1章 俺と寝る女たち

case.1 西園寺玲 前編

去っていく少女が見えなくなるまで見送り、

公園の周りを散歩していると

辺りはすっかり暗くなっていた。


「そろそろ帰るか」

俺は家に向かって歩き始める。


「…っ。…だ。」

何か聞こえてくる。

時間も時間なので少し怖い。


「誰かいるのか?」

「な、なんだ…」

返事があったのでどうやら幽霊ではないらしい

なら、安心だ。

それよりも涙声なのが気になる。


辺りを見渡すと

ベンチに座っている誰かが見えた。

よく見ると俺の学校の制服を着ている女の子だ。

黒髪でのポニーテールで

顔はきりっとしていて

イケメンにも見える美人だ。


「なぁ、こんな時間に何してるんだ?

 もう学生は帰る時間だぞ。」

「貴様は…佐藤翔!」

向こうは俺のことを知っているようだ。

俺はある意味有名人だしな。

残念ながら、彼女のことは知らないがな。


「貴様みたいなやつが私に何の用だ!

 私は貴様のように軽薄な人間じゃないぞ。」

俺を拒絶するように捲し立ててくる。


はいはい、そうですね。

どうせ、俺は軽薄な人間ですよ。


「泣いてるみたいだったから、

 声をかけただけだ。

 それに学生はもう帰る時間だろ。」


「そんなの私の勝手だろ。

 貴様などに心配される筋合いはない!」

おせっかいをかけたが

つっけんどんに返される。

まあ、余計なお世話だな確かに


「分かったよ。

 邪魔して悪かったな。」

俺は背を向けて歩き出す。

たまに親切心を出すとこれだ。

人生とはままならないものだな。


「ま、待ってくれ」

「あ?まだなにか文句でもあるのか?

 俺だってあんたにレッテルを

 貼られて苛ついてるんだけどな。」

呼び止められたので苛立ちながら返事をする。


「私が悪かった。すまない。

 ただ、貴様と話をしたいだけなんだ。

 だから、そんなに怖い顔をしないでくれ…」

「チッ」

「ゆ、許してくれ。」

「はぁ…で?

 用件はなんだ。手短に頼む。」


先ほどまでの強気の態度はどこに言ったのやら

しおらしくなってしまった偏見女。

こんなやつに構ってる時間が無駄なんだが。


「貴様に相談したいことがある。」

「会ったばかりの俺なんかに

 話すことなんてないだろ。

 俺はあんたのこと知らないし。」

相談なんてものは信頼できる

人間にするものであり

間違っても初対面にするものではない。


「貴様っ…!?私のことを覚えてないのか?」

「俺のことを偏見で

 見るような女に興味はない。」

「くっ…」

あちら側は俺とキチンと面識があるらしい。

どうでもいいことだが。


「私の名前は西園寺玲さいおんじれい

 貴様と同じ学校の生徒会長だ。」

「俺は知ってると思うが佐藤翔だ。」

西園寺が自己紹介をしてくれたので

ようやく名前を知ることができた。

うちの学校の生徒会長で

顔とスタイルがいいことで確か有名だった。

確か学校で一度絡まれたことが

あったような気がする。

その時のことが原因で

俺は彼女のことを記憶から消していたらしい。


「まあ、どちらにせよ。

 あんたと俺は他人だ。

 俺は帰らせてもらう。」


「待ってくれ!

 君を偏見な目で

 見ていたこと申し訳なく思っている。

 本当に申し訳ない!!

 だけど、今だけは…今だけは!

