case.1 西園寺玲視点 前編
文武両道、才色兼備の生徒会長
それが私のみんなからの評価だ。
そんな私には恋人がいる。
彼は生徒会の副会長で
生徒会では相棒のように過ごし
プライベートでは二人で遊びに行く。
いや、行っていたというのが正しいか。
「玲さん!
仕事でカッコよく振る舞いプライベートは
優しいあなたに惚れました。
僕と付き合ってください。」
告白は彼からだった。
彼は生徒会の面子がいる前で告白してきた。
私も彼が嫌いではなかったので
受け入れることを決めた。
これからは彼と一緒に幸せになろうと
そう思っていた。
しかし、現実は違った。
「あぁ、ごめん。
僕、今日は予定があるから
仕事を頼んでもいい?」
「今日のデートだけど
急用が入ったから無理になった。
ごめん。玲」
私と彼がいる時間が付き合ってから減った。
付き合う前よりもだ…
三年で忙しい時期だ仕方がない。
彼には彼の用事があるのだ。
だから、私は彼のことを信じていた。
あの場面を目撃するまでは…
彼にデートをドタキャンをされたある日、
私は暇になったので
喫茶店に入り、お茶をしていた。
「ねぇ、生徒会長さんとはどうなの?」
「少し構ってあげればコロッと落ちる
ちょろい女だったわ。」
聞き覚えのある声が私の耳に届いた。
「顔は美人でスタイルもいいけど、
貞操が固すぎてキスもあんましできない
めんどくさい女だわ。」
「だから、私に手を出してるんだもんね。」
「あいつと付き合ってるのは
ステータスの為だけだ。
俺が愛してるのはお前だ。」
私は見てしまった。
ドタキャンした彼氏が他の女に
肩に手を回しながら話している姿を。
「そもそも、
ステータスの為じゃなかったら、
あんなつまらない女と付き合わない。」
その言葉を聞き、
私は喫茶店を隠れながら後にする。
悪いことをしたわけでもないのにだ。
「私は…バカだ。
あんな男に騙されていたのか。」
喫茶店を隠れるように出て
公園のベンチで自己嫌悪に陥る。
何も見えていなかった自分が嫌になる。
女としての魅力がない私を嫌いになる。
「…っく。…ぅぅ。」
思わず涙が出てくる。
彼氏に騙されて悲しいから出ているのか
不甲斐なさから出ているのかは分からない。
「誰かいるのか?」
「な、なんだ?」
そんなとき、急に声をかけられた。
こんな姿など今は誰にも見られたくなかった。
「なぁ、こんな時間に何してるんだ?
もう学生は帰る時間だぞ。」
心配するセリフを入ってくる。
今時こんなことを言うなんて
随分、おせっかいな人間だ。
声の方に振り向くと
そこにいたのは金髪でよく焼けた肌の
うちの学校の生徒だった。
彼のことはよく知っている。
「貴様は…佐藤翔!」
佐藤翔
学校で女を食い散らかしていると
噂になっているわが校の恥のような生徒だ。
私はまだ生徒会役員のときに
風紀の乱れを正すために
彼と接触したことがあった。
その時は
…
「貴様が佐藤翔だな!」
「あぁ。そうだけどあんたは誰だ?」
「私は生徒会役員の西園寺だ。
貴様のような人間が
この学校にいるのは耐えられない。
すぐに学校をやめるんだ。」
私は彼を噂で判断して
学校を辞めるように言い募った。
この判断は間違っていないと信じて…
「へぇ」
「…っ」
目を見た瞬間、竦み上がってしまった。
彼は私のことを人として
見ていなかったのだ。
スタスタ
「お、おい。まだ話は終わってないぞ。」
私はその場を去ろうとする彼を
震えながら引き留める。
「なんだ?
あんたと話す価値はない。」
「なん…だと」
私に価値がない…
そんなこと言われたことはなかった。
「じゃあな、二度と視界に入るなよ。」
そう言って私に振り向くことなく歩いていく。
侮辱されたのにも関わらず、
私は彼の背中を呆然と
見送ることしか出来なかった。
…
そして、あのときの彼が今私の目の前にいる。
「貴様みたいなやつが私に何の用だ!
私は貴様のように軽薄な人間じゃないぞ。」
私は噂通りに私に手を出してきたのかと思い、
彼に厳しい態度をとる。
「泣いてるみたいだったから、
声をかけただけだ。
それに学生はもう帰る時間だろ。」
私のことを心配して声をかけてきたのだろう。
いや、彼のことだ。
そうやって、
女を手にかけてきたに決まっている。
「そんなの私の勝手だろ。
貴様などに心配される筋合いはない!」
私はそんな手には引っ掛からない。
そう思っても私は
彼から目を離すことができない。
あの時の目を思い出すからだ。
私に一切興味のない目を…
「分かったよ。
邪魔して悪かったな。」
そう言って、彼は私に背を向けて歩き出す。
これでいい。
彼は関係ないのだから…
それなのに
「ま、待ってくれ」
私は彼を引き留める言葉を口にしていた。
なんで引き留めたのかは分からない。
だけど、本能が彼を逃がしては
ダメだと私に警告してきたのだ。
「あ?まだなにか文句でもあるのか?
