case.3 五十嵐朱里 中編

「あーそこの人たち。

 ここはバーベキューですよ。」

禁止エリアでバーベキューをしようとする

馬鹿どもを注意したり


「…」チラチラ


「ゴミくらいちゃんと捨てろよ…」ガコン

常識のない大人たちに

ポイ捨てられた酒の缶をゴミを集めたり、


「…」ジー


「おい、君!!

 一人で泣いてどうしたんだ?

 なに!?お母さんとはぐれただと…

 俺が一緒に探してやるから泣くな!!

 よし、まずはお母さんの特徴をーーー」

迷子の男の子のために 

お母さんを探しに右往左往した。


「…」トコトコ




「疲れた~」

無事にバイトを終え、

俺は今、海の家の机で突っ伏している。

休憩後から明らかに

仕事量が増えたのが原因だ。

流石の俺も限界まで疲れてしまった。


「かき氷うめえなぁ~。」

俺はさっき、買ったかき氷を食べる。

熱くなった体を冷たいものが冷やしていく。


ちなみに俺はブルーハワイ派。

理由は食べると爽やかな気分になるからだ。



それはどうでもいいとして



「で、お前はなんでここにいるんだ?五十嵐」

俺はテーブルを挟んだところに座り、

こちらを見ている五十嵐に問いかける。

 

「たまたま、相席になっただけよ。」

「他に席空いてるんだからそっち行けよ。」

「ふん、私の勝手でしょ!」

そう言って、

俺からそっぽを向くが座ったままでいる。

どうやら、動く気はないようだ。


「午後も俺にコソコソつけてたし、

 お前、本当になにがしたいんだ?」

「ば、ばれてたの!?」

「あれで隠してたつもりかよ…」

俺の仕事中、

ずっと、感じた視線や足音はこいつのものだ。

なぜか、仕事をしてる俺の監視をしていた。



「うう…恥ずかしい///」

俺に尾行がバレていたことが恥ずかしいのか

顔を真っ赤にしている。


「そもそも、お前には彼氏がいるんだろ。

 二人でいるところをやばいんじゃないか?」

そんな彼女を冷めた目で見ながら、

今の状況を説明してやる。


こいつが彼氏とどうなろうがどうでもいいが、

俺が巻き込まれるのは勘弁してほしい。


「だ、大丈夫…」キョロキョロ

口では大丈夫だと彼女は言っているが

目はすごく泳いでいる。


何も大丈夫じゃなさそうだ。


「彼氏に悪いと思うなら俺に関わるな。」

「彼氏は関係ないもん…」サッ

「おい、俺のかき氷を盗るなよ。」

俺に対しての当て付けなのか

むくれながら俺のかき氷を奪い取る五十嵐。


「おいしい!これおいしいよ」シャリシャリ

「それ持ってどっか行けよ。」

「一緒に食べようよ~」

「断る!」

俺はしっしっと追い払う仕草をする。

かき氷は惜しいが

こいつと関わるのは面倒だから諦めよう。


半分くらいしか食ってなかったんだけどなぁ



「佐藤くん…私の話聞いてくれないかな?」

かき氷を美味しそうに食べていた彼女は

急に真面目な声色で話しかけてきた。


「自由すぎるだろ…お前。」

恥ずかしがったり困ったり、

楽しそうにしてると思えば真面目になったりと

コロコロと感情の変わる彼女に俺は翻弄され、

思わずジト目で見てしまう。



「駄目…?」

彼女はそんな俺を上目遣いで見てくる。


こいつの話を聞く義理はないんだよな…





はぁ…


 

「話すなら早くしろ。」

俺は彼女に話すように促した。

このままだと永遠にダル絡みされる。

その前に終わらせたほうがいい。


「いいの?」

「その代わり、早く済ませろ。」

心配そうに聞いてくる彼女に

俺はできるだけぶっきらぼうに答える。


「ありがとう!!

 大学生の女の人の相談にも乗ってたし、

 佐藤くんって意外と優しいのね。」

俺が相談に乗ると言った瞬間、

上機嫌になる五十嵐。


優しいとかどの口が言うのだか。

無理矢理言うことを聞かせてきたくせに


それよりも、今こいつ何て言った!?



