case.0 宮沢南 後編

「教えてよ…あなたたちはどんな関係なの?」

宮沢は俺にそう質問をしてきた。


どんな関係か…

俺と二宮さんはどういう関係なんだろう?

俺は改めて二宮さんとの関係を考えてみた。


先輩と後輩

これは違う。

むしろ、俺の方が年上っぽい。


友達

これも違う。

五十嵐とは違う気がするからだ。

そもそも、五十嵐とも友達なのか怪しいが…


彼女との関係は俺にも謎だ。

俺がそんな風に真剣に悩んでいると



「私のときのような関係?」

宮沢が真剣に尋ねてくる。

友人のことが心配なのだろう。

声が上擦っており、少し緊張している。


「彼女は◯フレじゃない」

「そう…」

俺が一言に彼女は頷く。

若干、納得がいっていないようだが

とにかく俺と二宮さんの間には何もない。

それは事実だ。

   


「じゃあ、どうして今日は来たの?」

「今日、俺が来たのはーーー」

俺は宮沢に説明することにした。

二宮さんが海でナンパしてきたこと、

今回の彼氏役のこと、

その全てを説明することにした。


どうせ、

恋人同士なのが嘘だということはバレている。

なら、全てを話して楽になった方がいい。





「ナンパって…梨央ったら危ないことをして」

全てを話すと宮沢は

逆ナンの件に対してみるみる怒りを露にした。


「変な男に捕まったらどうするのよ」

俺もその意見には同意する。


二宮さんはポンコツで隙が多い。

そんな人間が危ないやつに目をつけられたら、

一生心に残る傷をつけられてもおかしくない。

宮沢が友人として怒るのも納得がいく。


「ナンパしたのがあなたでよかったわ。

 他の男だったらどうなっていたことだか…」

「随分、買ってくれてるんだな。」

彼女は俺のことを信用しているようだ。


俺だってそんなにまともな人間ではないのに


「あなたのことならよく知ってるわ。」

「たかが1年の付き合いだろ」

当然のように彼女は俺に言ってくる。

彼女面しているがあくまで元◯フレだ。

別にそんなに濃い関係ではない。


「あなたは斜に構えてるけどお人好しよ。

 ◯フレと言いながら、

 基本的に私の予定を優先してくれたし、

 性処理と言いながら、

 一度だって、私を雑に扱わなかった。

 悩んでるときは行為とか関係なしで

 わざわざ会って相談にも乗ってくれた。

 そんな人が悪さなんてするはずないわ。」

「…お前の勝手な解釈だ。

 俺はそんなにできた人間じゃない。」

彼女は俺のことについて好き勝手に話す。


先ほど彼女が言ってたことは勘違いだ。

俺は別に優しくしようなど思っていない。

そんな立派な人間ではない。


「強情なところも変わらないわね。」

「あまり前の話をするな…

 俺とお前の間には何もなかった。

 そう言うことにしたはずだ。」

俺は彼女に冷たい口調で言う。


俺たちは関係を切るときに他人になったのだ。

それに宮沢には彼氏がいるらしい。

なら、なおさら俺のことなど忘れた方がいい。



「…っ。それもそうね…」

あっさりと彼女は引いてくれる。

彼女が理解のあるやつでよかった。



「それにしても、あなた変わった?」

「どこが?」

彼女は唐突に質問を変える。


「なんか…弱くなったような気がするけど」

「一応、鍛えてるんだが?」

体を鍛えるのは辞めていないから、

衰えてるわけはない。

むしろ、前より強くなっているまである。


「体じゃなくて精神的に」

「…」

「なにか辛いことでもあるの?」

俺は彼女の指摘に黙り込む。


心当たりはある。

最近の俺はメンタル的に弱くなっている。

大体は現◯フレの二人に関してのことだ。

だが、それは彼女たちが悪いのではなく、

あくまで俺がうまく対処できないのが悪い。

要するに自業自得だ。


「私で良ければ相談に乗るよ。」

「いい…これは俺の問題だ。」

優しい宮沢は相談に乗ると言ってくれるが

俺はその誘いを断った。


俺のせいで他人を巻き込みたくはない。

こんな俺に関わるのは時間の無駄だ。


「私があなたの力になるわ」

「いらない」

「お願い、私にあなたを助けさせてよ…翔」

俺は彼女の助けを拒否し続けると

彼女は頭を下げてまで頼み込んでくる。


「どうして、お前はそこまで…」

頭を下げてまで俺を助けたい。

宮沢の行動は俺には理解できない。

俺を助ける理由など彼女にはないはずなのに…


「私はあなたに…翔に助けられたの…

 人生で一番辛いときに

 あなたに会えて私は救われた。

 今、私が生きてるのはあなたのお陰。」

彼女は俺に思いをぶつけてくる。

その言葉の一つ一つが俺を押し潰してくる。



「だから、もしあなたが苦しんでるのなら…

 今度は私があなたをーーー」



彼女が俺への言葉を言い切ろうとしたとき



「関係を切ったお前には関係ない。

 俺のことは俺で何とかする。」

「そんな…」

俺は彼女のことを拒絶した。


拒絶した理由は簡単だ。

その優しさは俺なんかにはふさわしくない。

それに彼女には向けるべき相手がいるはずだ…



「でも、本当はわたし…っ。」

彼女は何かを言おうとして抑え込んだ。

俺に文句の一言でも言いたかったのだろうが

優しい彼女は耐えてくれたのだろう。