 話を聞いてくれないだろうか?」

そう言って彼女は頭を下げる。


「…っ。」ポタポタ

下を向いてる彼女から何が滴り落ちている。

泣いているのだろう。

女の涙はめんどくさい。

構わないとイケない気がするからだ。


「はぁ…。話せよ、その相談とやらを」

「ありがとう!佐藤翔」

笑顔で言われると許せる気になる。

女って本当にずるい。


「佐藤翔。君にとって恋愛とはなんだ?」

「は?」

真顔で西園寺は俺に聞いてくる。


「私には付き合っている彼氏がいるんだ。

 優しい彼が私は好きだった。

 だから、付き合うと決めたときに

 彼と一緒にいるだけで幸せになれるはず。

 そう思っていたんだ。」

「西園寺…さんが言うんなら、

 そうなんじゃないのか?」

別に興味もないことをべらべら話す。

他人の恋愛などつまらない話だ。


「西園寺か玲と呼んでくれて構わない。

 でも…違ったんだ。

 彼は付き合ってから変わったんだ。」

「…」

俺は黙って彼女の話を聞く。


「彼の態度がつめたくなったんだ。

 付き合うよりも明らかに…

 デートに出掛けることもなくなり、

 私を避けるようになった。」

「なるほどな」

何も分からないがとりあえず頷く。

正直、痴情のもつれなどどうでもいい。


「そして、今日聞いてしまったんだ。

 彼は他の女に対して

『僕があの女と付き合ったのは

 ステータスのためだ。

 じゃなかったら、

 あんなつまらない女と付き合わない』

 って言っていたんだ。」

「それは辛いな。」


本当にクズな男っているんだな

逆に感心する。

しかも、こんな堅物が好きになるくらいだ。

見た目はまともなのだろう。


「私はどうすればいいのか分からなくて!

 こんなこと誰に言えないし、

 信じてもらえない!」

涙目になりながら必死に言ってくる。

そんなになるなら、とっとと別れろよ。


「だけど、俺に相談することか?それ」

「君だったら経験豊富そうだし…」

「残念ながら、

 俺は恋愛なんてしたことはない。

 体の関係だけだ。」

誠に残念ながら、生まれてこの方17年。

俺は一度も恋をしたことはない。


「な!?

 それなら、君の噂は本当なのか」

そう言って彼女は

体を守るように手で隠した。


「噂ってどれのことだ?

 女をとっかえひっかえしていることか?

 人の女に手を出していることか?

 女を傷つけて回ってることか?」


「…」コクリ

彼女は頷く。

どうやら、全てのようだ。


「君は酷い男だとよく聞く…」


「俺は契約を結んで体の関係になっている。

 あくまで互いの利益のためだ。

 だから、

 彼女たちを傷をつけたことなんてない。

 もし、何かあっても責任を取るつもりはある

 それでも俺は酷い男なのか?」


「それは…」


「まあ、あんたみたいな

 人を表面でしか見ない人間に

 どう思われようがどうでもいいがな」

「…」


そもそも今の時間も無駄でしかない。


「私は浅い人間だったのだな…」

「そうなんじゃないか。

 あんたは見る目ないし。」

「遠慮がないな。君は」

ははは、と渇いた笑いをする西園寺。


「あんたに取り繕ってどうする」

「それは私を気に入っているからかい?」

「逆に決まっているだろう。バカか?」

こいつとはやはり分かり会えない。


「嫌われたものだな」

「別に嫌いなわけじゃない。

 あんたに関わるのが面倒なだけだ。」

「私のこと嫌いじゃないのか?」

都合の良い部分しか聞いていないのか?こいつ


「まあ、理由を作って別れるんだな。

 そんなやつと付き合ったって

 あんたが傷つくだけだ。」

「こんな私のために考えてくれるなんて…

 君は優しいんだな。

 でも、別れる理由なんて…」

「早く終わらせたいから案を出しただけだ。

 これ以上、

 恋愛なんて面倒なことに俺を巻き込むな。」

「あ!」

なにやら、思いついたようだ。

これで無事こいつの相談も終わりだ。

これで別れようが

別れまいが俺には関係ない。

どうせ、こいつと関わることはもうない。



「佐藤翔!私と寝てくれ!!」


ない…よな?

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