case.1 西園寺玲視点 後編
「佐藤翔!私と寝てくれ!!」
「はい?」
彼が了承してくれた!
本来なら忌避すべき行為だが
この時の私はなぜか嬉しく感じた。
「いいのか!ありがとう。」
「ちょっと待て。今のは返事ではない。
どうしてそんなことになった?」
どうやら、ぬか喜びだったらしい。
私は肩を落とす。
「私が頼めるのは君しかいないんだ。
寝るのは証拠を作りたいのと
君へのお礼がしたいからだ。」
その後、
私は必死に彼と寝る理由を並べていく。
今の彼氏と別れるために他の男と眠る。
本来、あり得ない行為だ。
本当はこんなことしなくても
彼氏と別れることは簡単だ。
だけど、目の前の彼と関われなくなることが
嫌だから無理矢理この手段をとる。
「別に俺のことをだしに使うのは構わない。
どうせ、俺の評価なんて変わらないしな。」
「佐藤翔!」
彼は自分の名前を勝手に使っていいと言った。
優しい彼は自分を犠牲にしても
私のことを助けてくれるようだ。
彼に守られているようで嬉しい。
「だけど、
報酬とか言って身を売るようなのはやめろ!
俺はそんなんで関係は結びたくない。」
それと同時に私と寝ることを拒否してきた。
違う、私は君といる理由が欲しいんだ!
「…っ!
でも、何かしらお礼をしなければ
君に申し訳が立たない!」
私は卑怯だ。
本当は彼と分かれたくないだけなのに
お礼とか言って嘘をついている。
「別にそんなものいらない。
俺とあんたが関わることはもうない。
だから、気にしなくていい。」
「そんなこと…」
彼は頑なに私を抱くことを拒否する。
そんなに私に魅力がないのだろうか?
私はこんなにも彼と一緒にいたいのに…
女々しいことを思うなんて…
彼に会ってから
私はおかしくなってしまったようだ。
「あんただって初めて寝るのが
俺なんて嫌だろ?
はじめては大切な人にとっておけ。」
嫌だ?
私は彼とのはじめてが嫌なのだろうか?
ドクン
いや、むしろ…
「違う!嫌なんかじゃない。
君だからいいんだ。
君じゃなきゃ嫌なんだ!!」
口から勝手に言葉が出ていた。
私は気づいてしまった。
私は彼が好きだ。
佐藤翔のことが好きなんだ。
気づいたら、もうダメだ。
好きがどんどん溢れていく。
結局、私は無様にお願いをして
抱いてもらうことになり、
彼の家についていくことになった。
異性の家に行くなんて初めてでドキドキする。
私は動揺を隠しながら
前を歩く彼の後ろについていくのだった。
ーーーーーーーー
彼の家に着くと
夕飯を一緒に食べることになった。
彼はプライドが許さないとか言って
夕飯を用意してくれた。
彼の素直じゃないけど
優しいところがかっこいい。
キュン
胸が高鳴る。
彼が用意してくれた
春巻きはとても美味しく食べ過ぎてしまった。
聞いてみると彼の手料理だという。
料理が得意なのか。
また一つ、彼のところが知れて嬉しかった。
彼のことを知るだけで幸せな気分になる。
「そうさ、私だって君と同じで
見た目だけで判断されてるのだけさ…」
「ふーん」
「慰めてくれないのかい?」
「あんたを慰めてどうするんだよ。」
彼に私のことを話す。
少しでもいい私のことを知ってほしい。
興味をもって欲しいんだ。
「ふふ、そうやって
私に媚びないとこも好きだ。」
「彼氏持ちが男を口説くなよ…」
彼氏持ちは口説いてはいけないのか。
私はもっと彼と仲良くしたいのに。
彼に私のことを知ってほしいのに。
「そうだね…
早く自由になりたいものだ。」
本当に…
アイツ…邪魔だな…
…
ザバン!
食事の後、私は彼の後にお風呂に入った。
『あんた、服の替えないだろ。
これ前に来た子が置いてったやつだから。
好きに使っていいぞ。』
そう言って彼が渡してくれた服に着替える。
おそらくろ彼の元◯フレの物…
私はそれがすごく不快で忌々しく感じた。
醜い嫉妬だ。
別に私は彼の恋人ではないのに…
「お風呂ありがとう。気持ちよかった」
「それはよかったな。」
お風呂から出ると彼の部屋に向かった。
彼は椅子に座って待っていた。
私はスウェット姿の彼をチラチラ見ながら
ベッドの方に腰かけた。
私はこれから起こることを想像して
ドキドキが止まらなくなる。
動悸のせいで落ち着かなくなり、
私は近くにあった枕を手に取る。
ギュ
抱き締めると心地よい香りがして落ち着く。
この枕を持って帰りたいぐらいだ。
「君の匂いは落ち着くな」
「あー、他の子にもよく言われるわ。」
「これから私と寝るのに
デリカシーのないやつだな。」
やめてくれ
他の女の話はしないでくれ
私だけを見てほしい
歪んだ思想が止まらない
「めんどくさい彼女みたいなのはやめろ。
俺とあんたは今日だけの関係だ。」
彼の言う通りだ。
私と彼は今日だけの関係。
このままだともう会えなくなる。
そんなの…
絶対に嫌だ!
