case.3 五十嵐朱里視点 

私には同級生の彼氏がいる。

名前は佑樹くん。

彼の見た目は子供っぽくてかわいい。

中学生とよく間違えられるほどだ。

本人がそれを気にしているとこもかわいい。


「ねえ、朱里ちゃん。

 これから、うちに来ない?」

部活が終わった後、私は彼氏に家に誘われる。

付き合う前からもよくあったことだ。


「いいよ。」

私は笑顔で彼に答える。


「無理はしなくていいからね。

 辛かったら、僕に言ってね。」

「大丈夫だよ。

 むしろ、佑樹くんこそ無理してない?」

彼は優しい。

いつも私のことを気にかけてくれるし、

こうやって心配もしてくれる。

デートもよくしてくれるし、

いつも、私のことを優先にしてくれる。

佑樹くんは私の立派な彼氏だ。


「大丈夫だよ。じゃあ、行こうか」

「うん」 

彼が差し出す手を私は優しく握る。


私は佑樹くんのことが大好きだ。

お互いのことを思い合っている。

私たちはこれからずっと一緒。

これから先もずっとそれは変わらない。





……  


………


「朱里ちゃん!!!……うっ!!!」グタリ

「…っ。」

佑樹くんはわたしの名前を呼びながら果てる。


果てた後に私の胸によりかかってくる彼は

可愛らしくて私の母性が刺激される。


「どうだった?」

「気持ちよかったよ。朱里ちゃん」

私の胸に顔を埋める彼に

一応、感想を聞いたが答えは分かっていた。

だって、彼の表情に気持ちいいと出ていた。

顔に出やすい彼のことを私はかわいいと思う。


「朱里ちゃんはどうだった?」

「私はいつも通り…」 

私は彼に言われたことに正直答えた。

ここで感じると答えても

嘘をついていることがすぐばれて

彼との関係がギクシャクするだけだから…  


「そう…」 

彼はがっかりしたのかうつむいてしまう。

男として自信がなくなるのだろう。


だけど、これに関しては

彼のやり方の問題なのか

私の体質の問題なのか判断がつかない。


ただ、一つ言えるのは

私は彼との行為に感じないということだけだ。

そのことがお互いを傷つけている。


「ごめんね…辛いよね、朱里ちゃん。」

「いいよ。  

 私は求められるだけで幸せだから。」

謝る彼に私は気にしていないように言う。


これは嘘だ。

本当はすごく気にしているし辛い。

だって、 

佑樹くんとの行為で感じないということは

彼の愛を感じられないのと同義だから…


「でも…男として…」

「男のプライドとか心配しなくていいよ。

 だって、私は君を愛しているからね。」ギュ

「朱里ちゃん…」

私はいじけている彼を優しく抱き締める。


「ちょっとずつでいいから頑張ろうね。

 私は君のことを待ってるから。」

「朱里ちゃん……僕はなんで…」ポロポロ

私がそう言うと彼は泣き出してしまう。


彼は今、どんな感情で泣いているのだろうか

男としての不甲斐なさ?

私への罪悪感?

それは彼にしか分からない。


「大丈夫だよ。

 男の子なんだから泣かないの」ナデナデ

「朱里ちゃん!うぅ…」

私の胸で泣く彼のことを私は慰める。

撫でていると私の心が安らぐ。


少しずつ

そう少しずつでいい。

私たちは私たちのペースでいい。

だって、感じなくても愛は育めるから。


この時の私はそう思ってた…





……



………


「なぁ、もうやめないか?」

「…お願い。やめないで…」

私は最低な女だ。

彼のことを裏切ってしまった。



「…五十嵐」

「はぁぁぁああん!…そこぉ!!」

私は今、彼氏でもない男に抱かれている。

あまりの快楽に頭をめちゃくちゃにされ

私はただ快楽を貪る獣になっていた。


「佐藤くん…私っ!…っっっっっ!!!」

彼氏との行為では味わったことがない快楽に

私は限界を向かえ体を痙攣させながら果てる。


「はぁはぁ…」ギュ

果てた後もそのまま男を抱き締め続ける。


彼氏とは違い、とても逞しい肉体。

この人に抱きつくと不思議な安心を感じる。

包まれている感覚に胸が高鳴る。

普段、私は私が佑樹くんにする行為だ。


こんなにも心が満たされるなんて…


「ねぇ、キスしてよ…」

私は目の前の男に甘えながらキスをねだる。

こんな風に甘えるのは私ではない。

でも、彼にはどうしてか甘えてしまう。



「キスは駄目だ。完全に浮気になる…」

浮気になると言われて相手に拒否される。


「むっ!」

拒否られたことに私は怒りを感じる。


だって、おかしな話だ。

もうすでに一線は越えているのだ。

完全に浮気だろうに。


「なんだそのんんーーーー!?」

私は彼に強引なキスをして、舌を捩じ込む。


「んむっ…んっ…はっ…んん」

彼の言いたいことは理解している。

だけど、私の口が切なくなっているのに

おあずけされるのは嫌だった。

だから、無理矢理するしかなかった。


「ここまでしたら、関係ないよ。」プハッ

「あのな、お前のためを考えてだな!!」

サバサバした態度の私に説教を始める彼。


「ふふふ」

説教をする彼を見て思わず笑ってしまう。

私が笑ってしまうの仕方がないことだろう。


だって、

現在進行形で人の彼女と行為をしてる癖に

浮気について説教をしてくる浮気相手。


こんなもの笑わない方が無理がある。


「おい、聞いてるのか?

 …っ。急に動き始めるな。」

「あぁん…。

 難しいことは考えずに今はただ楽しもうよ!

 きもちいい…きもちいいよ!佐藤くん!!」

私は彼の説教のせいで

止まっていた行為を無理矢理再開させた。


「落ち着け…っ!五十嵐…はぁ」

優しく私の頬を撫でてくる手は

大きくてゴツゴツしている。

その手で触られたところは

どんどん熱を帯びていき、火照っていく。


彼は止める振りをして

私を誘っていると錯覚してしまう。


「くぅぅ…もっと激しくして!」

やはり、彼との行為はとても気持ちがいい。

まるで宙に浮かんだような気分にさせられる


もしかして、これが愛…


『朱里ちゃん』


いや、違う。

これはただの快楽。

だから、私が好きなのは彼氏だけ。

私は頭に浮かんだ感情を違うと

自分に言い聞かせる。


「ひゃぁぁぁぁっ!?ふわぁ…!!」

しかし、快楽の前に全てが吹き飛ばされる。

私は分かってしまった。

この人は私を快楽に溺れさせてくれる。

この人になら甘えられる。

この人の前では本当の私になれる。

段々とこの人のことしか考えられなくなる。


私には大切な彼氏がいるのに…


だけど、大丈夫。

これは一度だけの関係。

もう二度とすることはない。

この行為に愛なんてものはない。

私は自分の心に言い聞かせる。


『◯◯◯◯◯』

愛しい彼の姿が頭の中に浮かんでくる。

しかし、その映像はどんどんぼやけていく。



ごめんね、佑樹くん。

君のことは本当に愛してるの



だけど…




今だけは…




彼のことを愛ーーーー

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