case.2 四条美鈴視点 後編
「分かったよ。美鈴を助けてやる。」
「ほんと!」
私が少し席を外した間に
先輩は美晴と私を助ける約束をしていた。
それを私は物陰から見てしまった。
どうして?
私なんかのためになんで?
これ以上優しくしないでほしい。
私は大丈夫なのに…
先輩のことが理解できなかった。
私はただの後輩だ。
助ける価値なんてない。
「出てきていいぞ。美鈴」
「気づいていたんですね。」
私は先輩に呼ばれたため物陰から出ていき、
先輩の隣に腰掛ける。
「そろそろ、話して貰ってもいいか?」
そのまま先輩は私に話を切り出す。
美晴との約束を守るつもりだ。
本当にお人好しな人だ。
「そうです。愛です。
私たちは愛し合っているのです。
だから、先輩に助けて
貰わなくても大丈夫です。
だから、私のことは気にせず
先輩は美晴と遊んであげてください。」
だから、私は先輩を納得させるために
啓大からの愛、
私の啓大への愛を先輩に語っていく。
理解してもらえなくてもいい。
とりあえず、私のことを放っておいてほしい。
先輩の優しさは毒だ。
私と啓大の関係を壊す毒でしかないのだから…
「美鈴…
俺は君に聞きたいことが2つある。」
なのに、先輩は引き下がってくれない。
先輩のことを見ていると
私の価値観が崩れていき怖くなる。
「君はその関係を続けたいのか?」
「分かりません。
啓大が続けたいと言っているなら
続けなきゃいけないですね。」
私は先輩の一つ目の質問に淡々と答える。
この程度なら簡単だ。
だって、私から別れるなど啓大は許さない。
私に決定権など最初からないのだから。
この程度の質問なら問題ない。
次も早く答えて終わらせよう。
「なら、今日俺や美晴ちゃんと
一緒に居て楽しかったか?」
…っ!?
私にとって今、
一番聞かれたくないことだった。
そんなこと言えるはずがない。
だって…
「楽しくないなら、ないでいい。
君の本音を教えてくれ。」
だって…
「俺は二人と遊んで本当に楽しかった。
また、遊びたいと思えるほどな。
美鈴は違うのか?」
「楽しかった…」
「普段、啓大がいるから
おとなしくしている美晴が年相応に
遊んでる姿が見れて嬉しかった。
先輩と遊ぶのも何もかも新鮮だった。
啓大のことをなにも考えないで
美晴と先輩と遊べて楽しかった!!」
彼氏といるより二人といるほうが
楽しいといってしまったら、
私と啓大の関係が間違っていると
言っているようなものだから!!
「嫌だ!!
啓大に暴言を吐かれるのも
暴力を振るわれるのも
みんなみんな!全部嫌だ!!」
一度認識をしてしまうともう止められない。
私は嫌だったんだ。
啓大に言いようにされる自分が
悲しそうな顔をしている美晴が
全部嫌だったんだ。
「私だって大切に愛されたいし
誰よりも優しくされたい!」
私は美晴と先輩の関係が羨ましかった。
私も美晴みたいに甘えたかった。
美晴みたいに撫でてもらいたかった。
美晴みたいに遊んでもらいたかった。
誰かに大切にされたかった。
「そうだな。その権利はみんなにある。
美鈴も自分の好きなように生きればいい。」
「自分の好きなように?」
私は啓大に従わなくてもいいの?
誰かに従わなくていいの?
自由に生きていいの?
だったら
「あ…ああ…助けて…せんぱい…
私を…私を助けてください!」ドサ
私は先輩に抱きつく。
先輩の体はがっしりしていて逞しい。
まるで何かに包まれている安心感がある。
「ああ、俺に任せておけ」
そう言って、私のことを片手で抱きしめる。
先輩の体温が心地よい。
先輩の胸板が逞しくて安心する。
まるで、私の全てを肯定してくれるようだ。
私は…好きにしていいんだ。
自由に生きていいんだ
誰かを頼ったことによる安心感からか
私は先輩に抱きついたまま
深い眠りに落ちていくのであった
――――――――――――――――――
啓大との問題に関してはすぐに解決した。
先輩が助けてくれたからだ。
啓大が私と美晴に暴力を振るう場面を
証拠として動画で撮ってくれたからだ。
その動画を両親が見ると
私の両親はいてもたってもいられなくなり、
そのまま啓大の家に行った。
啓大の両親も自分の息子がこんなことをしているとは思っていなかったようで、
啓大に泣きながら激怒していた。
そして、私にもう関わらないようにしてくれると約束をしてくれた。
…
そしてその出来事から数日経った。
啓大は彼の両親が言った通り、
学校で私に絡んでくることはなかった。
むしろ、啓大は私を見ると
怯えているように逃げていく。
両親に怒られたことが響いているのか。
それとも、先輩に恐れているのだろうか。
どちらでもいいが
約束を守ってくれているようだ。
私は解放されたんだ。
そう実感することができた。
啓大に束縛されないことに充実感を感じる。
全部、先輩のおかげだ。
先輩…
私は学校にいるにも関わらず、
ずっと先輩のことを考えてしまう。
『そこまでだ』
助けてくれたときの先輩はカッコよかった。
