case.3 五十嵐朱里 後編

結局、

俺は五十嵐に引っ張られ、

強引に海辺の方にまで連れていかれた。


ザァー


海は夕日に照らされて赤く染まっている。

とても幻想的だ。


「わーーーー!!」バシャ

海辺まで連れてきたと思ったら、

俺を放り出して、海へダイブした。


「冷たくて気持ちいいーー!!」

「帰っていいか?」

「えー!?私と遊べるのに帰っちゃうの?」

「むしろ、お前だから帰りたいんだけどな。」


こいつ自意識過剰すぎだろ?


バシャー!!


「ぶっ!?」

「あはは、水も滴るいい男だね!」

俺が濡れているのがおもしろいのか

彼女は腹を抱えて笑い始める。

びしょ濡れの俺が相当お気に召したようだ。


「お前なぁ…」

水に濡れた俺はというと

呆れてしまい怒る気にもならない。


すると彼女は


「あはははは…。

 私、なんで君とここにいるんだろうね?」

「お前がついてこいって言ったんだろう」

急に冷静になって真面目なことを言い出す。


ここまで来ると緩急というより静と動だ。

色々通り越して感動してしまいそうになる。


「あはは…そうだったね…」

「言わないなら俺は帰るぞ。」

苦笑いする五十嵐。

時間の無駄だと無視して帰ろうとする。


「ま、待ってよ」ガシ

帰ろうとする俺だったが

彼女腕を掴まれ、その場から動けなくなる。


「ごめん!言うからちょっと深呼吸させて」

「…」

謝罪をしてくる彼女の様子を見て、

俺は無言で言葉の続きを待った。





そして






「佐藤くん…私と寝てくれないかな?」


夕日で照らされる幻想的な赤い海を背景に




彼女は俺に告白をしてきた。









「断る」

「なんで断っちゃうの!?

 普通ならここはYESのとこでしょ!」

即答する俺に食ってかかる五十嵐。

興奮して言ってることがおかしい。

いや、元からこいつはおかしいか。


「当たり前だろ。

 なんで俺がお前と寝ないといけないんだ?」

「私、男の子たちから結構人気あるんだよ!

 だったら、抱きたいとかあるでしょ?」

「何度も言わせるな。

 俺はお前に少しも興味はない。」

「えー…」

信じられないものを見るように俺を見る五十嵐


自分の見た目には自信があったのだろう。

実際に彼女の見た目は優れている。

周知の事実だろう。

それ以外が俺の対象外なだけだ。


「うー!そこまで言わなくてもいいじゃん。

 めちゃくちゃ恥ずかしかったのにーー!!」

「…」

むくれ始める彼女を俺は無言で見つめる。

彼女の意図がいまいち掴めないからだ。

単に俺のことを

からかっているだけとは思いたくないが…


「お願い、佐藤くん…

 私と一緒に寝てよ…」ポロポロ

「泣き真似なんかしても意味ないぞ。

「ギクッ」

泣き真似で俺を落としに来ているようだが、

気のあるやつならいざ知らず、

彼女に興味のない俺にやっても効果はない。


「そうだ!

 抱いてくれないなら、

 佐藤くんに襲われたって皆に言いふらすよ。

 嫌なら、私の言うことを聞いてよ。」

「勝手に言ってろ。」

「い、いいの?そんなこと言って」

「元々、噂のせいで俺の評価は最低なんだ。

 そんなことされても大して変わらない。」

「あ!」

今度は脅す方式に切り替えようとしたらしいが脅しのやり方が拙い。

それよりも酷い脅しをされている俺には

なんの脅威にもならない。


「なら…なら…」

「なぁ、お前には彼氏いるんだろ?

 俺なんかじゃなくてそいつに頼めよ。」

次の手を考えている彼女に俺は正論を言う。

そもそも彼女には彼氏がいるのだ。

その彼氏くんと勝手に仲良くしていればいい


「いや…それは…」

「それともお前は◯ッチなのか?」

「違うよ!!

 彼氏以外としたことなんてないよ…」

「なら、なんで俺に頼むんだよ。」

俺の言葉を彼女は否定する。

しかし、客観的に見ても彼女の行動は異常だ。

◯ッチと思われても仕方がない。


「理由を言わないとダメ?」

「言わなくてもいい。

 どちらにせよ俺はもう帰る。」

俺は雑に会話を切り上げて帰ろうとする。

もうこれ以上の会話は意味をなさない。

お互いに時間の無駄だ。

そう思い、彼女から離れようとした。


そのときー


「私、どうすればいいのか分からないの…」

彼女はポツリと言葉をこぼした。


彼女の言葉を聞いて、俺は離れるのをやめた。

その声色は今まで話していたときと違い、

とても弱々しい声だったから。

だから、少し気になってしまった。


「さっき、彼氏との話をしたよね。」

「ああ…」


俺が海の家で静止をしたときの話か…

確か彼氏との行為についてだったな?



「それでね。

 彼はよく私のことを求めてくるの。」

「それが体目的で付き合ってる風に

 お前は感じるって話か?」

○フレ扱いが嫌だって話か?

だとしたら、俺にはどうしようもないが…


「違うよ。

 デートをしたり、一緒にいて楽しいもん。

 それに求められることは気にしてないよ。

 高校生なんだからしょうがないもん。」


どうやら違ったようだ。

なら、余計に俺と寝る理由が分からない。


「なら、何が分からないんだ?」

「私、気持ちよくなったことがないの…」「は?」


は?

