第7話「月見透織」
「ここだよ」
連れてこられたのは高級そうな美容院、という訳ではなく良くも悪くもどこにでもありそうな美容室だった。
「てっきり高級なとこに連れてかれるかと思ってた」
「高校生が髪切るのに高級なとこ行く必要なんてないよ」
「へー、そういうもんなんだ」
「うん。ほら、入るよ?」
一足先に店舗の中に足を踏み入れた星那に手招きされ中に入った。
「いらっしゃい」
「どうも…」
「今空いてるから直ぐにできますよー」
「あ、それならさっそくお願いします」
そう言って指定されたバーバーチェアに座った。
「彼女さんは切らないんですか?」
「え、いや…」
「今日は私はついてきただけなのでー」
あははー、と言って手をふる星那。いや、まず彼女って言われたこと否定しよ?
そう思っていた矢先星那は俺の耳元に顔を近づけてきた。
「ねぇ、渚沙の彼女に見えるって」
優しい吐息とともに甘くとろけるような言葉を耳元で呟いた。
一瞬我を失い、ハッとして後ろを見た時にはもう美容師さんと親しげに話していた。
あぁ、心臓の鼓動が早い…星那の言葉にドキッとしてしまった証拠だ。
そんな抑えきれない鼓動と頬の紅潮の中、星那は美容師さんと俺の髪型をどうするかを話し合っていた。
「はぁ……頑張れ、俺」
そう1人呟いた。
「じゃあそんな感じで行きますね!」
ふと後ろからそんな声が聞こえた。
「はい!よろしくお願いしますー!」
どうやら俺の髪型会議が終わったようだ。
俺は未だ落ち着かない鼓動と共に散髪を開始した。
♢♢♢♢
「どうかな?」
そう言って美容師さんは後頭部の方に鏡を持ってきて全体的に見えるようにした。
髪の長さは目にかからない程度の長さで、ナチュラルなマッシュになった。
「いいっす、めっちゃ。最高です!」
素直な感想を口にすると美容師さんは嬉しそうに顔を明るくした。
「おぉ!よかったあー!君すごくイケメンだし失敗しないかドキドキだったんだよ」
「イケメンなんて…とにかくありがとうございます!めっちゃいい仕上がりになりました」
これはお世辞とかではなく本当に満足のいく髪型になった。
これはいい美容室教えてくれた星那に感謝だな。
待合室にいる星那のところにいき、髪型を披露する。
「どう…かな?」
俺の髪をじっくり見たあと星那は親指を立てた。
「うん、最高!イケメンだよめっちゃ」
「よかった、いい所につれてきてくれてありがとね」
俺は星那に感謝の言葉を口にする。
「どーいたしましてっ!」
そんな感謝の言葉を聞いてマスクの上からでも分かるくらい顔を明るくして返事をした。
そうして俺らは会計を済ましてから次の場所へ向かって移動を始めた。
♢♢♢♢
歩いて少し疲れた俺らは近くにあったベンチで休んでいた。
「あ、星那近くにあった自販機で飲み物買ってくるね!渚沙もいる?」
「俺も欲しいから一緒に行くよ」
「いーや、渚沙はここで休んでなさい!じゃあ行ってくるねー」
「え、いやちょ…」
謎に叱られた俺はその場に残され一人ベンチに座る。
「懐かしいなぁこの感じ。みんなもいたらもっと楽しいんだろうな…」
そんな叶いもしない夢を俺は独り言ちる。
「ま、今はこの時間を全力で楽しもう」
「だーれだっ!」
そう呟いたとたん後ろから目隠しをされた。
「だーれだって、2回も同じことして引っかかるやついないって」
そう言って手を目から振り解いて後ろに振り返った。
「な?せい…な……」
だがそこに居たのは星那ではなく、
「ぶっぶー!」
「
「久しぶりだね!なぎにぃ!」
俺たち幼なじみの中で2番目に年下の
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