ…」ギュ

俺は彼女に促されてあわてて手を握った。


「今日は一日中このままだからね。

 絶対離しちゃ駄目だよ!」ギュ

手に力を入れながら、彼女はそう言ってくる。


「それはちょっと嫌だな~」

「これはさっきの罰だからね。

 かーくんに拒否権はありませ~ん」

俺が露骨に嫌がると

彼女は笑顔で拒否権がないことを言ってくる。


「今日はこの調子で

 かーくんをメロメロするから覚悟してね!」

「メロメロって言い方がなんか古いな」

「言ったな、このー!!」ポカポカ

「全然痛くないぞ」

俺に古いと言われて

怒りながら俺のことを殴ってくる二宮さん。

その手には力が入っておらず痛くない。



こうして、俺たちの初デート(?)は幕を開けた



「まずはタピりに行こう!」

「タピり?」

歩き始めてすぐに二宮さんは

謎の単語を俺に向かって言ってくる。


「タピオカティーを

 飲むことをそう言うんだって~

 今ドキの女の人に大流行してるんだって!」

「タピオカ…」

俺は静かにその単語を呟く。


タピオカティー

ミルクティーや抹茶など様々な飲み物の中に

キャッサバという食物から作られた

タピオカという黒真珠のような見た目をした食べ物を入れた台湾で流行った飲み物だ。


俺でも知っている。

確か日本でも若い女性の間でブームを起こし、

その人気はテレビでも取り上げられたほどだ。


「うーん、おいしいねぇ~

 これが流行の味か~」ゴクゴク

「…」ゴク

タピオカ店に着くと俺たちは

それぞれ飲み物を頼み飲み始めた。


彼女はほうじ茶で俺は抹茶だ。

味はなかなか美味しいし

タピオカの食感も変わっていてる。

流行ったのも少し納得がいく。


確かにタピオカ入りの飲み物は流行った。

だが…



「流行についていけるなんて、流石は私。

 かーくん、もう古いなんて言わせないぞ!」

「ちょっと、ブームから遅れてないか?」

「え!?」

「タピオカティーのブームはーー」

俺は彼女に残酷なことを言った。


タピオカのブームはもう終わってる…

彼女の言う流行とは数年前の話だ。


「う、嘘。

 いつもの冗談よね…かーくん!?」

「…」

現実を受け止められない顔で

彼女は俺の方見てくるが俺は目をそらす。


真実とは時に残酷だ。


「うぅ…私なんて…」メソメソ

「そんなことで泣くなよ…」

「だって~」

思ったよりも気にしているのか

彼女は泣き出してしまう。


「…」

基本的に元気で活発的な彼女が悲しそうに

し始めるのを見て俺はーー


「次行くぞ…」

「え?」

俺は小さな声で彼女に呟く。



「今日ここまで来たのは

 これのためだけじゃないんだろ?」

「う、うん…そうだけど。

 こんな私とのデートなんか嫌でしょ?」

俺が他に行くところを聞くと

彼女はらしくない塩らしい態度で話してくる。


彼女には少し悪いが素直に言おう


「嫌に決まってるだろ。

 こんなつまらないデート。」

「うぇぇん!かーくんの意地悪~」

「二宮さんの好きなところを教えてくれ。」

「ふぇぇ…えっ?」

冷たいことを言うと彼女は余計泣き出したが 俺の一言に困惑して泣き止む。


手間のかかる人だ。


「無理して新しい物に手を出さなくていい。

 今日は俺に二宮さんの好きな場所や

 好きなものを教えてくれ。」

「でも…でも」

「古いと言ったのは悪かった。

 そこまで嫌なことだとは思ってなかった。」

俺は彼女にいままでのことを謝罪した。


「俺はいつもの二宮さんとデートがしたい。」


確かに二宮さんの言動や流行は少し古い。

だが、彼女にはそれすら

プラスにする魅力があるのだから

無理したデートなどして欲しくない。


「いいの?」

「俺を魅力でメロメロにするんだろ?」

俺は不安そうに聞いてくる二宮さんに

今日のデートの始まりに彼女が

言った台詞をそのまま彼女に言った。


「あれは…」

「まあ、あんたには無理だろうな」

「な、なにおー!!」

俺が煽ると怒りを露にしてくる二宮さん。


いいぞ、この調子だ。


「そこまで言うなら、

 かーくんにいつもの私を見せてあげる。

 魅力的過ぎて倒れても知らないからね!」

「おー、それは怖いな」

二宮さんは俺に向かってそう言ってくる。


彼女はやっぱりこうでなくては


「それなら、次の場所に行くか。

 二宮さんどんなところが好きなんだ?」

「うん!私が好きな場所はねーー」

俺が次の場所に行こうと誘うと

彼女はいつもの笑顔で

好きなところを俺に教えてくれる。


俺たちのデート(?)は始まったばかり

そう思いながら俺達は町を歩くのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


おまけ


昼食


「これ、おいしいな。

 今まで食べた豚骨ラーメンで一番旨い。」

「でしょでしょ!

 ここ、結構前に一人で来たとき

 すごくおいしくて気に入ったんだ~

 かーくんに分かって貰えてよかった!」

「ただ、量が少し多くないか」

「私にはちょうどいいかな~

 なんか、◯◯家系に対抗してるらしいよ。

 おじさん、餃子一枚追加で!」

「アイヨ!!」

「二宮さん、ありがとな。

 いい経験になった。」

「どういたしまして~

 お姉さんのこと見直した?

 おじさん、チャーシュー丼も追加で~」

「アイヨ!!」

「ああ、見直した。

 それにしても食べ過ぎじゃないか?」

「このぐらい別腹だよ~」

「そんなデザート感覚で…」


俺が豚骨ラーメン一杯で十分のところを

二宮さんはラーメンと餃子2皿、

チャーシュー丼をペロりと平らげた。

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