case.1 西園寺玲 後日談

あれから、二週間が過ぎた。

結局、俺と西園寺は関係を持ったが

あの後一度も会っていない。


仕方のないことだろう。

彼女とは一夜限りの関係で住む世界が違う。

そもそも俺と関わる人間ではないのだ。

だから、もう会わない方がいいだろう。


それに同じ学校のやつと寝るのは

トラブルの原因となるから

俺としても避けたい。



「ねぇ、知ってる?

 生徒会長別れたんだって」

「えっ!?

 副会長と別れたの?

 あの二人お似合いだったのに~」

クラスの女子が

噂話をしているのが聞こえる。

声がでかいから丸聞こえだ。


噂曰く、どうやら西園寺は

無事に別れることができたようだ。

多少は役にたったのならよかった。

相談に乗った身として

少しほっとする。


「副会長が他の女の子にも

 手を出してたんだって~」

「二股~?サイテー。

 副会長って真面目そうだったのにね。」

「意外だと思うけど,

 会長が浮気の証拠をみんなの前で

 公にしたらしいから間違いないよ。」

「人は見かけに寄らないってことか。

 副会長ももう学校に居づらいかもね~。」


少しだけ違うことがある。

西園寺が俺に浮気したから別れたのではなく、

彼氏の方が浮気したことになっている。

つまり、西園寺は俺と寝なくても

彼氏と別れることができたのだ。


なら、なんで俺と寝たんだ?

あの日の夜のことを疑問に思う。


「佐藤翔」

顔を机に伏せて

理由を考えていると声をかけられる。

その声は聞き覚えがある。

関わりたくないので顔を伏せたままにする。


「顔を上げないとキスをするぞ」


ガバッ!


俺の耳元でぼそりと呟かれた一言に

驚いた俺は勢いよく頭を上げる。



「何してるんだ…西園寺玲」

案の定、顔をあげるとそこには

先日に俺と関係を持った西園寺玲がいた。


「おはよう、佐藤翔。

 久しぶりだな。

 生徒会室に来てもらってもいいか?」

「ああ、構わない」

急な接触に驚いたが

俺は大人しく彼女についていく。

抵抗などしても意味がない。


「♪~」

前を歩く彼女は鼻歌を歌いながら歩いている。

なにやら上機嫌らしい。



まさか、接触してくるとは思ってもいなかった。

学校で彼女が俺と関わるメリットなどないのに…


ガチャリ

彼女は生徒会室の扉を施錠し、

誰も入れないようにする。

部屋の中にいるのは

もちろん俺と西園寺の二人だけだ。


「ここなら、誰にも邪魔されずに話せるな。」

「学校の物を私物化するなよ。」

生徒会室に備え付きのソファに並んで座る俺たち。

対面に座れとか距離が少し近いとか

言いたいことはあるがあえて口にしない。

藪蛇になりそうだからだ。


「普段はいい子にしているんだ。

 たまにはわがままをしてもいいだろう。」


「随分、変わったんだな。」


「君が私を変えたんだろ。

 君のせいで

 私は悪い子になってしまったんだ。」

そう言いながら意地の悪い顔を見せる。

公園で会った時の堅物が変わったものだ。


だけど、

俺はなにもしていないから

責任転嫁はやめてほしい。


「用件はなんだ?手短に頼む。」

「せっかく会えたのだから

 ゆっくりしようじゃないか。」サスサス

俺に密着してきたと思ったら、

いやらしい手付きで俺の太ももを触ってくる。


「触るな。」ガシ

太ももを撫でる手を握って止める。

こいつ…何を考えているんだ。

もしかして、ここでする気なのか?


「君の手は大きくていいな。

 それにあたたかくて気持ちいいよ。」ギュ


「話す気がないなら俺は帰るぞ。」


「相変わらずつれないな。

 君と私の関係じゃないか。」ニギ

飄々とした受け答えをしてくる彼女は

俺の手を楽しそうにニギニギさせている。


「俺とあんたはあの時だけの関係だ。」


「一度はシた仲じゃないか。

 それに◯フレにしてくれるって

 約束したじゃないか」スリスリ

そう言って俺の手に頬擦りし始める。

その姿はすごく官能的だ。


「ベタベタするなら恋人としろ。」

「今は残念ながらフリーになってしまってね。

 それとも、君が恋人になってくれる?」

「バカなことを言うな。

 俺は恋人なんていらないぞ。」

俺はそういう関係は望んでいない。

ただ、性欲を解消するだけの関係でいい。

恋愛などというめんどくさい関係は

俺には必要がない。


「それに俺とあんたの関係は終わりだろ」

「終わり?なんでだ?」

彼女は不思議そうにこちらを見てくる。


自分の浮気の証拠を作るために

俺と寝たのを忘れているのか?


「あんたは彼氏と別れたんだ。

 もう俺との関係は必要ないだろ。」

「あーそんなことか。」

どうでもよさそうに彼女は納得する。

そこが一番重要だろ。

彼氏と別れる証拠のために俺と寝たんだ。

もう関係を続ける意味はない。


「そんなことって!」

「別に私が別れたからって

 君との関係が終わる理由になるのか?」

「抱かれる理由がないだろ?」

「そんなもの私が君に抱かれたいからに

 決まっているだろう。」

当たり前のことを言わせるな

というように呆れ顔で俺に言ってくる。


「自分が言っていること分かっているのか!」

「私は君と◯フレになりたい。

 証拠とかお礼は関係なしにね。」

「そんな人間じゃなかっただろ。あんたは」

「だから、君が私を変えたんじゃないか。

 あれから、ずっと体が君を求めている。

 私は体の疼き収まらないんだ。」ゾクゾク

そう言って体を震わせながら

顔を上気させている西園寺。

あの時と同じでとてつもなく色っぽい。

本気なのが伝わってくる。


「責任を取ってくれ。佐藤翔」チュッ

俺の唇に軽いキスを落とす。

その表情は明らかに俺を求めている。


どうやら俺は彼女に

とんでもないことをしたようだ。


彼女が狂ってしまうほどに…



はぁ…仕方がない

腹をくくるしかないか


「せめて、学校ではやめろ。

 公共の場所でやる趣味は俺にはない。」

「じゃあ!」

目を大きく開き、嬉しそうな顔をする。


そんな顔をするな…

あくまで体だけの関係なんだぞ


「シたいなら、放課後に俺の家に来い。

 連絡先はこれだ。」

連絡先の書いた紙を彼女に渡す。


「いいのかい?君は嫌なのかと思ってた。」

「あんたがそうなったのは俺のせいだ。

 だから、責任はとる。

 あんたに相手ができるまではな。」

彼女は俺が連絡先を渡すのが意外だったのか

少し驚きながら紙を受けとった。


さすがに俺もこのぐらいのことはする。

彼女が狂ったのは俺のせいだ。

だから、それを発散させるぐらいには

付き合う甲斐性は見せないといけない。


その責任が俺にはある。


「私は君のそんな風に甘いとこが好きだよ。」

「勝手に言ってろ…。

 あんたに相手ができるまでだ。

 それまでは関係を持ってやる。」

「わかった。

 私に相手ができるまでだな。

 それなら好都合だ…」

彼女の言い方は何かを

含んでいるようだったが無視する。


「西園寺、これからよろしく頼む。」

「玲と呼んでくれ。翔

 こちらこそよろしく頼む。」サッ

「分かった。玲」ギュ

同意した証ということで握手をする。




こうして、

生徒会長と噂のクズ野郎

本来なら交わることのないはずだった

俺と玲は正式な◯フレ関係という

歪な関係を結んだのであった。

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