EP.1 変化していく関係 ▲

「これは一体誰が?」ピラ

私…四条美鈴は一枚の手紙を手にして

一人、体育館裏で手紙の送り主を待っていた。


『放課後、体育館裏であなたを待っています』


手紙にはこのように簡潔で書かれており、

送り主の名前すら書いていないものだった。

本来、こんな手紙に従う理由は私にはない。

しかし、行かないといけないと私は思った。

 

なんだか嫌な胸騒ぎがしたから…


ザッ


「誰!?」バッ

内心不安な思いで待っていた私だったが

人の気配を感じて、勢いよく振り向いた。  


「驚かせてすまない。

 君が四条美鈴さんで合っているかな?」

私が振り向くとそこには、

黒髪で凛とした佇まいの女性が立っていた。


「は…はい、あなたはーー」

私は女性に恐る恐る合っていると返事をする。


私の名前を呼んだということは

この人が手紙の主で間違いないだろう。

彼女のことはよく知っている。


「私の名前は西園寺玲だ。

 気軽に玲と呼んでくれて構わないよ。」

彼女は笑顔で私に挨拶をしてくる。

誰もを魅了するようなとても素敵な笑顔だ。

だが…私には分かる。

確かに彼女は顔こそは笑顔でいる。



「いつも翔が世話になっているね。」

しかし、言葉の端々に私への敵意が見える。

さらには、翔さんを自分の物だと主張する。


彼女は少しも私と仲良くする気はないらしい。

もっともーー



  私も彼女てきと仲良くする気は微塵もない







「私、帰ります!!

 今日は翔さんのところに行く日ですので」

「それなら気にしなくていい。

 私が彼に遅れると連絡を入れておこう。

 それとも、代わりに私が行こうか?」

私がすぐに帰ろうとすると

彼女は翔さんをだしに使い、私を煽ってくる。

その言動はまるで  

翔さんの彼女のように見えて腹立たしい…


「結構です!」

私は彼女の言動に酷く苛立ちを覚え、

語気を強めて彼女に断りを入れる。


「怖いなぁ。

 そんな顔してたら翔に嫌われるよ。

 翔はねぇ、優しくするとかわいい顔をー」

「…」ギリ

私は煽りながら、翔さんの話をする

彼女に思わず歯ぎしりをする。


聞きたくない。

他の女がする翔さんの話など聞いてるだけで

胸の奥からどす黒いものが出てくる。


「ふふ、いい顔だね。

 その顔を翔に見せてあげたいくらいだよ。」

「…用件がないのなら、本当に帰りますよ。」

私はニヤリと笑ってくる彼女に対する

怒りをギリギリで押さえて用件を聞く。


初めて見たときから私はこの人が嫌いだ



私なんかとは比べ物ならないほどの

美貌で文武両道、人からの人望もとても厚い。

そんな神に選ばれたような存在。

それが彼女だ。

彼女にとって恋人など選びたい放題だろう。


なのに…


なのになぜ…


他の誰と付き合おうがどうでもいい。

なぜよりによって、翔さんを…


「ああ、ごめんよ。

 少し君をからかってみたくなったんだ。」

少しも悪びれずに彼女は謝ってくる。

彼女は私が怒る姿をみて嘲笑う。


本当にたちが悪い…


「じゃあ、単刀直入に言おうか」

「…。」

私は彼女の言葉を無言で待つことにした。


早く終わらせて帰らせてほしい。

私の頭はその気持ちで一杯だった。

翔さんに会って癒されたい。

それだけが今の私の望みだった。


だから、こんな女に構ってなどーー



「翔に纏わりつくのはやめてくれないか?」



………は?


「は?」

心で思っていたことがそのまま口から出る。


この女、何を…


「翔は君のような子でも強く言えないんだよ。

 彼はとても甘い人間だからね。」

彼女は当たり前のことを私に言ってくる。


そんなことは知ってる。

先輩のように甘く私を包んでくれる存在など

今まであったことなどない。

わざわざ、彼女に教えられることではない。


「だから、彼の代わりに私が君に言おう。

 君は彼にとって邪魔な存在でしかない。」

「勝手なこと言わないでください!

 私が邪魔だというのはあなたの妄想です!」

私を邪魔だと言ってくる彼女に反論をする。


私が翔さんの邪魔?

そんなはずはない!!


「いいや、君は邪魔な存在だ。

 現に今、君のせいで翔は傷ついている。 

 だから、もう彼に近づくのはやめてくれ。」 「そんなことない…

 翔さんがそんなこと思うわけないです!」

私は彼女の言うことを否定する。


優しいあの翔さんが私を邪魔だと思うなど 

絶対にあるはずがない。

全ては彼女の妄言にすぎない。



「なんで、あなたは口出しをするんですか?

