幕間2 嫉妬

「おうまさん!おうまさん!」キャッキャッ

「美晴、メリーゴーランド楽しい?」

「うん!」

俺は美晴ちゃんとの約束を守るために

二人と一緒に遊園地に来ていた。


「おにいちゃ~ん」フリフリ

「手を離すな。危ないぞ」

白馬に乗る美晴ちゃんがこちらに手を振る。

俺はそれを注意しながら

カボチャの馬車から手を振り返す。


「ふふ、美晴もはしゃいでますね。」

「ああ、そうだな。

 遊びたい年頃だろうし丁度いいんだろ。」

俺が美晴ちゃんに手を振っていると

隣に座っている美鈴は

嬉しそうに話しかけてくる。

美晴ちゃんが楽しんでるのが嬉しいんだろう。


今日の美鈴は前に遊んだときと違い

眼鏡を外し、髪の毛もストレートにしている。

綺麗になったというよりも垢抜けたようだ。


「翔さん、今日はありがとうございます。」サス

「ああ、約束だしな…っ!?

 こんなところでやめろ!!」

約束のお礼をしながら、

下腹部を触ってくる彼女に俺は注意する。


「ええー。

 先輩はこういうお礼の方が

 好きなのかと思ったんですが~」

「俺はお礼にこういうのは望んでいない。

 二度としないでくれ。」

遊び半分な彼女に少し強めに言う。


お礼で体を売るのは倫理的におかしいし、

そもそも、公共の場所でやることではない。

だから、厳しく言わなければならない。


「翔さん、顔が怖いですよ。」

「あまり酷いようなら、

 美晴ちゃんには悪いが俺は帰る。」

あまりにふざけた態度をとるので

俺は帰ると言う。

美晴ちゃんの手前、本気で帰る気はないが

美鈴を一度大人しくさせるためだ。


「へぇ…

 私にそんなことを言っていいんですか?」

彼女はスマホをちらつかせてこちらを見る。

その目を見ていると吸い込まれそうに感じる。


「…っ」

俺は彼女に弱みを握られたままだ。

いくら、玲が大丈夫と言っても

俺は彼女に被害が及ぶのは嫌だった。

だから、大人しく従うしかない。


「人に見られるかもしれないぞ。

 そしたら、おまえだってーー」

「いいじゃないですか。

 そうすれば、既成事実になりますし。」

美鈴は何も問題ないように返答をする。


彼女から嫌がる様子は見えない。

もしかしたら、

彼女は本気でやるのかもしれない。

そう考えると鳥肌が止まらない。


「美鈴やめろ…それだけはやめてください。」

俺は彼女に頭を下げる。

こうなってはプライドなど捨てるしかない


「…っ」ゾクゾク

彼女は顔を伏せて震えている。

情けない俺の姿を見て笑っているのだろう。


「冗談ですよ。冗談。

 流石に美晴の前ではしませんよ。」

助かった。

それにしても、悪い冗談だ。


美晴ちゃんがいなかったらしていたのか?

 

「おにいちゃ~ん!おねえちゃ~ん!」

再度、美晴が俺たちに声をかけてくる。

どうやら、美鈴との会話に夢中になってたら 

メリーゴーランドが終わっていたらしい。

 