「ごめんな…南」

俺は優しい彼女に謝罪の言葉を口にする。


せっかく心配してくれたのに拒絶したのだ。

彼女が怒っても仕方がない。


「また私に一線引くんだ…」

彼女は悲しげな声でそう言う。


彼女だけに一線を引いてるわけではない

俺は誰に対してもだ。


「誰だって踏み込まれたくないところはある…

 お前だってそうだろ?」

俺はそう彼女を優しく諭す。


誰かに理解されたい。

その気持ちは俺にもある。

だけど、今までの経験が俺を許さない。

本当の俺を知ったらみんな離れていく。

だから、深い関係なんて望まない。


「…だったら」

「まだ何かあるのか?」

彼女の声が小さくて聞こえない。

心配になり、彼女の様子をみているとー


ガシ


突然、彼女は俺の肩を掴んできた。


「…」

「痛っ…急にどうしたんだ?」

南は俺の肩を掴み、至近距離で見つめてくる。

その距離は息が当たるほど近い。


「私は翔にだったら…」

「お前何を!?」

彼女は息を荒くしながら顔を紅潮させている。

その姿はすごく妖艶に見える。


この雰囲気はマズイ!


と頭で理解して俺は彼女から目をそらせない。

それほどの色気を彼女は放っている。


「あなたから…ね」

南は目を閉じて、唇をこちらにつき出す。

彼女の形のいい唇を見ていると思い出す。

俺と彼女の一年間を…


そしてーー


「「…ん」」


俺たちは一年ぶりに軽いキスを交わした。

懐かしい…

感触、匂い、体温。

その全てを俺の体は覚えていた。


「…」

南が甘えるような目でこちらを見てくる。

皆まで言わずとも

彼女が何を言いたいのか俺には分かった。


ギュ

俺は彼女のことを優しく抱き締める。


「これ…///」ギュ

抱き締めながら彼女の方を見ると

恍惚そうな顔で俺を抱き締め返してくる。


「南…」

「翔…」

お互いの名前を呼び見つめ合う俺たち。


スッ


そのまま、再度俺たちは顔を近づけてーー






「だめーーーーーー!!」




「「っ!!」」

大きな声に驚き、俺たちはその場を離れる。


二宮さんに今の場面を見られてしまった!

そう思っていると



「ふふ、かーくん。それ私のケーキ~」ムニャ

彼女は寝息をたてながら横になっている。

どうやら、寝言だったらしい。


「ふぅ…」

「梨央…」

俺たちは寝ていたことに安堵する。


しかし、二宮さんのお陰で助かった。

あのままだと雰囲気に流されるところだった…


そう俺が自分の意思の弱さに驚いていると

 

「ねえ…」

南は俺の方を心配そうに見てくる。


「ああ、分かってる。

 今のことはお互いに忘れよう。」

「うん」

俺は彼女に無かったことにしようと提案すると

彼女も納得してくれた。


「私のことを怒ったりしないの?」

「俺が面倒事が嫌いなのは知ってるだろ。」

「うん…知ってる。

 翔のそういうところ、

私…好き。」

「それはどうも。」

俺たちは軽口を叩き合う。


関係を切る前はこんな感じだった。

上手く言葉にできない関係。

だけど、俺はこの関係が嫌いじゃなかった。



「翔…また会ってくれる?」

彼女は俺にまた会えるか聞いてくる。

前の俺だったら、全力で拒否しただろう。


「いいぞ。

 あくまで知り合いとしてだけどな。」

今の俺は少しぐらいならいいと思えた。

彼女の言った通り俺は変わったのかもしれない

俺がちょっと変われたことに喜んでいうると



「ありがとう…翔」


彼女はとても澄んだ笑顔でお礼を言ってくる。

クールな彼女では考えられない穏やかな笑顔。

俺も思わず見とれてしまうほどだ。



「…」

「翔?」

見とれている俺に

彼女が不思議そうに声をかけてくる。


顔をまじまじと見ていたら不思議に思うわな。


「南」

「なに?」

俺は彼女の名前を呼ぶ。

この時、俺は今日会ってから 

ずっと彼女に思ってたことを言うことにする。


「今、幸せか?」

「…は?」

俺のいきなりの質問に

南は驚いたようで口をぽかんとさせている。


「南、俺に教えてくれないか?」

答えは分かりきっている。

彼女は最後に会った時より綺麗になった。

よっぽど、いい出会いがあったのだろう。

その時点で自ずと答えは出ている。

だけど、俺は彼女から直接聞きたかった。

彼女が今、どんな風に生きているのかを…


「………ふふ」

彼女は少し考えた後、すぐに笑い出した。


そしてー


「不幸に決まってるでしょ」

彼女はまるで当然といった様子答える。


「何だと!?」

俺は予想外の答えに驚く。

そんな雰囲気は一切なかったのに


「彼氏と上手くいっていないのか?

 何か病気にでもなったのか?

 それとも、また親からのー」

「あはは!

 過保護すぎるって私の親のつもり?」

心配になり、俺は色々と聞くが

彼女は俺の方を見て楽しそうに笑っている。


本当に彼女は不幸なのか?

俺がそう疑問に思っていると

彼女はいたずらが成功した

子供のような笑顔で俺に言ってきた。





「誰のせいだと思っているのよ。ばーか」

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