case.2 四条美鈴 後編

「ふぁ~」

俺は自分の席に座ってあくびをする。

今は月曜日の休み時間だ。

先週末に美鈴の件もあり、

色々疲れたのでめちゃくちゃ眠い。


とりあえず、結論から話そう。


美鈴は無事に彼氏から解放された。




何があったのかと言うと…



……


………


『美鈴、こんな時間まで何やってたんだよ!

 俺の断りもなく出掛けるな。』

『啓大…

 別にただ美晴とお出かけしただけだよ。』

俺と遊んだ帰りに美晴と家に入ろうとした

美鈴に例の啓大が理不尽に怒鳴り散らした。


『そんなことどうでもいい。

 お前は俺に従っていればいいんだ。』

『私だって自由にしたいときはあるよ。』

『お前は俺の彼女だ!

 そんな自由は許さない。』

『そんなの彼女じゃないよ!

 ただの人形だよ。』

『うるさい!うるさい!

 お前は大人しく

 俺の言うことを聞いてればいいんだ。』

二人の会話がヒートアップしていく。

啓大の方は聞いていたよりも

数段やばいやつかもしれない。


『おねえちゃんを苛めるな!』

『美晴!?駄目よ。大人しくしてて』

美鈴が危険だと思ったのか、

一方的に責められてる姉を守るために 

二人の間に入っていく美晴ちゃん。

これでは火に油を注ぐようなものだ。



『どいつもこいつも俺に逆らうな!』

自分の思い通りにならないのが気に入らず

啓大は美晴ちゃんに手を伸ばす。


『だ、駄目!!』

啓大の手が美晴ちゃんに触れる寸前


『そこまでだ』ガシ

『な、ぐぇ』ドスン

俺は啓大の肩をつかみ

そのまま力を込めて尻餅をつかせる。



『大丈夫か?二人とも』

『『おにいちゃん(先輩)!!』』

どうやら、間に合ったようで

二人とも怪我はしていないようだ。



『さぁ、家に入るんだ。』

『でも、先輩は?』

『なに、少し話し合いをするだけだ。』

『分かりました。美晴も行くわよ』

『うん。』

美鈴は俺の言葉に納得したようで

美晴ちゃんを連れて家の中に入っていく。


さて、これで障害はなくなった。


『お前、一体なんなんだよ!!』

尻餅をついた無様な格好で啓大は叫ぶ。


『誰でもいいだろ。

 それよりもさっきの会話を撮らせて貰った。

 これは美鈴の両親に渡すからな』

『な!』

そう言って俺は手に持ったスマホを見せる。

そこにはさっきまでの

会話を撮った動画が流れている。

この証拠を得るために俺は隠れていた。


『ふざけるな!

 そんなことをしたら俺がー』

『お前のことなんてどうでもいい。

 因果応報ってやつだ。

 大人しく受け入れろ。』

グズの戯れ言を聞いている時間は俺にはない。

早めに終わらせたいんだ。


『くっ…許さないぞ美鈴。

 今度はもっとひどい目に…うわぁ』グイ

言い終わる前に俺は啓大の首元を掴み、

無理矢理立たせる。


『次に二人に手を出してみろ…

 そしたら、お前に何倍にもして返すからな!

 覚えておけ…この屑やろう!!』

『ひっ』ドサ

俺は掴んでた手を離す。

啓大は俺の怒声がよほど怖かったのか

腰を抜かしてしまったようだ。


『じゃあな、二度と面を見せるなよ』ガチャン


それだけ、言い残しは二人の待つ家に入った。






これが事の顛末だ。

その後、美鈴の両親にスマホの動画を見せ、

今後は接近禁止ということで落ち着いた。



終わりよければ全て良しというやつだ。


「ねえ」


なんか、無駄に美鈴のご両親に気に入られて

今度また遊びに来てほしいとも言われた。

社交辞令ならまだしも本気なら、

この見た目でよく気に入ったもんだ。


「聞いてる?」


いくら、娘を助けたからって

こんな柄の悪いやつだぞ。

あまり、かわいい娘に近づけるべきではない。


「ねぇ、聞いてよ佐藤くん!!」

「うぉ?何だよ。」

「ずっと、話しかけてたんだけど。」

俺が四条家のガードの甘さについて

考えていたら、隣の席の五十嵐朱里から

話しかけられているのに気がつかなかった。


「それはすまない。

 で、何の用だ?

 俺にお前と話す時間はないんだが。」


「なによ。その言い方…

 まあいいわ。

 佐藤くんって生徒会長と仲がいいの?」

俺の言い様に腹が立っているようだが

怒りを抑え込んで質問をしてくる。


玲のことか…


「お前には関係ないだろ。

 それに、別に仲が良い訳じゃない。」


「嘘。

 お昼の時、生徒会長と一緒に

 生徒会室に行ってるの知ってるよ。」


「生徒会の仕事を手伝ってるだけだ。」


「それに放課後、

 二人が一緒に帰ってるのも見たよ。」

五十嵐はしつこく俺と玲の関係を聞いてくる。


なんだこいつ。

人のプライベートに踏み込むとか…

何様のつもりなんだ?