その姿はヒーローのようだった。
私はヒーローに助けられる
ヒロインのようになった気分だ。
ドクン
今は先輩のことを考えるだけで
胸がドキドキするこの気持ちは…
きっと、恋だろう。
私は先輩に恋をしている。
数日前まで啓大と付き合ってたのに
今は先輩を好きになるなんて…
「私ってもしかして惚れっぽい?」
そう呟いたがおそらく違う。
女の子なら誰しもあんな風に助けられたら、
惚れてしまうに決まってる。
だから、私は尻軽ではない。
そう言えば、
先輩は彼女がいないって言っていた。
もしかしたら…
「おい、どこまで行くんだ?」
この声は…
廊下の方を見ると
朝からずっと会いたいと願っていた
愛する人の姿がそこにはあった。
「せん…!?」
私は声をかけようとしたができなかった。
その先の言葉が続かなかった。
だって…
「ふふ、翔はせっかちだな。
そう焦ることではないだろう。」
「早くしろ。
俺はあまりお前と一緒に居たくないんだ。」
先輩の近くには綺麗な女性がいたから…
ーーーーーーーーーーーー
「ここなら、いいだろ」
二人は体育館裏で立ち止まった。
私は結局隠れながら二人の後についてきた。
なんだか嫌な予感がしたからだ。
よく見ると綺麗な女性は生徒会長だった。
先輩と生徒会長…
あまり、一緒にいるイメージは浮かばない。
だけど、歩いてるときの雰囲気から
仲は悪くないように思えた。
それにしてもこんなところで何を…
「体育館の裏か。
こんなとこでなにするんだ?」
「こうするんだよ。」チュ
!?
一瞬だった。
私が疑問について考える瞬間に
生徒会長は先輩にキスをした。
「…んっ、ちゅっ…」
二人は情熱的なキスをしている。
ピチャピチャといやらしい音が聞こえる
やめて!
私の先輩にそんなことしないで!
そう思っても私は踏み出せなかった。
そこには完全に二人の世界だったから…
出ていっても私は邪魔者だ。
「ぷはっ、やめろ!こんなところで」
「こんなところでだからこそだよ。
君も気持ちよかったんじゃないか?」
しばらくすると
二人は唇を離して会話を始める。
その姿はまるで隠れて付き合っている
恋人同士がするような会話だった。
ギュ
二人の会話を聞く度に
胸が締め付けられていく。
ははっ…
それはそうだ。
あんなにカッコいい人に
恋人がいないわけがなかった。
「…っ」ポタポタ
私の目から涙が溢れていく。
私は失恋したんだ。
そう思うと涙が止まらない。
だって、相手はあの生徒会長。
私なんかじゃ勝てるわけがない。
「で?なん用だ。」
「君の隣の席の女…」
「五十嵐のことか?」
「そう、彼女は君のなんなの?」
失恋の痛みに涙をしていると
先輩たちの雰囲気が明らかに悪くなっている。
ピッ
そのとき、なんとなくだった。
なんとなく、
私はそのシーンを録画することにした。
何かが起こるような気がして…
「もしかして…◯フレなのかい?」
「君は私以外にも◯フレがいるんだろ?
だから、その言葉は信用できないな。」
私には理解できない会話が流れる。
◯フレ?
一体どういうこと?
「今、俺に玲以外の◯フレはいない…
どうすれば信じてくれるんだ。玲!!」
先輩と生徒会長は◯フレの関係。
付き合っているわけじゃない?
体だけの関係?
「君からしてくれた方が
愛されてる感じがするからな。」ギュ-
先輩に抱きついている生徒会長の顔は
だらしない表情をしている。
人に見せられない顔だがすごく幸せそうだ。
ずるい…
黒い感情が私を包み込んでいく。
「…んん。ちゅぱ…きもちいいよ翔…」
そして、二人は再度キスを始める。
今度は先輩からのキスだ。
ギリッ
私は思わず歯ぎしりをしてしまう。
「…ちゅっ…かける…もっとぉ」
生徒会長の顔が蕩けている。
いつもの威厳のある顔ではなく、
今はただの雌の顔をしている。
先輩の雌になっているのだろう。
ポタポタ
スマホを持っていない方の手は
手を握りしめ過ぎて血が垂れている。
私だってしてほしい…
『美鈴も自分の好きなように生きればいい。』
「…っ」
そのとき、私の中に先輩の言葉が浮かぶ。
…
…
そうか!
ああ、そうだった。
私は自由なんだ。
何をしてもいいんだ。
先輩が言ったんだもん。
先輩が私に嘘をつくわけない。
だから、私は何をしてもいいんだ。
そうですよね!先輩
それに別に生徒会長さんと
恋人として付き合っている訳じゃない。
だから、私が何しようとも問題ない。
「んん…かけるは…ちゅっわたしの…」
生徒会長さんの方を見る。
彼女はおそらく先輩のことを
◯フレと思っていないだろう。
先ほどの執着、今の熱に浮かされた表情を
見れば明確に分かる。
ごめんなさい、生徒会長さん。
先輩はあなたのモノではありません。
そして、
これからもあなたのモノになりません。
だって、
先輩は私のモノですから…
二人のキスが終わるまで
私はその場で口を歪ませて笑うのだった。
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