case.0 宮沢南 前編

そもそも、

なんで俺が

二宮さんの部屋に行く経緯になったのか。

少し前の時間に戻る。


「かーくんに私の彼氏になって欲しいの!」

「寝言は寝て言え。」 

「ガーン!?」

世迷い言を言い始める

二宮さんを俺は一刀両断する。


告白に対して失礼かもしれないが

助けてと言って呼び出しておいてこれだ。

このまま帰らないだけマシだと思う。


「あっ!言い方間違えちゃった

 かーくんにになってもらいたいの。」

「彼氏役…

 どういうことだ??」

俺は彼女の言ったことの意味が分からず

彼女に聞いてみることにした。


「そう、彼氏役!

 ちょっと困ったことになったの。」

「困ったことか。

 もしかして、ストーカーか!」

俺は少し大きめの声で彼女に問い詰める。


彼氏役を必要とする困ったことと言えば

ストーカーの類いが多いイメージがある。

二宮さんは残念だが見た目はいい。

だから、そういう輩に狙われるのも分かる。


「違うよ。

 そんなに危ないことじゃないから安心して」

「そうか…よかった。」フゥ

俺は彼女が無事なことに安堵する。


「あれー?かーくん心配したのかなー?」

「そうだよ…心配したら悪いか?」

バカにした口調で俺を煽る彼女に対して、

俺は思っていることを正直に言った。


「え…やだ。」

「文句あるのか?」

驚き出す二宮さんに俺は不機嫌な態度をとる。


俺が人を心配するのがそんなに意外かよ


「かーくんのデレ期キターーーーーーー!!」

「二宮さん、うるさい!!」

驚いていたと思ったら奇声をあげる彼女。

正直、他に人がいるからやめて欲しい。


同族と思われたくないからな。


「かーくん、かわいい!!

 私のところにお嫁さんに来ない?」

「いいから、早く理由を話せ!!」

興奮して話にならない

彼女に俺は説教をするのだった。



それと俺は男だ。





「つまり、彼氏持ちの友達に見栄を

 張るためだけに俺に彼氏役をしろと…」

「その通りでございます。」

俺に怒られて理由を説明する二宮さん。

怒られたことで態度はしおらしくなっている。


「しょうもない見栄を張ってどうするんだよ」

残念な理由に俺は頭を抱える。


「だって~彼氏の話が羨ましかったんだもん。

 ちょっと前まですごく酷かったんだよ。

 友達が私の前で惚気まくりでさ~。

 彼氏のことしゅきしゅき

 ってほんとにやんなっちゃう!

 私なんて初体験もまだなのに~」グデ-

そう言いながら彼女は机に突っ伏す。


確かに自分は独り身なのに周囲の惚気話を

聞いてるのは辛いことなのかもしれない。

だけど、彼氏役を立ててごまかしても

後で余計に虚しい思いをするだけではないか?


そう俺が考えていると


「かーくん様~私の名誉の為なんです!

 何卒…何卒ご慈悲を~」ニギ

彼女は俺の手を握って懇願してきた。


どこまで必死なんだよこのポンコツ女…


「はあ…分かったよ」

正直行きたくないが前のように

騒ぎ出す恐れがあるので俺は渋々了解する。


「ありがとう、かーくん!

 じゃあ、今から私の部屋に飲みに来てね!」


あー


それは想定外


軽く挨拶するぐらいじゃなかったのか…






ーーーーーーーーーーーーーーーーー

そんなわけで時は今に戻るのだが…



「かーくんてば優しいんだよ!

