case.2 四条美鈴 前編

「食べさせてくれないか?」

「断る。」

玲が口を開けて待機しているが

俺はそれをスルーする。


俺は玲に呼び出され、

生徒会室のソファで二人寄り添いながら

昼飯を食べている最中だ。


「冷たいな~

 昨夜はあんなに愛し合ったのに…」

「何度も言うが恋愛ごっこは

 彼氏でも探してやるんだな。」

あれから、1ヶ月ほど経ったが

俺と玲の◯フレ関係は継続している。


現在、俺に他の◯フレはいない。

だから、ちょうどいいと言えばいいのだが…


「なぁ、今日も君の家に行っていいか?」

「最近、来すぎじゃないか?」

彼女が家に来てする頻度は

最初の一週間は1~2回ぐらいだったのに

今は週3~4回ぐらいの頻度になった。


「親は家に帰ってこないから問題ない。

 それに君も今ぐらい  

 私が来ている方が都合がいいだろ?」

玲の言う通りだ。

俺は彼女のおかげで性欲を発散できている。 

だが、

同時に俺が彼女に依存する危険性がある。

一人の人間に依存しまうのは危険だ。



「それとも、私と寝るのは嫌かい?」ガシ

彼女は俺の両肩を掴みながら聞いてくる。

その瞳はひどく濁っているように見える。


「なぁ!答えてくれ!!

 私のどこが嫌なんだ!?

 この喋り方か?

 それとも見た目か?

 嫌なとこがあるなら言ってくれ。

 君の嫌なところは全て変えるから!!」

俺の体を揺すりながら必死に問いかけてくる。

彼女の圧はすごく俺は恐怖を感じる。


「やめろ…

 玲の嫌いなところなんてない。

 むしろ、感謝をしている。」

元々は彼女のことを俺は嫌いだった。

だけど、今は別に嫌いではない。

信頼できる程度の相手ではある。


「そうか…

 そうなんだな!!よかった…」ギュ

彼女は俺の言葉に安堵したのか、

俺に抱きついてくる。



しかし、

俺と彼女の関係はあくまで体のみの関係だ。

あまり深い付き合いにならない方がいい。

だから、会う頻度を下げたいのだ。


「♪~

 君は本当にいい匂いがするな」スンスン

彼女は抱きつきながら俺の匂いを嗅いでくる。

行為のときもしてくるが

匂いフェチと言うやつなのだろうか?


流石に枕をくれと言ってきたときは断った。


「それは良かったな。

 それはいいから、少し離れろ。」

「もう少しだけ」スーハー

そう言って、

彼女は俺の耳元で深呼吸をする。

息がかかってくすぐったい。

 

「やはり、会う頻度は下げてもらえないか?」

このままではお互いに不味いと思い、

玲と会う頻度を下げるよう提案してみる。


「どうしてなんだ…

 私じゃ不満なのかい?」

彼女の瞳が再度、濁り始める。


このままでは会話がループしてしまう。

だから、一度流れを変える。


「俺には他にも◯フレがいる。

 そいつらのためにも

 会う頻度を下げて欲しい。」

嘘だ。

今の俺に他の◯フレはいない。


「ふーん…そういうことか…」ボソ

彼女は何かををつぶやいた。

何かに納得したようだ。


「わかってくれたか?玲」

「うん。翔の言い分は分かった。」

「ありがとう。助かる。」

彼女が聞き分けがいい方で助かった。


「その分の埋め合わせはしてもらうよ。」

「何が望みだ?」


交渉か…

厄介なことになりそうだ。


「翔。君は物分かりがいいな。」

「できることならやってやるだけだ。」

「ふふ」


俺たちは昼休みを使い、交渉を行うのだった。



ーーーーーーーーー


ウィーン


俺は学校から帰る途中にスーパーに寄った。

明日から作る弁当のための素材を買うためだ。


『なに、簡単なことだ。

 毎日、私のために弁当を作って

 ここで食べてくれればいいだけさ。』


玲から頻度を下げる代わりの条件で

弁当を作る羽目になったからだ

めんどくさいが等価交換だ。

玲に依存しないためだ。

我慢しなければならない。


ちなみに理由を聞いたところ


『君が振る舞ってくれる夕食を気に入ってな。      

 あれがあると一日の

 調子がすごく良くなるんだ。』

とお褒めの言葉をいただいた。


料理を誉められるのは嬉しい。

しかし、玲も変わったやつだ。


俺みたいなやつの料理を気に入るなんて…



「おにいちゃんだ!!」ダキッ

玲のことを考えてると腹に衝撃が走る。


い、いてぇ


「おにいちゃん、大丈夫?」

痛みに耐えながら腹の方に目を向けると

そこには見覚えのある黒髪の少女がいた。


どっかでみたような…

必死に少女のことを思い出そうとすると


「こら!美晴みはる

 急に走り出してどうしたの?」

そうしている間に保護者が来たようだ。


「おねえちゃん!おにいちゃんがいたの!」

「え?お兄ちゃん??

