EP.2 崩れゆく関係 ー


「美鈴…一体どこにいるんだ?」


俺は電話をかけながら校舎の中を歩き回るが

美鈴の姿はどこにも見当たらない。

一応、一年の教室付近にも

行ったがそこに彼女の姿はなかった。


「せめて、場所を教えてくれれば…」

俺は彼女の安否が気になり、

足を止めることもせずに彼女を探す。

だが、彼女がどこにいるのかは分からず

俺は途方にくれてしまった。



「君はグラウンドの線引きを頼む。」

「手の空いてるそこの君は体育館の設営だ。」

「働きすぎだぞ、少し休んでいいぞ。」

美鈴の捜索に困り果てていた俺の近くに

聞き覚えのある声が聞こえる。

その声は周りにいる生徒たちに

よく通る声で的確に指示を出しており

凛としていてとても分かりやすい声だ。

この声はーー


「玲、ちょっといいか?」

「翔?」

全体の指揮を取っている彼女なら

美鈴の居場所を知っているかもしれない。

そんな藁にもすがる思いで玲に話しかけた。


「こんなところで会うなんて

 態々、私に会いに来てくれたのかい。」

「違う。

 今は美鈴を探している途中だ。

 玲、どこかで見かけなかったか?」

「なんだ、あの子のことか…」

玲は俺に会えて嬉しそうな顔をしたが

俺がここに来た理由を聞いた途端に

一気に不満げな顔に変化し始める。


「彼女のことで私になにか用かい?

 女の子を追っかけてる君と違って

 私は見ての通り生徒会の仕事をしていて

 とても忙しいから後にしてくれ。」

美鈴の話だからだろうか

玲は俺に対して冷たい態度をとってくる。

彼女たちは本当に仲が悪い。

その理由は全て俺のせいなのだが…


「玲、頼む!!

 今きっと、美鈴は大変な状況なんだ。

 だから、少しでも情報が欲しい!」

彼女なら、何かを知っている気がする。

そんな気がして俺は玲に美鈴の居場所を聞く。


「私が彼女をどう思っているのか

 君が一番知ってるはずだよね。」

「それは分かってる!!

 だけど、今は抑えてくれ!

 どこかで見たのなら教えて欲しい。

 教えてくれれば出来ることなら

 俺がなんでもする!!

 だから、教えてくれ。玲!!」

俺は玲に頭を下げてお願いをする。

彼女の周りにいた彼女の同級生たちが

何事かと俺たちの方をじろじろ見てくるが

今の俺にはそんなことどうでもよかった。


美鈴はメッセージの内容を見る限り

とても危険な状態だ。

早く見つけないと大変なことになる。

だからこそ、なりふり構っている時間はない。


「…。」

「玲?」

「ああ、四条さんの居場所だったね。

 さっき、偶然会ったから知っているよ。

 多分、まだ校舎裏にいるんじゃないかな?」

玲は一瞬黙り込んだが

あっさりと美鈴の居場所を教えてくれた。

俺の誠意が伝わったのか?

それとも、生徒会長としての善意で教えてくれたのかは分からない。


校舎裏か…

校舎外は捜索していなかった。

なので、行く価値は大いにある。


「校舎裏だな!

 今度会ったとき、この礼は必ず返す。」

「そのお礼、今すぐ返して貰おうか」ガシ

玲は礼を言ってすぐさま美鈴の元に

向かおうとする俺の腕を掴んでくる。

手に込められてる力はかなり強く少し痛い。


「玲?今は急いでいるんだ。

 ふざけるならーー」

「ふざけてなんかないさ」ギュ

俺が邪魔をするなと注意をしようとすると

彼女はおもむろに俺に抱きついてくる。

正面から抱きつかれたことにより

彼女は俺の胸に顔を埋める体制になる。


いや、今はそんなことよりもーー


「「「「キャーーーー!!」」」」

俺たちの周囲から複数の叫び声が聞こえる。

その叫び声は黄色い声を含んでおり、

間違いなく今の俺たちの姿を

見てあげた声だということが分かる。


「玲、お、お前…」

「ふふ、君の体はやっぱり落ち着くよ」スリスリ

同様している俺や周りの叫び声など無視して

玲は気持ち良さそうに俺の胸に顔を埋める。


「あ、あれ堂々と抱き合ってるのって

 西園寺玲さんだよな!!」

「えー!?玲さんって新しい彼氏できたの!

 しかも、相手はあの問題児のーー」

「脅されてるんじゃないのか?」

「でも、玲さん、とても幸せそう。

 あんな顔、私三年間玲さんと一緒の

 クラスだけど一度も見たことないよ。」

「じゃあ、あの二人って本気で…」

抱き合っている俺たちの周りに

外野がゾロゾロと集まり

俺たちのことを好き勝手に言っていく。


「ち、違う。俺たちはーー」

「翔、愛してるよ。」

「玲!?」

俺が付き合っていることを

否定しようとするが

玲の最悪の一言により遮られた。 


こんなタイミングでそんなことを言ったら…


「キャー!!愛してるだって。

 乙女な西園寺さん滅茶苦茶可愛い!!」

「会長かわいいな…」

「あの会長が好きになった人だよ。

 もしかしたら、噂というのは嘘なのかも…」

「いや、だけどあの風貌はーー」

「副会長の件がある以上、

 会長が簡単に心を許せるとは思えない。

 だから、彼を見た目で

 判断しない方がいいのかもしれないな。」

案の定、玲の爆弾発言に場の空気は

さらにヒートアップしていく。

俺に対する評価も玲が好きになった男

というだけでなぜか前向きに捕らえられる。


気持ち悪い。

玲によって皆から向けられる好意的な視線。

俺は自分が受け入れられている状態であるにも関わらずこの空気に嫌悪感を酷く覚えた。

少なくともこの場にこれ以上居たくはない。


「玲、ちょっとこい!!」グイ

「あっ…」

俺はこの空気に耐えきれず玲の手を掴み、

野次馬を掻き分けながらその場を離れる。

掻き分けても掻き分けても人がいる。

それでも俺は玲を引っ張りながら進む。


「あれって、生徒会長だよね。」

「手を繋いでる人ってー」

「もしかして、彼氏なのか?」


すれ違う周囲の人間が手を繋ぎ歩く

俺たちの姿を見て騒ぎだしている。

今まで、生徒会室に行くときはこんなことはなかった。

なのに、どうして?



「ふふ、これでもう逃げられないよ」


周りの声がうるさい。

そんな中でも玲の呟きが俺の耳に届く。

彼女の発した言葉は俺の状況を思い知らせる。


今の俺は糸に絡められた獲物だと

もう、彼女は俺を逃げす気はないのだと




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俺と寝る女は彼氏持ち 関係詞 @riku0132

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