彼と離れたくない!!
「逃がさないよ」
私は呟く。
欲しい物のためにはもう手段は選ばない。
私はこんなに悪い子だっただろうか?
本当の恋とは人を変えてしまうんだな。
自嘲気味に私は思う。
「なんか言ったか?」
彼は呑気そうな顔をして私を見てくる。
その警戒心のない顔がすごくそそる。
もう…我慢の限界だ
「始めようと言ったんだ。」
バサリ
私は服を脱ぎ去り、部屋の電気を消した。
そして、彼のことを押し倒す。
こんなこと、彼氏にもしたことがない。
彼だからだろうか?
私の全てをさらけ出したくなる気分になる。
「んちゅ…んん…」
彼の口に深くキスをする。
体が発情していく。
ただのキスなのに興奮する。
彼氏とのキスとは違い、
私の心が満たされていくことが分かる。
「ちゅ…ぁん…」
そのまま私は舌を彼の口に侵入させる。
まるで彼の口を犯すように
ピチャピチャといやらしい音を
立てながら蹂躙していく。
好き!愛してる!
その気持ちを彼にぶつけるように
「プハッ、佐藤翔、気持ちいいかい?
私は君を感じられてとても気持ちいいよ。」
息継ぎのために一度口を離す。
そして、そのまま彼に問いかける。
彼の気持ちが知りたい。
彼が私のキスをどう思っているのかを
「ああ。気持ちよかった。
あんたはこういうことは
疎いと思ってたんだけどな。」
彼も顔を上気させて答えてくれる。
どうやら、興奮しているようだ。
よかった…
気持ちよくなってもらえたようだ。
彼が私で気持ちよくなったこと。
そのことが私のことをより昂らせる。
尽くす幸せとはこういうものなんだね。
また君に一つ教えて貰ったよ。
「ねえ、もし君を気持ちよくできたら
私を○フレにしてくれないか?
私なら、君のすべてを受け入れるし、
君の望むことを何でもするよ。」
私は彼に手錠をつけることにした。
◯フレというなの手錠を…
彼が日常に戻ったとき、
私から逃げ出さないように
「彼氏と別れるから人肌寂しくなるんだ。
君の肌で温めてくれないか。」
そして、この体を使って精一杯誘惑する。
彼の欲望を解き放つために
「お願い。翔…」
ガバッ
「きゃっ!翔?」
彼も限界が来たらしい。
彼の目線と私の目線が重なる。
初めて、彼が私のことを
ちゃんと見てくれた気がした。
ようやく、彼の世界に私は入ることができた。
「お前が煽るから悪いんだからな。」
その一言を境に私たちの行為は始まった。
そして、
理性のなくなった私たちは
一晩中、二人の世界で愛し合うのであった。
…
…
朝起きると私の横で彼が寝ている。
「ふふ、寝顔はかわいいな」チュ
彼の頬にキスをしながら寝顔を堪能する。
昨夜は大型犬のようにカッコよかったが
今は小型犬のように可愛らしい。
サスサス
お腹を愛おしく思いながら擦る。
別に中に出されたわけではない。
しかし、昨日彼と愛し合った感覚が
まだ残っている気がして嬉しくなる。
「ふふ」
鏡を見ると汗や色々なもので
汚れている自分が見える。
とても穢らわしい姿だ。
しかし、私はそれよりも顔に視線がいく。
私の表情はとてもにやけている。
人にはとても見せられない。
だが、すごく幸せそうに見える。
「こんな顔、君だから見せるんだよ」ボソ
そう呟きながら彼の寝顔を再度見る。
やはり、
彼の顔を見るだけで胸の奥がぽかぽかする。
「離さないからな…」
私は低い声で呟く。
この男を逃がしたくない。
こんな喋り方をしているが
私も所詮は女だ。
好きな男の前では女らしくありたい。
彼に私だけを見てほしい。
私だけを愛してほしい。
だが、彼には他にも
関係を持っている女がいる。
許せない…
私以外の女が彼に愛されることが…
彼に他の女は必要ない。
私だけでいい。
私の全てを捧げる。
それなら、他になにも入らないだろ?
「翔…愛してるぞ」
だから、君の全ても私に捧げてくれるよね…
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