 あ、すみません。

 妹が失礼なことをしませんでしたか?」

「いや、特には何も。

 子どもは元気が一番だからな。」

腹に突撃されたダメージが残っているが

保護者に文句を言うほどではない。



おねえちゃんと呼ばれている保護者の容姿は

長い黒髪をおさげにして

メガネをかけた絵に描いたような文学少女だ。

怪我をしてるのか頬にあるガーゼが目立つ。


「おねえちゃん。

 ジュースくれたおにいちゃん」

「ジュース?

 あ!前にまた会いたいって言ってた人ね。」


ジュース?


あっ


やっと、思い出した。

俺が玲と公園で会った日に

オレンジジュースをあげた少女か


少女のことを思い出せてスッキリする。


「妹がご迷惑をおかけしてすみません!!

 今さらですが、代金は私がお支払します。」

「いや、構わない。

 余ってたジュースだから気にしないで」

「はい、そうですか…」

少女の姉は基本的に幸が薄そうだ。

言い方は悪いが少し暗い。


「とりあえず、落ち着いて。

 え…っと、美晴ちゃんだっけ?

 このお菓子あげるから一旦離れような。」

俺はさっき、

スーパーで買ったお菓子を美晴ちゃんに渡す。

まずはホールド状態から

抜け出さないとろくに話もできない。


「わ~い。おかしだ~!!」

「美晴!重ね重ねすみません。」

そう言ってペコペコ頭を下げる姉。


無邪気に喜ぶ妹と苦労してそうな姉

随分と対極な姉妹だ。


「自己紹介が遅れました。

 私は四条美鈴しじょうみすずと言います。

そして、こちらが妹は美晴です。」

「みはるです。4さいです」

「美鈴と美晴ちゃんだな。

 俺は佐藤翔だ。よろしくな」

俺は美晴ちゃんの視線に高さを

合わせながら自己紹介をする。


「さとー?」

「そうだぞ。さとーだ。」

「さとーおにいちゃん!」キャッキャッ

「おう。さとーお兄ちゃんだぞ~」

美晴ちゃんは俺の名前を呼ぶのが楽しいのか

それとも、俺の反応が楽しいのか

何度も俺の名前を呼んでくる。


子どもの相手をするのは心が癒されていい。


「ふふ、佐藤先輩は子どもが好きなんですね」

「一人っ子だから兄弟に憧れてたんだ。

 ん?それよりも先輩って…」

「制服を着ていたので

 先輩だと思ったんですが違いましたか?」

「多分、合ってると思うぞ。

 ちなみに俺は二年だ。」

「私は一年です。

 学校で会ったらよろしくお願いしますね。」


美鈴は同じ学校の後輩だったようだ。

だが、俺の噂を知らないのか

彼女は普通に俺に接してきている。


まあ、無駄に警戒されるよりはいいか。


「さとーおにいちゃん!あそんで~」ギュー

「ごめんな、美晴ちゃん。

 食材が痛むから帰らないといけないんだ。」

「やーだ!!あそぶの」ギュー

「美晴!佐藤先輩から離れなさい。」

「やー!!」ギュー

「普段はわがまま言わないのにどうして…」

美晴ちゃんが抱きついて離れず

それに対して止めよう美鈴が慌て始め

負のループに陥ろうとしている。

無理矢理剥がしてもいいが

美晴ちゃんを泣かせるのも心が痛む。


「美鈴ちゃん。

 連絡先を交換して貰ってもいいか?」

「え?構いませんが」

そう言って俺たちは連絡先を交換する。


「美晴ちゃん。ちょっといいか?」

「うん…」

少し冷静になったようだ。

しかし、手の力は緩めてくれない。

「今日は遊べないけど、

 お姉ちゃんと連絡先交換したから

 遊びたいときに連絡してくれ。

 そしたら、美晴ちゃんのとこに行くから。」

「ほんと?」

「もちろんだ。なんなら、指切りするか?」

「うん!」

「「ゆびきりげんまんうそついたら

  はりせんぼんの~ますゆびきった!」」

「約束だからな」

「うん、やくそく」

俺と美晴ちゃんは小指を絡めて約束する。


「先輩、すみません。

 美晴がすごくご迷惑をおかけして…」

「いいんだ。俺も美晴ちゃんと遊びたいし。」

なんとか場が収まったようで落ち着く。


「失礼します。先輩」

「じゃあね!おにいちゃん」フリフリ

「次は遊ぼうな」フリフリ

そのまま俺たちは解散することにした。

姉妹を俺は手を振りながら見送る。

嵐のような姉妹だったが楽しめた。



先ほどのやりとりで気分が晴れたのか

俺は軽快な足取りで帰宅するのであった。




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