EP.1 変化していく関係 ●

「来ちゃった🖤」

突然、家に訪ねてきた五十嵐。

特に悪びれもせず、むしろ嬉しそうにしている


「帰れ」バタン

俺は彼女を確認するとすぐに扉を閉じた。


俺はなにも見ていない。

今見たものはすべて悪い夢だ。

そう言い聞かせて弁当づくり戻ろうとするがー


ピンポーン

再びチャイムの音がなる。


そんなに上手くはいかないか…


ガチャ


仕方がなく、

俺は外にいる彼女のために玄関の扉を開けた。


「いきなり閉めるなんて酷くない!」ウガー

ドアを開けた先にいる彼女は

俺に対してプリプリしながら怒っている。


怒りたいのは俺の方だ。

こいつ、マジで何しに来たんだよ…

 


……。



「とりあえず、入れ」カシャ

俺はチェーンを外して、家に入るように促す。


「え?」

すると、彼女は意外そうな顔で俺を見る。


いつもの俺の態度を見ていれば当然だ。

俺もできることなら、彼女に帰って欲しい。

正直、今もこの状況に胃が痛くなってる。


「入らないなら、自分の家に帰ってくれ。 

 俺は別に暇なわけじゃない。」


俺は別に彼女を招き入れたいわけではない。

彼女にに外で騒がれる方が嫌だっただけだ。

彼女のそんな姿を

近所の人や同級生に見られたらどうなるのか。

火を見るよりも明らかだ。



「は、入る。入ります!入りますから!!

 …おじゃましま~す。」

俺が心の中で頭を抱えていると

彼女は頭の悪い三段活用を言い、

少し緊張しながら家の中に入ってくる。


「佐藤くんの匂いがする。」スンスン

「まあ、俺の住んでる家だからな。」

彼女は歩きながら鼻をひくつかせると

そのようなことを言ってきた。

俺としては特に匂わないし、

玲や美鈴も来るので清潔にはしている。


匂うのかぁ…


「この匂いを嗅いでると安心する~」

「気遣いありがとうな」

「?」

俺は五十嵐の気遣いに余計傷つきながら、

彼女をリビングに案内することにした。




……



………



「俺の家をいつ知った?

 そもそも、なんで俺の家に来た?」

俺はリビングにつくと彼女を椅子に座らせ、

疑問に思ったことをすべて聞くことにした。


なぜ、俺が住んでる場所を知っていたのか?

どうしてここにきたのか?

少なくとも、

俺は彼女に自宅を教えたことはない。

だから、ここを知っているはずはないのだが…



「ぐ、偶然、

 佐藤くんがここに入っていくのを見たの。」

動揺しながら、俺の質問に答えていく。

挙動不審で少し怪しい。


「お前、尾行とかしてないよな?」

「ギクッ」

「正直に言えば許してやる。」

露骨な反応をする彼女に俺は言うように促す。


何をしてようが元から許すつもりではあるが

嘘を見逃すほど俺は優しくはない。


「…動物園の帰りにちょっと気になって」シュン

「あの日か」

落ち込みながら彼女は白状する。


動物園

彼女に相談があると言われて行った場所だ。

あの日は帰りは確かに気が抜けていた。


それでも、まさか尾行されてたとは…


「どうしてそんなことを?」

俺は彼女に理由を聞く。

許すにしてもなぜそんなことをしたのか

その理由ぐらいは聞いておきたいからだ。


「だって、佐藤くんと学校に行きたくて。

 今日来た理由もそれで…」

「お前、そんな理由で!?」

前から思っていたが彼女は頭がおかしい。


一緒に学校に行くためだけに尾行するものか?

いや、普通ならまずしないことだろう。


「朝早く来たのは人目につかないためか?」

「…」コクリ

俺が自身の考えを述べると彼女は静かに頷く。

早く来た理由も俺といるのを知人に

見られないように配慮してのことらしい。


「はぁ…」

「怒ってる?」

俺のことを露骨なため息を吐くと

彼女は不安そうな顔でこちらを見てくる。


そんな顔をするなら

そもそもここに来ないで欲しい…

というのが俺の本音だ。


「ご、ごめん。わたしやっぱり帰るよ!」

「朝ごはん食べてきたのか?」

「え?」

謝罪をしてくる彼女の言葉を無視して、

俺は彼女に質問をした。

彼女は突然の質問に驚いている。


「食べてないよ。早起きしてきたから…」

彼女は本当にバカだ。

底抜けのバカだと思う。

彼氏でもないただの男友達のために

なんでそこまでするのだろうか…


「これでも食え。」

そう言って俺は彼女の前に俺の朝食を置く。

俺が食べようと思った玲の弁当の余りだ。


「でもこれって佐藤くんの朝ごはんじゃ…」

彼女は俺に遠慮をして食べようとしない。


こんな時だけなんで遠慮するんだよ。こいつ…


「腹が減ってるんだろ?」

「で、でも迷惑じゃ…」

「もうすでに迷惑してる。」

「うっ…」

俺の指摘に彼女は

苦虫を噛み潰したような顔をする。


今更だ。

常識知らずに常識を語られてもな…


「一緒に登校するんだろ。

 空腹で倒れてこれ以上迷惑をかけるのか?」

「ごめ……

 えっ!?一緒に学校行ってくれるの!!」

彼女は一瞬俺の言っていることを

理解できず落ち込んでいたが、

意味が分かった途端に大きな声をあげた。


「次からは絶対に連絡しろ。

 しなかったら、次は家にも入れないからな」

「うん、絶対する!

 やったぁーーーーーーー!!」


甘いと言われるかもしれない。

かといって、無下に突き放すことはできない。


彼女がやってることはおかしいが

悪意をもっての行動ではない。

だから、今回ぐらいは見過ごそう。

「近所迷惑だ、静かにしろ。

 とりあえず、俺は部屋で着替えてくるから

 お前はそれまで大人しくそれ食べてろ。」

俺はこれ以上余計なことを言わないように

リビングから出ようとドアノブに手を掛けた。


「待って、佐藤くん。」

「なんだ?」

俺は着替えるために部屋に行こうとするが

そんな俺を彼女が引き留めてくる。




「あ、ありがとう…///」

彼女は顔を赤くして

手をもじもじさせながらお礼を言ってくる。

その姿を見て俺はーー


「…っ。」バタン

「あっ…」

俺は彼女になにも答えずに

すぐに扉を閉めて自分の部屋に向かう。


…バタン



俺は自分の部屋に入ると

着替えもせずに鏡の前で頭を抱えた。

勿論、原因は彼女だ。


なんて顔をしてるんだよ…あいつ

俺はお前の彼氏でもないただの友達なんだろ

なのになんで…


「…ちっ。」

顔をあげると俺は思わず舌打ちをした。


目があった。

鏡の中の俺と…


鏡越しの俺の顔は

頬を赤く染めて口元を歪ませている。

五十嵐の笑顔を見ただけだというのに

我ながら本当にだらしない顔だ。


ムッ

俺は口角をあげないように手で押さえた。


これでいい

俺にさっきの顔は似合わない。


俺は自分の顔を確認した後、

リビングで待つ五十嵐のために

制服に着替えることにした。



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