 そもそも、私と翔さんのことは

 あなたには関係ないじゃないですか!」

私と翔さんの関係に口を挟まないよう

彼女に強めの口調で責める。


彼女も私と同じように○フレだ。

私の存在を否定することは出来ないはずだ。


「関係ならあるさ」

「…何を?」

彼女の言うことに私は少し困惑する。


関係がある?

そんなわけはーーー


「私は彼を愛してるからね。」

彼女は頬を染めてとても嬉しそうに言う。


「愛してる…」

「そうだよ、彼のことを愛してる。

 だって、

 カッコいいのにかわいい、

 強いのにどこか弱い、

 厳しい態度なのに優しくしてくれる。

 こんな魅力な彼を愛さないわけないだろ。」

彼女は息継ぎなしで翔さんについて語った。

その姿は恋する乙女のように幸せそうだ。


「…私だって」


私だって翔さんのことを愛してる

そう言おうとしたときーー


「君も愛しているというのかい。

 脅して彼と関係を結んだというのに?」

「…っ。」

彼女の言葉が突き刺してくる。


「私は翔さんが好きでーー」

「そんな関係で彼が君に振り向くと思うの?」

「…。」

「そうだよね、振り向くわけがない。

 いくら優しい彼でも無理に決まってるさ。」

彼女は淡々とした物言いで私を苦しめる。


私も自分が間違っていることは分かってる。

でも、翔さんならそんな私も理解してくれる。

私はそう思って…


「じゃあ、なんで彼が君といてくれると思う?

 愛しているから?好きだから?

 一緒にいて楽しいから?

 君を大切に思っているから?」

「それは…」


翔さんが私といる理由?


そんなものーー


そんなもの?



「彼がいてくれる理由はそんなものじゃない」

「違う!翔さんは私のことを愛してーー」

彼女の言い分に違うと私は言いたいが

話す隙をまったく与えてくれない。


おそらく、

このまま私の心を折るつもりなのだろう。


「彼はーー」

「やめて!!!」

私は叫んで止めようとしたが

彼女は無視してとどめの言葉をいい放った。


「…っ。」

無情にも彼女に現実を叩きつけられ、

私は何も言えなくなる。


「本当は脅しなんていつでも無視できるけど

 君が可哀相だから付き合ってるだけだよ。

 そこには好意も愛もない。

 あるのは君への同情だけさ。」

「…ちがぅ」ポロポロ

「どうして君が泣くの?

 辛いのは君に脅されて困ってる翔だよ。

 泣くくらいなら彼を解放してよ。」  

「いや…」

彼女は泣き始めた私に追い討ちをかけるように

冷たい言葉を投げかけてくる。


やめて…もうやめて…

私から翔さんを奪おうとしないで…


「いや?…それが君の答えなんだね。」

「…ぅぅ」コクリ

彼女の問いに私は泣きながら頷く。

私は頷くしかなかった。

だって、翔さんと離れるなんて考えられない。


「まあいい…

 今回はこれぐらいにしてあげるよ。」クル

私の答えを聞くと一瞬考え込んでから

彼女は私に背中を向け始める。


「いつまでもそんな脅しで

 彼が言うことを聞くと思わない方がいいよ。

 それにーー」

彼女は私を見もせずに言葉を続ける。

私は視界に入れる価値もないようだ。


「もうすぐそれも意味がなくなるからね」


彼女はそれだけ言い残すと

歩きだしてどこかに行ってしまった。


「…うぅ…翔さん…翔さん」ポロポロ

残された私は泣きながら

愛しい人の名前を何度も呼ぶ。


翔さんは同情なんかで私といるわけではない

心の中で何度も私は否定する。

そんな現実は頭が受け付けてくれない。 


「意味がなくなる…」

立ち去る前に彼女が言った言葉を思い出す。


翔さんへの脅しがなくなる…

もし、脅しがなかったらどうなるのか?

翔さんはそれでも一緒にいてくれるのか?






その答えは近いうちに

最悪の形で分かることになるのだった…










ーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまで読んでいただきありがとうございます


次の投稿は宣言した通り、

10月2日(月)6時となります。

申し訳ございませんが

よろしくお願い致します。


新作始めました。


現代戦隊ダイレンジャー

~戦隊モノで◯◯◯一人はキツイ~


ちょっと独特な戦隊モノです。

今作とはかなりテイストが違い、

かなり明るめの作品となっておりますが

それでも読んでくださると嬉しいです!

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