幕間4 友愛


「服よーし、髪の毛よーし。

 うんうん、これで準備OKだね。」

私は鏡の前で一人満足そうに頷く。


ブラックデニムに白いサマーニット

我ながらよく似合ってると思う。


「おはよう、朱里」

「お母さん、おはよー」

私が着替えが終わりリビングに行くと

お母さんが朝食の準備をしていた。


「そんなにおしゃれしてどうしたの?

 やけに気合が入ってるじゃない。」

お母さんが私のテンションを疑問に思ったのか

私に直接、理由を訪ねてくる。


「えへへ、内緒!」

私はお母さんに理由は言わない。

いくら、お母さんにでも言えない。


だって今日は、


大切な友人との秘密のおでかけなのだから








「うーん…。どこにいるかな?」

私は待ち合わせの駅につくと彼を探す。

彼の見た目はとても分かりやすい。

だから、見つけるのも簡単だろう。


「あ!いた。」

案の定、彼はすぐに見つかった。

いつもよりも不機嫌そうな顔で待っている

彼の周りには人が寄り付かないので

簡単に見つけることができた。


「待った?」

私は漫画とかのお約束を試してみる。

返ってくる彼の反応が楽しみだ。


ここは優しく

『今、来たところ』って返してくれるかな?

彼氏の佑樹くんならそう言ってくれるけど、

目の前の彼はどうなのか私には気になった。


「5分の遅刻だぞ。意外とルーズなんだな。」

目の前の彼…

佐藤くんは呆れたようにそう言ってくる。


イラァ

すごくむかつく。


「女の子には色々あるんですぅ~」

私は少しふてくされながら理由を言う。


せっかく、かわいい服を選んだのに…



「別に俺と会うぐらいだろ?

 そんな時間をかける必要ないだろう。」

彼の一言が朝の私を全否定してくる。

デリカシーのない男だ。

私に対して冷たい彼に

期待をしてしまった自分が間違っていた。


「で、どこで愚痴を聞けばいいんだ?」

彼はさらっと話題を変えてくる。



いや、私はさっきから

友達に何を期待してるんだろう…

佐藤くんはただの友達。

だから、自然体なのが正解。

彼は間違っていない。


そうなんだけど…


「おい、聞いてるのか?」

私は彼に呼び掛けられ現実に戻される。

早く彼に返事をしないと


「う…うん、今日は動物園に行こう!」

「動物園に?…愚痴を言うためにか?」

彼は不思議そうに私を見てくる。


そうだった。

彼は普通に遊びに来た私と違い、

愚痴を聞くために来てくれたんだ。


「動物を見ながらの方が癒されるでしょ?」

「そんなもんなのか…」

私の適当な言い訳に彼は納得してくれる。

騙すようで胸が痛い。


だけど、

電話でいいとか言わない

彼の中途半端に甘いところが悪い。

まあ、彼のそういうところを

私は気に入ってるんだけどね!


「じゃあ、いこっか!」

「あ、五十嵐。ちょっと待ってくれ!」

「な、何かな?」

彼は勢いで誤魔化そうとする私を止める。


やっぱり、誤魔化せないよね。

正直に遊びにきただけと言おう。

彼は怒って帰るかもしれない。

私が悪いのだから仕方がない。



「その…なんだ…」

彼はどこか歯切れが悪い。

一体どうしたのだろうか?と思っていると




「服…似合ってるぞ」




彼はそっぽを向きながら私に言ってくる。


ドクンドクン

鼓動が早くなる

胸の高鳴りを感じる 

こんなのズルい

不意打ちなんて卑怯だ



そんなこと言われたら誰だって…





「あざとい…」ボソ

「は?」

「もう!先に行くからね!!」スタスタ

「待てよ!先に行くな」

私は足早で駅の方に向かっていく。

彼を完全に置いていっているが

私には彼を気にしている余裕がなかった。


「佐藤くんのバカ…」


動物園に着くまでの間、

私は手で必死にやけ顔を抑えるのだった。







……



………


あの後、動物園に着いた私たちは

色々な動物を見て回ることにした。


「ライオンだ!