 私の愚痴とかなんでも聞いてくるの。

 それにかっこよくて

 今日はナンパから私を守ってくれたの~」

宮沢に日頃の惚気話の仕返しとばかりに

俺との間であったことを話す二宮さん。


「へぇ~、そうなんだ。」チラ

そして、それを聞いて返事をしながら

時折、俺に視線を向けてくる宮沢。


二人は酒を飲みながら仲良く会話をしている。


「…。」

俺はジュースを飲みながら、

そんな二人を俺はただ無言で見ていた。


「かーくん、かまってかまってー」ギュ

喋らない俺に寂しくなったのか

二宮さんは俺の腕にしがみついてくる。


「梨央、俺に構わなくていいぞ。」

「えー、イチャつこうよ~」

「また今度な。今は宮沢さんと楽しんどけ。」

俺は彼氏の演技をしながら、

遠回しに俺をほっとくように言う。


元○フレとどんな顔をして話せばいいんだよ…


宮沢南

俺の元◯フレ。

去年の5月頃、

◯フレを探していた俺に声をかけてきた女だ。

関係を持っていた期間は一年。

今年の5月まで関係だ。

お互いに情が湧かないようにと

俺の方から関係を解消するようお願いした。

彼女もそれで納得し、俺たちは他人になった。


他人となったはずだった。

まさか、彼女が二宮さんと友人とは…

世間とは案外狭いのかもしれない。


「二人は仲がいいんだね。」

「ふふふ、みなちゃんも好き~」ギュ

今度は標的を俺から宮沢に替えて抱きつく。

ここまでくると彼女が

酔ってるのか素なのか分からない。


「梨央…もう///」

抱きつかれたことで宮沢は顔を赤くする。


照れているのだろう。

あの頃と変わらず、すぐ赤くなる。

彼女はクールぶっているが

中身は照れ屋で必死に隠してるだけだ。

内心はすごいことになってる。

俺は彼女のそのギャップが嫌いではなかった。


「みなちゃん、いい匂いがするね…ふへへ」

「梨央、セリフがおじさんっぽい。」

宮沢に抱きついて匂いを嗅ぎ始める二宮さん。

その姿は完全にセクハラおやじだ。

二宮さんは間違いなく酒に酔っている。


「おじさん!?

 みなちゃん酷い!

 そんな酷いこと言う悪い子はこうだ。」ペロ

「やぁ…舐めるのはやめて…

 梨央、彼が見てるから…///」

おじさん呼ばわりに怒ったのか

二宮さんは宮沢のを舐め始める。


俺は気まずくなり、そっと視線を外した。


女子大生の距離感ってこんな感じなのか…

俺は一つ賢くなった。


「彼…?かーくん!

 かーくん、お酒!

 かーくんもぐぐっと行こうよ!!」サッ

再び俺に標的が移ったのか

今度は缶チューハイを俺の方に向けてくる。


「俺、未成年だぞ」

「かーくんは私の酒が飲めないの!」

俺が断ると二宮さんは怒り始める。

完全にめんどくさい酔っぱらいの絡み方だ。


この人、本当に残念なところが多いな。


「俺が飲める歳になってから飲もうな。」

「えー…つまんないの~」

俺に断られて面白くなさそうにする二宮。

拗ねる姿はまるで子供だ。


「相変わらずそういうところは真面目ね」ボソ

「…っ。宮沢さん、なにか言いましたか?」

静かに呟く宮沢に俺は丁寧に話しかける。


特に問題はないが

過去のことがばれることは言わないで欲しい。


「別に何も言ってないわ。

 それよりも…その敬語。

 あなたには似合ってないからやめて。」

「あぁ…分かった。宮沢」

宮沢に言われて俺は敬語をやめることにした。


「ふふ」

「何がおかしい?」

「あなたに名前を呼ばれるとくすぐったくて」

「それは悪かったな」

とりとめのない会話を俺たちはしていく。


懐かしい…

タメ口で話していると

まるで前の関係に戻ったように錯覚する。



俺たちはもう他人だと言うのに…



「みなちゃん、かーくんは私のだよ。

 だから、いいムードは禁止!!」

「梨央、ちょっと飲みすぎよ」

俺たちが会話しているのが不満なのか。

二宮さんはいちゃもんをつけ始めた。


普通なら迷惑だが今だけは感謝する。

さっきの空気のままだったら、

変な展開になりそうだったから…









「すぴー…」

「梨央ったら…」バサァ

宮沢が飲み潰れた二宮に毛布をかけている。

手慣れた動きから見るに

二宮さんの家ではよくあることなのだろう。


「ぅぅん…」

二宮は幸せそうな顔で寝ている。

楽しんでもらえたならそれでいいか。


「もう!…佐藤くんのえっち」エヘヘ


…夢の内容は聞かなかったことにしよう。



「…あなた、梨央と本当に付き合ってるの?」

宮沢は俺たちの関係について聞いてくる。


きたか…


「お前はどう思う?」

「質問を質問で返さないでよ。

 …まあ、あなたの性格からしてないわね。」

彼女は俺の失礼な返答にも律儀に答える。

無理に答えなくてもいいのに


「どうしてそう思う?」

「あなたは基本的に人に対して壁を作る。

 だから、絶対に誰も自分の内側にいれない。

 そんな人間に彼女ができると思う?」

彼女は俺のことを的確に述べる。


流石、元◯フレだ。

1年とはいえ、俺のことをよく分かっている。


「…俺は梨央を心から好きになったんだ」

「嘘ね…。

 知ってる?

 あんたは嘘をつくとき少し目が泳ぐのよ。」

そう言って彼女は俺に近づいてくる。


それは新事実だ

俺も知らない癖があったとは…


「教えてよ…あなたたちはどんな関係なの?」


そして、

キスをするぐらいの近距離で彼女は止まった。




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