「で、それがなに?」

「お、怒らないでよ…

 私はただその時の会長の顔がー」

「ちょっといいかい?翔」

イラつく俺に怯えながらも

理由を話そうとする五十嵐の言葉を遮り、

俺に話しかけてくる声がする。


この時間に来るなんて珍しい。


「なんだ。西園寺」

「話があるんだ。来てもらってもいいかい?」


玲だ。

昼休み以外の時にここに来るのは珍しい。

それでも来たということは急用なのだろう。


「分かった、すぐに行く。」

「あ、ちょっと!?

 話はまだ終わってないわよ。」ガシ

五十嵐は俺の手を掴み行かせないようにする。


いや、状況が読めないのかこいつ?


「すまない、急いでいるんだ。

 彼を借りてもいいかい?」

「生徒会長っ…

 分かりました…」

玲に言われてさすがに諦めたのか解放される。


「佐藤翔。付いてきてくれ。」

そう言って、歩き出す玲に俺はついていく。



ジロリ



ん?


歩いていると強い視線を感じた気がした。

しかし、周りを見渡しても

こちらを見ている人物はいない。


気のせいだろうか?

まあ、玲と歩いていると目立つから

少しぐらいは見る人がいてもおかしくないか。






「ここなら、いいだろ」

そう言って玲はその場に立ち止まる。


「体育館の裏か。

 こんなとこでなにするんだ?」

「こうするんだよ。」チュ

俺が油断をした一瞬の隙をついて

彼女は俺の唇にキスをしてくる。


「…んっ、ちゅっ…」

舌を絡めてくる深いキスだ。

玲の甘い香りがして頭がくらくらしてくる。


「ぷはっ、やめろ!こんなところで」

「こんなところでだからこそだよ。

 君も気持ちよかったんじゃないか?」

「用件があったんじゃないのか」

玲は自分の唇を愛おしそうに触わる。

俺は彼女が余計なことを言う前に話をそらす。


「あるにはあるんだが、

 翔の唇が美味しそうに見えてつい…」

「つい…じゃないだろ!!

 誰かにバレたらどうするんだ?」

「こんな時間に人は来ないよ。

 それにバレても別に私は構わない。」

ふざけているのかまともに答えようとしない。


「これ以上、ふざけるなら

 お前との関係も終わりだ。」

「ご、ごめん。調子に乗った。

 もうふざけないから…なんでもするから

 それだけは…それだけはやめてくれ!」ダキ

玲は震えながら俺に抱きつきついてくる。


俺に許しを乞うように…


「すまない。

 俺も言い過ぎた。

 言ったことは忘れてくれ。

 とりあえず、呼んだ訳を聞きたい。」

「よかった…。」ギュ

玲は安心したのか俺に体重を預けてくる。


「で?なん用だ。」

「君の隣の席の女…」

「五十嵐のことか?」

「そう、彼女は君のなんなの?」

彼女の質問に俺は困惑する。

全く質問の意図が理解できないからだ。


「ただの隣の席の人だ。」

「その割りにはさっき話してなかった?」

「俺だって話くらいするぞ。」

「嘘、君は私以外に話す人がいないだろ。」

嘘を看破して詰め寄ってくる。



「もしかして…◯フレなのかい?」

「!?」


俺と五十嵐が◯フレ?


「黙ったということはそうなんだね。

 そうか…あの女が…」

とても冷えた声で玲は呟き始める。


周囲の空気が重くなった気がした。


「違う!俺と五十嵐はそんな関係じゃない。」

「必死になってるところが怪しいな」

「そんなこと言われても違う。

 俺のことを信じてくれ!!」

どうやら、玲は俺と五十嵐が

関係を持っていると勘違いしている。


「君は私以外にも◯フレがいるんだろ?

 だから、その言葉は信用できないな。」

自分が前に言った言葉が自分の首を絞める。


「そんな…

 なら…それなら!

 どうすれば信じてくれるんだ。玲!!」

俺は信じてもらうために彼女に懇願する。

今の彼女を止めるにはこれしかない。


「ふむ。」ギュ

彼女は抱きつく力を強めると

俺の方に目を瞑って顔を向けてくる。


「信じてほしいなら君からキスをしてくれ。」

「なんでそんなことを?」

「君からしてくれた方が

 愛されてる感じがするからな。」ギュ-

俺に抱きつく力がさらに強くなる。

これ以上は何を言っても無駄のようだ。


「…んん。ちゅぱ…きもちいいよ翔…」

俺から彼女にキスをする。

舌を入れると彼女の舌は抵抗せずに

俺の舌にされるがままになる。

その姿が俺の嗜虐心をくすぐる。


「…ちゅっ…かける…もっとぉ」

俺からキスをしたときの

彼女の表情はとても幸せそうだ。

おねだりもしてくる。


「んん…かけるは…ちゅっわたしの…」

どうやら、タガが外れてしまった。

彼女はキスを止める気がないようだ。


「玲…んん…ちゅ」


俺も興奮が止まらない。

もう理性を抑えることはできないようだ。



その後、俺たちのキスは止まることなく

チャイムが鳴るまでキスを続けた。



一気に現実に戻されたようだった。

少し人助けをしようが俺は結局変われない。

俺の存在を改めて認識させられた。



俺は所詮、汚れた存在だと…



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