「大学生?…二宮さんのことか。」

五十嵐が俺と二宮さんの会話を

聞いていたということに俺は引っ掛かる。


「名前は知らないよ。

 だけど、お昼に二人で話してたでしょ?」

「ああ、そうだが。見てたのか?」

「見てたもなにも気づいてなかったの!?

 せっかく、私が料理を届けたのに!!」

彼女はまるで俺と会ってたというように言う。


料理?

ああ。あのとき、俺のことを見ていた店員か。

確かに茶髪だった気もする。

見られていたのか…あの地獄絵図を…


「なるほど、気がつかなかった。」

「酷い!それでもクラスメートなの?

 親戚がやってる海の家だから、

 今日の午前中だけお手伝いしてたんだよ!」

「俺はお前に興味がないからな。

 その情報も心底どうでもいい。」

俺は顔を膨らませて怒っている五十嵐に

事実を冷たく言い放つ。


俺とこいつは相性がめちゃくちゃ悪い。

こいつと話していると

俺はいつもイライラして喧嘩腰になる。

根本的に反りが合わないのだ。

だから、俺がこいつ興味を持つ理由がない。


「ひどいよ…佐藤くん!

 私は話しかけられるのかと

 ドキドキして待ってたのに…」

目に涙を貯めながら

胸を抑える仕草をする五十嵐。

その姿は俺に気を持っているようにも見える。



「そういう態度、男を勘違いさせるぞ。」

「佐藤くんにしかしないよ。」

「そういうところだ。」

「ちぇ、つまんないの~」

彼女は怒ったのか、そっぽを向いてしまった。


確かに今のこいつは

めんどくさい絡みをしてくるわがまま女だ

しかし、学校ではこんなやつではない。

むしろ、同級生の相談に乗ったりするほど頼りにされている存在だ。


「ちべた~」シャクシャク

だからこそ、

無防備な今の彼女に違和感があるのだ。


「ねぇ…佐藤くん。」

「なんだ?」

頭を悩ませていると彼女が何かを聞いてくる。




「Hって楽しいの?」








… 




は?



俺の思考は停止した。

他ならない五十嵐の一言で



「佐藤くんって結構してるんでしょ。」

「そんなことを聞いてどうするんだ?」

彼女が続けて言ってくるが

俺の頭は余計に混乱していく。


こいつマジでなに言ってるんだ????



「私、実は彼氏とシてるんだ。」

そして、彼女は聞いてもいないのに

非◯女のアピールを始める。

二宮さんが聞いたら泣きそうだ。


「そうか。よかったな」

俺は彼女を雑に誉めて帰ろうとする。


人間、誰しも誉められれば満足するだろう。

それ以外どう反応すればいいのか俺は知らん。



「佐藤くん、塩対応すぎるよ!

 もっと、私の会話に興味持ってよ~」

「持ってどうすればいいんだよ。」

「私に興奮するとか…あはは」

彼女は俺の質問に答えたが

自分でも回答が酷いと思ったのか苦笑いをする



バカかこいつは…


「それで、彼氏とのことなんだけど。」

「続けるのかよ…」

彼女は気を取り直して 

俺が興味のない彼氏について話そうとする。


めんどくさいが適当に聞き流せばいいか…


俺はそう、たかをくくっていた。


「彼氏とのエッーーー」

「ここ、お前の親戚の海の家なんだろ!?

 そんなところで品のない話はやめとけ!!」

しかし、自分の性事情を暴露しようとするので

俺は無理矢理、彼女に静止をかけた。


この女イカれてやがる。


「だからね。

 その事で佐藤くんに相談したいの。」

「聞けって!」

彼女は空気と喋っているのか?

俺の話にまったく聞く耳を持たない。


「佐藤くんはわがままね。

 少しは私の話を聞いてよ!!」

「お前が言うなよ…」

理不尽にも俺が彼女に怒られる。




もう、付き合ってられるかよ…


ガラ


さすがにめんどくさい

そう考えて俺は席を立とうとするとーー


「じゃあ、人のいないとこに行こうよ。」ガシ

逃げられないよう俺の腕を掴んでくる五十嵐。


「おい、手を離せよ。」

「いいからいいから~」

「だから、話を聞けよ!!

 俺は疲れたから帰るんだぁーーー!!」

悲しいことに俺の心の叫びは少しも響かず、

俺は彼女に外まで引っ張られていくのだった。

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