 もふもふしててかわいいね~」

「そうだな」


「うわ、ゴリラだ~

 近くで見るとイケメンなんだよ。」 

「そうなのか?」


「ねえねえ、パンダパンダ!!

 写真取ろうよ!!!」

「いいぞ」


とこんな感じに回っている。

動物を見るのはとても楽しい。

だけど、私はすごく不満だ。


「佐藤くん!!」

「なんだよ。急に大きな声だして」

私が急に大きな声を出すと

鬱陶しそうにこちらを見てくる。


もぉーー!!

完全に怒った!!


「動物園まで来て塩対応は流石に酷くない!」

「そんなことは「あるよ!」ないんだが…」

私は彼の言葉を遮る。


「もっと、ハッピーに楽しもうよ!」

「俺は俺の楽しみ方がーー」

「あ!キリンさんだ。首ながーーい!!

 りぴーとあふたーみー?」

「話を聞けって!」

私は彼を強引に楽しませようとする。


流石に勢いじゃ駄目か~

こうなったら奥の手だ。


「佐藤くん…」ウルウル

「うっ…お前…なにも泣かなくても…」

目に涙を貯めて上目遣いで彼を見る。

そう、泣いたふりだ。

前回はバレてしまったのであれから練習した。


「お願い…佐藤くん」ポロポロ

私の目から涙がこぼれ落ちる。


佐藤くん!練習の成果を存分に味わうがいい。


「………。

 ア、キリンサンダ。クビナガーーイ」

彼はやってくれた。

すごく棒読みだったけどやってくれた。


「…ちょろ」プッ

私は思わず吹き出し本音を口にしてしまう。

だって、

あの佐藤くんがばかみたいなこと言うなんて…


おもしろすぎる!!!


「おまーーーーっっ!?ふざけるな!!!」

吹き出して笑う私に顔を真っ赤にして怒る彼。

別に彼も本気で怒っているわけではない。

現にそっぽを見てツンツンしてるだけだ。


「こういうのはもう金輪際やめてくれ。

 分かったな?」

「えーどうしよっかな~」

「勘弁してくれよ…」

私が迷ってる振りをするとぐったりする彼。


無理矢理はよくなかったと思う。

それでも、彼のいつもと違う姿が見たかった。

実際に新しい彼がいくつも見れてよかった。



棒読みではしゃいだ振りをする彼。

笑われて顔を真っ赤にして怒る彼。

弄ばれてぐったりする彼。

私の目にはどの姿も新鮮に映る。

彼の新しい姿をもっと見てみたいと思う。


「今度は俺のペースで楽しませてくれ。」

「いいよ。だけど、また塩対応したら~」

「分かった、分かった。」

「ほんとに~」 

本気かどうかジト目で見て確認してみる。


佐藤くんはなんだかんだ誤魔化しそうだし


「あんまり疑うなら帰るぞ。」

「佐藤くん!!

 まだまだ、今日は長いよ~

 だから、最後まで楽しもうね!」

私は早口で話の流れを変えた。


危ない危ない調子に乗りすぎた。

怒って帰ったら元も子もないのに。


「はしゃぐのは分かるが子供じゃないんだ。

 あまり羽目を外しすぎるなよ。」

「は~い、パパ。」

「誰がパパだ!!」

からかう私にしぶしぶ付き合う彼。

お互いに容赦のない関係。


「ずっとこのままでいたいな…」

「なにか言ったか?」

私は無意識のうちに言葉を呟いていたようだ。


「なんでもないよ。」


今言ったことは…忘れよう。

私たちはあくまで友人関係。

私には彼氏がいる。

彼氏より佐藤くんの方が

一緒にいたいとか絶対に思ってはいけない。


それでも…



先ほどの言葉が頭から離れることはなかった。


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