「行きましょうか。翔さん」サッ

「ああ、ありがとう」ギュ

美鈴が手を差し出してくれたので

俺はありがたく彼女の手をとる。


グイ

「うわっ!…んん!?」

急に引っ張られて

彼女に無理矢理キスをさせられる。

そして、彼女はそのまま顔を

俺の耳元に持っていき…


「誰かに見せるなんてことしませんよ。

 だって、先輩のこんな姿は

 誰にも見せたくありませんから…」

俺にしか聞こえないくらい小さな声で囁いた。



……



「美晴ちゃん今日は楽しいか?」

俺たちはフードコートで昼食を食べた後、

今はそのまま食休み中だ。

美鈴は飲み物を

買いに行くと言って席を外している。


「うん!たのしい。

 つれてきてくれてありがとう!」

美晴ちゃんはハンバーグを食べれて上機嫌だ。

前回遊んだときも食べていたので

余程、ハンバーグが好きなのだろう。


「おにいちゃん。ありがとう」

「何度も言わなくていいぞ。

 今日連れてきたのは約束したからだし。」

「ちがうよ。おねえちゃんのことだよ。

 おねえちゃんよくわらうようになったの!」

無邪気そうに美晴ちゃんは笑う。


美鈴は笑顔になることが増えたらしい。

確かに今日一日でも

俺たちとの会話を楽しんでるようだった。


俺と美鈴の関係は間違っているが

彼女自身が変わったのは間違いない。

それがいいことなのかは

俺の口からはとても言えないが

周りからみたら良い変化に見えるのだろう。


「ぜんぶ、おにいちゃんのおかげ。」

俺のおかげだと言ってくれる美晴ちゃん。


そんなことはない。

俺は彼女のことを歪めてしまった。


美鈴を助けなければ…

余計なことをしなければ…

俺がしたことは間違っていたのではないか…

そう思っていた。


「だから、ありがとうね。おにいちゃん」

「ああ、よかった…」


ありがとう

たったその一言で俺は救われた気がした。

俺のやったことを認められた気がする。


彼女に言われるまで

俺はずっと自分のことを責めていたから…


「だから、これはそのおれい」チュ

「これも昼ドラで覚えたのか?」

「うん」

俺の頬にキスをしてくる美晴ちゃん。

最近の子供はませてるなと微笑ましく思う。


「やくそくをまもってくれたおにいちゃんは

 わたしのおよめさんにしてあげる!」

「それを言うならお婿さんな」

俺は美晴ちゃんの彼女からお嫁さんに

バージョンアップしたようだ。


「まあ、大きく「駄目よ。美晴」なっ」

前と同じように

返答をしようとするが遮られた。


「わがままは駄目よ。ね、翔さん?」

「…っ。ああ」

戻ってきた美鈴が

俺のことをじっと見ながら隣に座ってくる。


いつから、見ていたんだ…


「えー、わたし。

 おにいちゃんといっしょがいい!」ダキ

離したくないとばかりに

俺の腕に抱きついてくる美晴ちゃん。

その光景はすごく微笑ましい。



「へぇ…」



ゾク

横から威圧感を感じる。

背中から汗が吹き出てくる。


「ふふ、どうしたんですか?

 翔さん、体が震えてますよ」

耳元でそっと囁いてくる美鈴。



ヤバい…

俺の体が警鐘をならしている。

まさか!美晴ちゃんを…


「な、なにを!」


「大丈夫よ。美晴

 翔さんはお姉ちゃんのモノだから

 ずっと一緒に入れられるよ。」

俺のことを無視して、

美鈴は美晴ちゃんに説明していく。


俺が自分のモノだと… 


「ほんと!みはるもいっしょ?」

「ええ、一緒よ。」ダキ

そう言って俺の体に強く抱きついてくる。

美晴ちゃんに

自分のモノだと見せつけるように…


「おねえちゃんとおにいちゃんらぶらぶだ!」

「そうよ。

 私たちは愛し合ってるの。ね、翔さん?」

片手にスマホを持った美鈴と目が合った。


「あ…ああ、そうだな。

 俺たちは愛し合っている。」

俺は美鈴の言っていることに賛同する。


余計なことを言うな…

そう言われたような気がした。

だから、愛し合っているということを

否定することはできなかった。


「わたしもおにいちゃんとらぶらぶ!」ギュ

「ふふ、そうね。

 美晴と翔さんはらぶらぶね。」

美鈴の真似をして、

美晴ちゃんも俺の体に抱きつく。

それを見て、美鈴も微笑ましいのか笑ってる。


よかった。流石に妹には嫉妬はしないのか


「翔さん」

「なんだ?」

美鈴は美晴ちゃんに聞こえない程度の声で

俺に声をかけてくる。 


「あまり度が過ぎると…例え美晴でも…」

彼女の言葉に心臓の鼓動が一気に加速する。

そこまでで理解した。


彼女は俺が美晴ちゃんに

キスされたのを見ていたんだ。

だからこそ、美晴ちゃんに

俺が自分のモノであると見せつけた。


 「賢い翔さんなら分かりますよね?」


おそらく、彼女は許せないんだ。

俺が他の女に取られそうになるのが。

例え、自分の妹であったとしても…



彼女はもう…妹ですら許容できないのだ…






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