 

発した声と心の声が一致する。


「私、彼とのHで

 気持ちよくなったことがないの!」

「お、おい。声を抑えろよ。」

彼女は大きな声で叫び出す。


よかった…周りに人がいなくて


「私だって、気持ちよくなってみたいし

 どんな気分なのか知りたいの!」

彼女は止まらないのか続ける。


「Hって愛し合う行為なんでしょ!

 なのに私だけ何も感じない…

 それって私たちの愛は

 一方通行ってことになるじゃん!!」

「五十嵐、落ち着け!

 それと別にそんなことはないぞ。

 お互いの性欲解消のためにもするだろ。」

俺は彼女の理論を否定する。


その理論が正しいとするなら、

俺は何人の異性と愛しあったことになるんやら


「私は彼を感じたいの…」

「で、それがなんで俺と寝る話になる?」

彼女は彼氏の愛を感じたいという。

それが本当なら、

なぜ俺と寝る話になるのかが分からない。


「だって、佐藤くんは上手なんでしょ?」

「俺の噂のことで言ってるなら止めておけ。

 それは彼氏への裏切りだ。」

彼女は彼氏との行為で感じてみたいから

俺と寝たいと言っている。

彼氏の愛を感じたいがために彼氏を裏切る。

笑えない話だ。


「分かってるよ。

 彼の裏切ることになるのは…

 それでも私は感じるようになりたいの!」 

「五十嵐…お前…」

彼女は俺の目を見て真剣に言ってくる。


俺はキチンと裏切ることになると説明したが

彼女はそれでも俺に抱かれたいらしい。

なんで彼氏に愛されてるか知りたいだけで

そこまでするのか俺には到底理解できない。


「佐藤くんとして感じないなら、

 そういう体質なんだって諦めるよ。

 だから、一回だけでいいの…

 私のことを抱いてよ…

 他の人には頼めないの…」ギュ

懇願しながら、俺に抱きついてくる五十嵐。


彼女の言っていることは頭がおかしい。

感じないなら彼氏と考えればいい。

それで駄目なら、他の愛し方を探せばいい。

愛にも沢山種類がある。

そもそも、

行為=愛することにしているのがおかしい。


だけど…


「お願い…佐藤くん」ポロポロ

彼女の方を見ると泣いている。

本当に辛そうだ。

彼女としても苦しみ迷いながら、

必死に悩んで出した答えだったのだろう。



男は女の涙に弱い

そんな言葉を聞いたことがある。

俺はその言葉を信じてはいなかった。





そう…信じては







……




………


「…っ…ふぅ。…どうだ?」

「き、気持ちいいよ…はぁぁ…佐藤くん!」

俺たちは二人でベッドの上で乱れに乱れる。

お互いの体に快楽を与えあっている。


「んんーーっ!!ぁあああああっ」ビク

その直後、

五十嵐の体が痙攣して跳ね上がった。

達したのだろう。

聞かなくても分かるほどに分かりやすかった。


「…これで満足したか?」

「…はぁはぁ。」

まだ続けるのかを聞いたが返事はない。

疲れてしまったのだろう。

今はぐったりとしながら横になっている。


俺たちはあの後、

ホテルに行き、行為をした。

断ろうと思えば断れた。

だけど、俺にはできなかった。

彼女の覚悟を見て、流されてしまった。


「…っ」ギリ

俺は思わず歯ぎしりをしてしまう。


手を出してしまった。

完全に別れたわけでも

これから別れるわけでもない彼氏持ちの女を。

本人から頼まれたとはいえこれは不貞だ。

許されることではない。


「…すぅ」

俺に頼んできた本人を見ると

罪悪感などないように寝ている。

羨ましい限りだ。

俺にもそんな図太い神経が欲しい。


「…んん。きもちいいよ~」

「気持ちいいよ…か」

夢の中でもまだシテているのか寝言を漏らす

彼女を静かに見守りながら、

俺は行為中の彼女を思い出す。


彼女は顔を上気させながら

快楽をすべて、その体で受け止めていた。

今となっては感じないというのは

嘘だったのではないかと疑ってしまうほどに

彼女は快楽の虜になっていた。


しかし、それ以上に…


「それは俺の方もだよ…」ボソ

小さな声で呟く。


俺の方が彼女の与える快楽に溺れていた。

体の相性がよかったのだろう。

俺はいつも以上に興奮していた。

それほどまでに彼女との行為に快楽を感じた。

途中、浮気のことなど忘れるほどに…



「五十嵐…彼氏と上手くいくといいな。」

寝ている彼女にできるだけ優しく話しかける。


彼女と寝た俺が言うセリフではないが、

俺は彼女たちが上手くいくように願っている。


だって、俺はそのために彼女と寝たんだから…


「さとうく~ん」

「ぷっ…ははは!!」

真面目に考えてる俺の横で

だらしない顔で俺の名前を呟く彼女に

俺は思わず吹き出して笑ってしまう。


あー。今までのこと撤回するわ

こいつ、おもしろいわ

今までこんなやつ見たことないわ



「楽しい夜をありがとうな。」

俺は彼女に笑顔でお礼を言う。

前に笑ったのなんていつのことか覚えていない

だけど、今は自然に出てしまった。



「おやすみ…五十嵐」



そして、俺はリラックスしながら眠りについた



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