幕間6 休息

ピンポ-ン


俺は家のチャイムを鳴らすと扉が開き、

中から黒髪で妙齢の女性が現れる。


「あら…佐藤くん。

 よく来てくれたわね。」

「お邪魔します。美咲さん。

 美春ちゃんに会いに来ました。」

彼女は俺に優しく微笑んでくる。

その笑顔はとても包容力がある笑顔だ。


話の通り、俺は今日は四条家に来ている。

そして、今目の前にいる女性は四条美咲しじょうみさきさん。

美鈴と美鈴ちゃんの母親だ。

あれから何度かお邪魔しているので

それなりに仲良くなることができたと思う。


「私のことはお義母さんでもいいのよ?」

「いや、そう言うわけにはいきませんよ…」

美咲さんのからかう発言に俺は苦笑いで返す。


「君なら二人を任せられるんだけどなぁ」

「娘を安売りするのはやめた方がいいですよ」

俺は流石に我慢できずに口を挟む。


こういう冗談は好きではない。

俺みたいな人間に大切な娘を渡すなど

もし二人の親だったら、まず考えないだろう。


「君は自己評価が低いのね。

 こんなにいい子なのに…」ナデナテ

「子供扱いはやめてください」

「私から見たらまだまだ子供よ。」

美咲さんに俺はいいように弄ばれる。


流石は妙齢の女性。

俺とは人生経験が違いすぎる。


「からかわないでください。」

「ごめんね。

 佐藤くんがかわいいから…ついね!」テヘ

彼女は舌を出して茶目っ気を見せる。


かわ…


大人っぽい彼女がやるとギャップがすごい。

俺がそんな彼女に翻弄されていると


「おにいちゃん、遅い!!」

部屋の奥から美春ちゃんが顔を出し、

少し怒りながら俺の名前を呼んでくる。

そのままー


「おかあさん、おにいちゃんはわたしの」ダキ

俺に腰に抱きながら母親に怒る美春ちゃん。

どうやら、かなりご立腹のようだ。

 

