case.3 五十嵐朱里 後日談

ジー


夏休みも半分を切り、

外の気温は茹だるような暑さになった。

そんな暑さのせいで

俺は外に出る気力が出ないので、

今日は家で静かにしていようと決めていた。


幸いなことに今日来る予定の美鈴は

夕方頃来ることになっている。


「美鈴が来るまでゆっくりしてるか」

俺はそうすることに決めて、

いざ、ゆっくりしようとするとー


~♪


「電話か」

俺のスマホから電話のときの着信音がする。

せっかくのいい気分が台無しだ。


「こんなときに誰だよ…五十嵐?」

スマホの画面を確認すると

そこには五十嵐朱里と表示されていた。



「はぁ…」

俺は思わず、ため息をついた。

本当に間の悪いやつだ。

何もこんな時に電話をしなくてもいいだろう。

今日は美鈴が来るまでゆっくりしたいのに…



そもそも、なんで俺のスマホに

彼女の連絡先を登録してあるかというとーー



……


………


「佐藤くん、連絡先を教えてよ~」

あの日の事後、

俺は眠りから覚めた五十嵐に

連絡先を教えるように言われた。


「駄目だ。俺たちは今日だけの関係だ。

 無駄に繋がりを持つべきではない。」

「えー、いいじゃん。クラスメートだし。」

もちろん俺はその頼みを断った。

俺たちは一日と割りきった関係である。


それに下手に連絡を取り合うと

ずるずる関係が続く恐れがある。

それを俺はよしとしない。


「彼氏に悪いだろ?」

「彼氏は彼氏で君は君だもん。

 私が連絡を取り合うのには関係ないよ。」

「滅茶苦茶が関係あるだろ…」

彼女の言い分に俺は頭を抱える。


こいつは関係を隠す気がない。

ただでさえ、

こちらは二人の◯フレで頭を痛めているのだ。

これ以上、頭痛の種を増やさないで欲しい。


「そんなつれないこと言わないでよ~。

 私のためだと思ってさぁ。」ギュー

彼女はそう言って俺の腕に抱きついてくる。

ちなみに俺たちは事後だから裸だ。 


「離せよ。」

「やーだー!!

 連絡先教えてくれるまで離さなーい!!」

暑苦しいから腕を離すように言うが

小学生のようにだだコネ始める高校生。


「俺の言うことを聞け!」

「やーーーーー!!」

俺が少し強めに言うと癇癪を起こし始める。


うん、間違いない。

美晴ちゃんの方が聞き分けがいいな



「このままだと一生離さないよ!

 それでも佐藤くんはいいの?」

「お前はスッポンかよ…

 そもそも俺と一生とかお前の方が嫌だろ?」

「え…?」

頭の悪い脅しをかけてくる五十嵐だったが

俺は正論をぶつけられると大人しくなる。


これで腕から離れるはずだ。

俺はそう確信していた。


「…ジャナイ」ボソ。

「なんだ?」


小さな声で聞き取れない。


「うるさい!

 一生このままか、連絡先を教えるか

 とにかく選んで!!」

「お、おう」

すごい剣幕で怒り出した五十嵐に

俺は大人しく連絡先を渡したのだった。







というわけで、

ほぼ強制的に連絡先を交換させられ、

俺のスマホには五十嵐の連絡先が入っている。


♪~


俺が回想している間も

着信音はずっと鳴り続けている。

もちろん、俺は故意に無視している。

五十嵐からの電話だ。

出ない方がいいに決まっている。


プッ


少し時間が立つと着信音が消える。

どうやら、俺の勝ちのようだ。

別になにかを競っているわけではいがな。



「邪魔が入ったが改めてゆっくりするか~」

俺はそのままベッドの上で横になった。


今日は俺の安息の日だ。

誰にも邪魔されたくはない。



ピコン

スマホから短い音が鳴った。

どうやら、今度はSMSのようだ。


「どうせ、五十嵐だろ。」ポイ

電話を無視したことに対する文句だと思い、

俺はスマホを枕元に放った。


これで今日はゆっくりできそうだ。


ピコン

ピコン

ピコン

ピコン

ピコン


「うるせえ!!」

鳴りまくるスマホに思わずキレる。

頭おかしいんじゃねえか?あいつ


「どれどれ」

あまりにうるさいのでスマホを見る。 



佐藤くん!起きてる?


起きてるよね


なんで電話に出てくれないの?


それとも寝てるの?


起きてよ、佐藤くん 


おーきーろーーー!!





なにこれ?

あいつメッセージでもうるさいとか

どんだけ迷惑なやつなんだよ…


ピコン

また通知音がなる。




あ!既読ついた。

◯◯駅前の喫茶店で待ってるから

今すぐしゅーごーー!!