俺だってあんたにレッテルを
貼られて苛ついてるんだけどな。」
彼の声色はとても怖く、
私の体は震え出してしまう。
だけど、力を振り絞る。
「私が悪かった。すまない。
ただ、貴様と話をしたいだけなんだ。
だから、そんなに怖い顔をしないでくれ…」
それにしても、レッテルか…
周りが勝手にイメージを押し付けてくる
事実かどうかは関係なしにだ。
私だってそうだ。
一度完璧と思われたら
ずっと完璧でいなければならない。
そんな重圧と戦っている。
彼も実はそうなのかもしれない。
本当は噂のことなどしてなくて
イメージだけで…
もしかしたら、
私は彼にとんでもない
偏見をしていたのかもしれない。
そう思うと自然と胸が苦しくなる。
「貴様っ…!?私のことを覚えてないのか?」
「俺のことを偏見で
見るような女に興味はない。」
話してみると彼は私のことを覚えてなかった。
私に興味がないのだろう。
ナンパをするどころか
私から離れようとしている。
その姿を見るとなんだか寂しさを感じる。
今、私は寂しいと思ったのか
どうしてだ?
相手はあの佐藤翔だぞ。
「まあ、どちらにせよ。
あんたと俺は他人だ。
俺は帰らせてもらう。」
逃がしちゃだめだ!
心が警音を鳴らしている。
「待ってくれ!
君を偏見な目で
見ていたこと申し訳なく思っている。
本当に申し訳ない!!
だけど、今だけは…今だけは!
話を聞いてくれないだろうか?」
そう言って私は彼に頭を下げた。
誰かに…いや彼に聞いてほしかったんだ
私のことを彼に…
ポタポタ
涙が落ちていく。
こんな無様な姿は親にも見られたことがない。
「はぁ…。話せよ、その相談とやらを」
彼は私の話を聞いてくれるようだ。
散々、失礼な態度を取ったのに…
彼は想像と違い優しい人なのかもしれない。
ギュッ
…っ。なんだこの気持ちは…
少し胸が熱くなったような気がした。
…
「なるほどな」
「それは辛いな」
彼は静かに私の話を聞いてくれている。
経験豊富そうな彼なら
なにか案を出してくれるのではないか?
そう思うと私の胸は期待で熱くなる。
「残念ながら、
俺は恋愛なんてしたことはない。
体の関係だけだ。」
「な!?
それなら、君の噂は本当なのか」
私は体を守るように腕を前にする。
やはり、彼は噂通りの人間だったのか!!
そう詰め寄ろうとした。
「俺は契約を結んで体の関係になっている。
あくまで互いの利益のためだ。
だから、
彼女たちを傷をつけたことなんてない。
もし、何かあっても責任を取るつもりはある
それでも俺は酷い男なのか?」
彼の問いに私は答えることが出来なかった。
確かに彼のやっていることは世間的には
最低と言われている行為だ。
しかし、外野が口を出す問題なのだろうか?
それに私からして見ると
私の彼氏よりもよっぽど誠実だと思う。
恋愛という不確かな関係ではなく
契約での体の関係。
そこになんの違いがあるのか。
今の私には答えることができなかった。
「まあ、あんたみたいな
人を表面でしか見ない人間に
どう思われようがどうでもいいがな」
彼は外野に興味がないんだ。
自分の関係に口を出してくる外野に
そこに私も含まているのだろう。
悲しくなってくる。
だから、なぜこんな感情が出るんだ!
抑えの効かない感情に
頭がおかしくなりそうだ。
「そうなんじゃないか。
あんたは見る目ないし。」
「あんたに取り繕ってどうする」
「逆に決まっているだろう。バカか?」
彼は私に対して遠慮がない。
本音で向き合ってくれているんだ。
こんなに心地のいい関係は初めてだ。
「まあ、理由を作って別れるんだな。
そんなやつと付き合ったって
あんたが傷つくだけだ。」
そんな興味のない私のためにも
案を出してくれる彼。
彼を知れば知るほど最初の印象と違い、
すごく好感が持てる。
「こんな私のために考えてくれるなんて…
君は優しいんだな。
でも、別れる理由なんて…」
「早く終わらせたいから案を出しただけだ。
これ以上、
恋愛なんて面倒なことに俺を巻き込むな。」
本当に彼はお人好しだ。
ぶっきらぼうにしているが
優しさが隠しきれていない。
そんな彼の隠れた優しさに触れるだけで
胸がぽかぽかする。
それにしても、別れる理由か…
こちらから、別れを告げるのは簡単だ。
別れる理由は全てあいつにあるからだ。
ただ、一つ心残りがある。
このままでは恐らく目の前の
彼と関わることが出来なくなることだ。
はっきりさせよう。
私は彼に惹かれている。
だから、彼との縁を切りたくない。
だけど、このままだと
彼はもう私と会ってくれないだろう。
彼は私を拒絶しているから。
そう私の勘が言っている。
どうすれば、
彼がまた会ってくれるだろうか?
「あ!」
一つだけ思いついた。
彼が私と会ってくれる方法を
彼の中に私を植え付ける方法を
「佐藤翔!私と寝てくれ!!」
彼は口を開けたままぽかんとしている。
この時、初めて私は彼の不機嫌以外の顔を見た。
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