「おにいちゃんも。めっ!」

「ごめん、美春ちゃん。」

俺は説教をしてくる美春ちゃんに謝罪をする。

今日は美鈴はおらず、

美春ちゃん二人きりで遊ぶ予定だった。


それなのに俺が自分の母親と

楽しそう(?)におしゃべりしているのだ。

美春ちゃんが俺に怒るのも無理はない。


「あらあら~大変そうね~」

美咲さんはどこ吹く風と

俺たちを見て愉快そうに笑っている。


あなたのせいでもあるんですが…


「ん~」バッ

美春ちゃんは怒りながら両手を広げる。

その仕草はどこか見覚えがある。


ヒョイ


俺は美春ちゃんのことを正面から抱き抱える。

幼児特有の暖かさが俺に伝わってくる。


「~♪」

抱き締められて気持ちよさそうだ。

美鈴もそうだが姉妹揃って

抱き締められるのが好きらしい。


「もう彼氏と言うよりもパパさんね。

 いっそのこと、私と付き合っちゃう?」


「なに言ってるんですか!!」

「めーー!!!」


爆弾発言をする美咲さんに

俺と美春ちゃんは絶叫をあげるのだった。





……



………


バシャバシャ


キャッキャッ


「…」

俺は水遊びをする美春ちゃんを眺めている。

まだ夏真っ盛りなので

水の中で遊ぶのは気持ちが良いだろう。


今の美春ちゃんの姿は

髪の毛を横に結び、苺柄の水着だ。

よく似合っていて愛らしい。


「おにいちゃんもこっちにきて!!」

「ああ、今そっちに行く。」

俺は美春ちゃんに呼ばれて

彼女の傍に向かって歩き出す。


俺たちはビニールプールで遊ぶことになった。

今日は暑いので丁度いいだろう。


「そぉれ!」バシャァ


ビシャ

美春ちゃんは近づいた俺に水をかけてきた。


「美春ちゃん…。」ボタボタ

俺は水を頭から浴びてしまう。


下着までびしょ濡れ…最悪だ…


「おにいちゃん、びしょびしょ」キャッキャッ

まあ、彼女が楽しそうなので怒りはしない。

何度も言うが子供は元気が一番だ。

楽しくしている方が俺も嬉しい。


だけど…


「これはお返しだ」バシャァ

「きゃあ!」

俺は先ほどのお返しとばかりに

美春ちゃんに水をかけ返す。


たまには俺もはしゃいでもいいだろう。

最近は疲れることが多いから息抜きがしたい。


「つめたーい!」

「もっと、冷たくしてやろう」バシャァ

「きゃー!!」

可愛らしく悲鳴をあげる美春ちゃん。

その声を聞いて、

俺はさらに彼女に水をかけていく。


「やったなぁ~!」スッ

「み、美春ちゃん、それは」

美春ちゃんは俺に反撃されて

火が付いたのかあるものを手に持ち出した。



「おにいちゃん、かくご~」ビュー

「ほ、ホースはやめあばばばばばば!!」


その後、

俺は美春ちゃんからのホース責めを

ただ、一方的に受け続けるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ギュー


ビシャァ


「美春!

 佐藤くんに意地悪しちゃ駄目でしょ!」

「むー…」

俺がシャツを絞っているのを横目に

美春ちゃんは美咲さんに叱られていた。


あれから、

美春ちゃんのホース責めを受けた俺だったが

美咲さんが来たことによって解放された。


「嫌がることをされたら美春も嫌でしょ?」

「…うん。」

優しく諭されて

少しずつ大人しくなる美春ちゃん。


これが親子ってやつか…



「確かに彼は意地悪するといい顔をするわ。

 美春もそれが見たくて意地悪したのね。」

「…?」

美咲さんの言葉の意味が

分からないのか美春ちゃんは首を傾げる。


なんか流れが変わってきてる気がする。


「美春、見たくなったら私を呼びなさい。 

 私が彼をドロドロにするテクニッーーー」

「あんた、娘に何を教えてるんだよ!!」

俺は思わずタメ口でツッコミをいれる。


彼女の言いたいことは分からないが、

少なくとも、4歳の娘に教えることではない。


「あら…脱線しちゃったわ。

 ともかく、あまり意地悪すると

 佐藤くん遊んでくれなくなるわよ。」

「や、やだ!!」

正常に戻った美咲さんの一言で

美春ちゃんは酷く動揺し始めた。


「お、おにいちゃん、

 わたしのこと嫌いになった?

 もうわたしとあそんでくれない?」ポロポロ

彼女は涙をこぼしながら俺に詰め寄ってくる。

美咲さん…やりすぎだ。


「大丈夫だ。

 俺は美春ちゃんのこと大好きだぞ。

 だから、これからも遊ぼうな」ギュ

俺は優しく美春ちゃんを抱き締める。

美春ちゃんの体は小さく震えている。


彼女には悪いが今の俺は嬉しさを感じている。

彼女が俺のことを

大切な存在だと思ってること。

そんな風に思われるなんて俺は幸せ者だ。


「わたしもおにいちゃんのことがすき。

 だから、いっしょうそばにいるね。」ギュ

彼女がいつか大人になったときに

忘れてしまうだろうが

彼女は俺に嬉しいことを言ってくれる。


「ありがとうな、美春ちゃん」

「?」

俺にお礼を言われて首を傾げる美春ちゃん。

彼女は何で言われたのかを理解していない。


それでいい。

今のは俺の自己満足で言ったのだから。


「おにいちゃ~ん」スリスリ

「…。」ナデナデ


俺たちはしばらく抱き合ったままー








「やだ~、プロポーズ!? 

 私、おばあちゃんになっちゃうのかしら!」

でいいようとしたが

野次馬が横で騒ぐのでやめることにした。


「美咲さん、水かけますよ。」



美咲さん…空気読んで貰えませんか…





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