そのメッセージとともに着信は止んだ。 




俺に拒否権はないのかよ!!!




ーーーーーーーーーーーーーー


ガラン

結局、俺は喫茶店に来てしまった。

来た理由はーーーまあ、どうでもいいだろう。


「佐藤くん!こっちこっち。」

「…。」

俺が喫茶店に入るやいなや、

元気に俺のことを呼ぶ五十嵐。


元気なのはいいが凄く目立ってるからやめろ。

ご丁寧に学校から遠いところに来ているから

油断しきっているのかもしれないがな。


「佐藤くん、来てくれてありがとね~」

「で、用件はなんだ?

 それが済んだら俺は帰る。」

歓迎してくる五十嵐に

俺はいつも通りそっけなく接する。


「相変わらずの塩対応!?

 そんなんじゃ友達できないよ。」

「勝手に言ってろ…」

彼女は無駄にオーバーなリアクションをとり、

さりげなく俺をバカにしてくる。


余計なお世話だ


「塩対応なのに来てくれるなんて、

 やっぱり、佐藤くんは優しいね。」

「お前がうるさいからだろ。」

「なら、無視すればよかったじゃん。」

「そんなことー」


うっ…こいつにしては痛いとこをついてくる。

確かにこいつからの約束というのは一方的で

本来、俺はここに来なくてもよかった。


「どうせ、

 私を待ちぼうけにするのが嫌なんでしょ?」

「…」

彼女の推理に対して俺は黙り込む。


大正解だ。

俺が来ないのに

彼女を待たせ続けるのは流石に良心が痛んだ。

だから、ここまできてしまった。


「佐藤くん、やさし~い。」

「黙れ!」

「ツンツンしてるとこもかわいいね。」

俺が何を言っても好意的に返してくる。


今日の彼女はどうやら無敵らしい。


「で、なんか問題でもあったのか?」

仕方がないので無理矢理、話題を戻す。


その用件さえ済めば俺は帰れるんだ。

すぐに終わらせてしまおう。


「問題?そんなのないよ。」

「は?」

俺は耳を疑った。



ない



用件がないだと!


「なんで俺を呼んだんだよ。」

「いや~、彼氏とのことを聞いてほしくてさ」

頭をかきながら照れ始める五十嵐。


こ、こいつ…


「他を当たれ」

「いいじゃん!友達なんだからさ~」



「…帰る。」

「いや、待ってよ。

 ここの代金はおごるからさ~」

「むしろ、俺が払うから帰らせてくれ!」


帰ったら、

まずはこいつを着信拒否だな。


「あの日はあんなに優しかったのに…」

「気のせいだろ?」

「『彼氏と上手くいくといいな』だっけ?」

「…っ。お前…」

聞かれたのか…

あの恥ずかしいセリフを…


「あーあ、佐藤くんがこれじゃ。

 私、彼氏と上手く行かないかも~」チラチラ

俺の方をチラチラと見ながら悲しそうにし始める。


まあ、言った責任ぐらいはとってやるか…


「…少しぐらいなら聞いてやる。」

「やったーーーー!!」

仕方なく俺が譲歩すると大袈裟に喜ぶ。

愚痴を聞くぐらいなのに

何がそんなに嬉しいのだろうか?


「これで私たちは友達だね!」

彼女は嬉しそう俺にそう報告してくる。


ともだち?


「冗談言うな。サンドバッグの間違いだろ。」

「ふふふ、佐藤くんと友達か~」

「おい!聞けよ」

浮かれ気分になっていて皮肉を聞きもしない。

そもそも、なっていなくても聞かない。


こいつはそういうやつだ。


「あの日のことがあるのに

 今さら友達なんて無理だろ?」

「そ、そこはあれだよ。

 プラスチックな関係だよ!!」

「弱そうだな」

なんとも、簡単に割れてしまいそうな関係だ。

案外間違ってないかもしれない。


ちなみに言いたいのは多分フラットな。

間違ってもプラトニックではないと信じたい。


「とにかく、

 これからは友達としてよろしくね!」

そう言うと、

ウインクをしながら俺に手を差し出す。


「…よろしく」

俺はその手を取った。

嫌な予感はするがどうせ愚痴を聞くだけだ。

それぐらいの願いなら聞いてやる。



ガシッ


俺の手が強く握られる。



「一緒にいっぱい思い出作ろうね!!」

満面の笑みでこちらを見る彼女に

俺は苦笑いで返すことしかできなかった。



俺はこうして人生初の友達(?)を手に入れた。




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